欧州連合(EU)の競争当局が、Appleに対してデジタル市場法(DMA)違反による制裁金を今月中にも科す方針であることが明らかになった。関係者によると、これはDMA施行後初となる制裁金であり、その規模は同社の年間グローバル売上高の最大10%に達する可能性があるという。
巨額制裁金の背景にある「アンチステアリング」問題
制裁金の主な根拠となっているのは、App Storeにおける「アンチステアリング」と呼ばれる慣行である。これは、アプリ開発者がApp Store以外での安価な決済手段やサービスの存在をユーザーに知らせることを制限する施策を指す。EU当局は、この慣行が競争を著しく阻害していると判断している。
今回の制裁金は、先般Spotifyからの申し立てを受けて科された18.4億ユーロ(約3,000億円)の制裁金に続くものとなる。さらに深刻な問題として、制裁金の一括支払いに加え、違反状態が継続する限り定期的な追加制裁金が科される可能性も浮上している。
Appleの対応と当局の評価
Appleは今年に入り、DMAへの対応を本格化させている。1月には包括的な対応計画を発表し、3月のiOS 17.4アップデートでApp Store手数料の大幅引き下げを実施。その後も、アプリマーケットプレイスの要件改訂やコアテクノロジーフィーの構造変更、Web配信の追加など、矢継ぎ早に対応策を打ち出している。
8月には、EU市場向けにブラウザ選択画面の刷新やデフォルトアプリの変更、削除可能アプリの拡大といった施策も発表。現在ベータテスト中のiOS 18.2では、さらなるDMA対応機能の実装も進められている。
Appleは「当社の対応計画はDMAに完全に準拠している」と繰り返し主張しているものの、EU当局は異なる見解を示している。特に問題視されているのは、形式的な法令遵守にとどまり、法の本質的な目的である競争環境の改善が十分に図られていない点である。
欧州委員会の動向と今後の展開
EU競争政策担当のMargrethe Vestager委員は今月中に退任を控えているが、関係者によれば、同委員の在任中に制裁金を科す可能性が高いという。ただし、決定の最終調整は現在も継続中であり、年内もしくは来年初頭にずれ込む可能性も指摘されている。
注目すべきは、EU当局の規制アプローチが、一時的な制裁金にとどまらず、継続的な是正圧力を加える方向に進化している点である。これは、巨大テクノロジー企業に対する実効性の高い規制手法として、新たな先例となる可能性がある。
また、iPadの相互運用性に関する新たな調査も開始されるなど、EU当局によるAppleへの監視は一層強化される見通しである。
デジタル産業への影響
今回の制裁金問題は、単なる法令遵守の枠を超え、デジタルプラットフォーム経済における公正競争の在り方を問う重要な転換点となっている。EU当局が求めているのは、法の文言への形式的な対応ではなく、オープンで公正な競争環境の実現である。
さらに報道によると、Apple CEOのTim Cook氏は過去に同社への制裁金について、Donald Trump前大統領に直接苦情を申し立てたとされる。これは、同社がEUの規制に対して強い危機感を抱いていることを示唆している。
デジタル市場における支配的なプラットフォーム事業者に対する規制の実効性が問われる中、本件の帰結は、今後のデジタルエコシステムの在り方を大きく左右する分水嶺となるだろう。とりわけ、140億ユーロ規模の未払い税金の支払いを巡る9月の判決など、EUによるAppleへの規制圧力は着実に強まっており、その影響は世界のテクノロジー規制の潮流にも波及する可能性が高い。
Source
コメント