Trump政権による新たな輸入関税計画の発表を受け、ハイテク大手Appleがその影響をいかに緩和しようとしているのか、業界の注目が集まっている。海外、特に中国での生産に大きく依存するAppleにとって、この関税は製品コストの急騰に直結しかねない深刻な問題だ。報道によれば、同社はサプライヤーへの価格交渉や一時的なコストの自己負担など、複数の戦略を検討している模様だ。
関税の衝撃:Appleを揺るがす構造的課題
先週発表されたTrump政権の関税計画は、世界各国からの輸入品に対して極めて高い税率を課すものであり、テクノロジー業界に激震をもたらした。報道によれば、中国からの輸入品には34%、インドからは26%、ベトナムからは46%、日本に対しても24%といった関税率が課される見込みとなっている。
Appleのビジネスモデルは、効率的なグローバル・サプライチェーン、とりわけ中国を中心とした海外での製造に深く根差している。これにより、比較的高価格帯ではあるものの、製品の価格を一定水準に抑えることが可能となってきた。iPhoneの最上位モデルの基本価格がドルベースで言えば2017年のiPhone X以来、999ドルに据え置かれてきたのはその証左ともいえる。
しかし、今回の高関税はこの前提を根本から覆しかねない。輸入品にかかるコストが急増すれば、最終製品の価格に転嫁せざるを得なくなる可能性が高い。このニュースを受けてAppleの株価は約10%下落しており、市場の強い懸念を反映している。
一部では、関税を回避するために生産拠点を米国内に移管すべきとの意見もあるが、これは現実的ではないとの見方が強い。生産を完全に米国に移した場合、製品価格が現在の2倍になる可能性も指摘されている。また、仮に工場を建設できたとしても、部品や原材料の多くは依然として輸入に頼らざるを得ず、問題の根本的な解決には至らない。TSMCがアリゾナ州に新工場を開設したが、Appleのような巨大企業の需要を短期的に満たすには程遠いのが現状だ。
報じられる「4つの緩和策」:Appleの対応シナリオ
このような厳しい状況下で、Appleは関税の打撃を和らげるため、どのような手を打とうとしているのか。BloombergのMark Gurman氏が以下の可能性を伝えている。
サプライヤーへの価格交渉強化: Appleは部品メーカーや製造委託先に対し、より競争力のある価格を提示するよう圧力をかける可能性がある。これにより、製品の製造コスト自体を引き下げ、関税による上乗せ分を相殺しようという狙いだ。しかし、サプライヤー側にどれだけの値下げ余力があるかは不透明である。
Apple自身によるコスト吸収: Appleは高い利益率を維持していることで知られる。その平均利益率を約45%とも言われており、この高いマージンを一時的に削り、関税コストの一部をApple自身が負担することで、最終的な製品価格への影響を抑えるという選択肢もあるだろう。ただし、株主への説明責任もあり、恒久的な策とはなりにくい。
短期的な価格調整と影響の長期評価: すぐに大幅な価格改定を行うのではなく、まずは状況を注視し、短期的な価格調整にとどめながら、関税の長期的な影響を見極めるというアプローチも考えられる。関税が将来的に撤回されたり、税率が変更されたりする可能性もゼロではないため、柔軟に対応できる余地を残す戦略である。
サプライチェーンのさらなる多様化: Appleは近年、中国への依存度を減らすため、インドやベトナムなどでの生産を拡大してきた。この動きをさらに加速させ、特定の国への集中リスクを分散させることも有効な対策となり得る。ただし、今回の関税は中国だけでなくインドやベトナムなども対象となっているため、単純な移転先探しでは解決しない側面もある。重要なのは、米国内への大規模な生産移管は、コスト面から引き続き選択肢に含まれていないとみられる点だ。
これらの策に加え、関税の影響を受けない非米国市場へ、生産拠点から直接製品を出荷する割合を増やすといった、物流面での工夫も可能性とては考えられるだろう。
短期的な時間稼ぎと避けられない長期課題
関税が実際に発効する前に、Appleは短期的な対策も講じているようだ。同社は関税が課される前に、米国内の在庫を積み増しているという。米国内に既にある在庫には新たな関税は適用されないため、これにより、当面は現行価格での販売を継続できる可能性がある。
問題は、この「時間稼ぎ」がいつまで有効か、という点だ。次期iPhoneが登場する今年9月頃まで価格調整を先送りできるかもしれないと示唆する一方、在庫規模によっては2025年後半まで価格維持が可能かもしれないとしつつも、いずれ大幅な値上げは避けられないと見る向きもある。Reutersは、関税とそれに伴う貿易摩擦の結果、将来のiPhone 17 Proモデルの価格が2,000ドル以上に達する可能性も報じている。
長期的には、特に貿易交渉が進展していない中国への依存度をいかに低減できるかが、価格戦略上の大きな鍵となるだろう。またAppleのTim Cook CEOが、Trump政権の第1期に行ったように、特定の製品や部品に対する関税免除を求めて交渉する可能性も残されている。
広がる影響と不透明な未来
今回の関税問題の影響は、Apple一社にとどまるものではない。テクノロジー製品から食料品に至るまで、ほぼ全ての輸入品カテゴリーで価格上昇が懸念されており、米国の消費者に広く影響が及ぶ可能性がある。これは消費者の買い控えを招き、ひいては米国経済全体が景気後退に陥るリスクもはらんでいる。Appleを含む多くの米国企業の株価が下落している背景には、こうしたマクロ経済への懸念も存在する。
さらに、関税政策そのものの先行きも不透明だ。議会によって撤回される可能性や、政権の判断で税率が予告なく変更される可能性も指摘されており、企業にとっては極めて予測困難な状況が続くことになる。
Appleは現在、あらゆる選択肢をテーブルに乗せ、この難局を乗り切るための最善策を模索している段階といえるだろう。サプライヤーとの交渉、自社の利益率、サプライチェーンの再構築、そして最終的な製品価格。これらの要素を複雑に組み合わせながら、関税という名の嵐の中を進むことになる。同社がどのような決断を下すのか、そしてそれが製品価格や市場全体にどのような影響を与えるのか、今後の動向から目が離せない。