Appleは、基本モデルの第11世代iPadを2年ぶりにアップデートし、A16チップを搭載、最小ストレージを128GBに倍増しながら価格は58,800円を維持すると発表した。しかし新モデルは、同社が推進するApple Intelligence AIプラットフォームをサポートしない唯一の新型iPadとなる。
性能向上とストレージ倍増、価格据え置きの新型iPad
新型iPadは、前世代の第10世代iPadから主要な内部仕様が更新された。最も大きな変更点はA14チップからA16チップへのアップグレードである。Appleによると、このプロセッサの変更により前世代と比較して約30%のパフォーマンス向上が実現したという。さらにA13 Bionicプロセッサを搭載した旧モデルと比較すると、全体的なパフォーマンスは最大50%向上している。
Appleは競合製品との比較も提示しており、新型iPadは「最も販売台数の多いAndroidタブレットよりも最大6倍高速」と主張している。この性能向上にもかかわらず、バッテリー持続時間は従来通り「一日中使用可能」な水準を維持しているとしている。
ストレージ面では、最小容量が従来の64GBから128GBへと倍増した。さらに256GBおよび新たに512GB構成も選択肢として追加された。この大幅なストレージ増強にもかかわらず、価格は前モデルと同じく58,800円(Wi-Fiモデル)から維持されている。セルラーモデルは84,800円からとなる。

外観デザインや接続性については前モデルからの変更はなく、USB-C端子、Wi-Fi、Bluetoothを搭載し、カラーバリエーションはブルー、ピンク、イエロー、シルバーの4色が用意される。アクセサリ対応についても前モデルと同様に、Apple Pencil(USB-C)による描画・スタイラス入力と、Magic Keyboard Folioによるキーボード入力をサポートする。
新型iPadは予約受付を開始し、3月12日に出荷が始まる予定だ。
Apple Intelligence未対応、唯一の新型iPadに
新型iPadの発表において特筆すべき点は、Appleが強力に推進しているAIプラットフォーム「Apple Intelligence」に対応していないことだろう。これは最近発表されたApple製品の中では唯一の例外となる。
新型iPadと同日に発表された新しいiPad AirはApple Intelligenceをサポートしており、昨年発売されたiPad MiniとiPad Proもこの機能に対応している。つまり、新型iPad(A16)はAppleのタブレットラインナップの中で、唯一Apple Intelligenceをサポートしない新モデルとなる。
この制限の主な理由はA16チップのハードウェア仕様にある。Apple Intelligenceが機能するには最低でもA17 Proチップ(iPhone 15 ProやiPad mini 7に搭載)以降、またはM1以降のチップが必要とされる。さらに重要な点として、Apple Intelligenceには最低8GBのRAMが必要だが、A16チップは6GBのRAMしか搭載していないため、この要件を満たさない。
結果として、新型iPadは最新のiOS 18は完全にサポートするものの、作文ツールやジェン文字、強化されたSiriなどのAI機能にはアクセスできないことになる。
エントリーモデルとしての戦略的位置づけ
新型iPadにApple Intelligenceを搭載しないというAppleの決定には、製品ラインナップにおける差別化戦略の側面もあると分析される。エントリーモデルのiPadにAI機能を追加しないという決定はiPad mini 7の共食いを防ぐための合理的な戦略かもしれない。
Appleのタブレット製品ラインナップは過去において混乱を招くことがあった。第10世代iPadは2022年に発売された際、現代的なデザイン、高速なチップ、大きな画面を備えていたが、ドルベースでは長年変わらなかった329ドルの基本価格から449ドルに値上げされた。だが複雑なことに、Appleは第9世代モデルを329ドルで引き続き販売しており、どちらが真の「基本モデル」なのかが不明確だった。
今回の新型iPadの発表により、Appleのタブレットラインナップは次のような階層構造となる:
- iPad Pro:最高性能モデル(M2チップ以上、Apple Intelligence対応)
- iPad Air:ミッドレンジモデル(M3チップ、Apple Intelligence対応)
- iPad mini:小型高性能モデル(A17 Proチップ、Apple Intelligence対応)
- iPad:エントリーモデル(A16チップ、Apple Intelligence非対応)
この構造により、AppleはAI機能の有無を明確な差別化ポイントとして活用し、基本モデルを低価格で維持しながらも、AI機能を求めるユーザーには上位モデルへの移行を促す戦略を取っていると考えられる。
ストレージの倍増とパフォーマンスの向上にもかかわらず価格を据え置いたことで、新型iPadは前モデルよりもコストパフォーマンスが向上している。これは予算重視のユーザーや教育市場向けの提案価値を高める一方で、AI機能の欠如によって上位モデルとの明確な差別化を実現している。
だがマイナーなアップグレードであろうとなかろうと、基本モデルのiPadは依然としてほとんどの人にとって適切なiPadだろう。AI機能よりも基本的な性能と価格のバランスを重視するユーザーにとって、新型iPadは引き続き魅力的な選択肢となるに違いない。
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