台湾の半導体製造技術と宇宙空間の特性を組み合わせた革新的な製造手法の実現に向けて、米宇宙企業Axiom Spaceが具体的な提案を開始した。微小重力環境を活用した高純度な半導体材料の製造という野心的な構想は、半導体産業に新たな可能性をもたらす一方で、現実的な課題も抱えている。
宇宙製造がもたらす技術革新の可能性
Axiom Spaceのアジア太平洋地域最高技術責任者(CTO)であり、元国際宇宙ステーション(ISS)運用部長の若田光一氏は、低軌道(LEO)における微小重力環境が半導体材料製造に革新的な利点をもたらすと説明する。地上では重力の影響により発生する結晶構造の欠陥を、宇宙空間では大幅に低減できる可能性があるという。
同社の半導体商業化グローバル責任者であるDivya Panchanathan氏は、特に結晶成長プロセスにおける利点を強調する。「微小重力環境では結晶がより均一に成長し、真空環境や無容器処理により不純物の制御が容易になります」と述べ、より大型で電気特性に優れた結晶の製造が可能になると説明している。
段階的な実用化戦略
Axiom Spaceは、宇宙での半導体材料製造の実現に向けて、段階的なアプローチを計画している。第一段階として、ISSを活用した実験を提案。2030年のISS退役後は、同社が開発中の商業宇宙ステーションに製造拠点を移行する構想だ。
現在、Axiom SpaceはISSに接続可能な宇宙ステーションモジュールを開発する唯一の民間企業として認定されており、この優位性を活かした展開を目指している。
現実的な課題と将来展望
しかし、宇宙での製造には 重大な課題も存在する。現状の打ち上げコストは1kgあたり約3,000ドルで、シリコンウェハー1枚(100-150g)の製造コストを大幅に押し上げる要因となる。SpaceXのFalcon Heavyロケットの活用により2,000ドル以下への低減が期待されるものの、依然として高コストな製造方式となる。
半導体業界は長年にわたり地上での結晶成長技術を最適化してきており、現状の品質とコストのバランスに一定の満足を示している。しかし、将来的にサブオングストロームプロセス技術への移行が進めば、超高純度ウェハーへの需要が高まり、宇宙製造の経済的合理性が見出される可能性もある。
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