台湾政府は、人工知能(AI)産業の発展に伴う急激な電力需要の増加に対応するため、原子力発電の新規導入に前向きな姿勢を示した。台湾の卓栄泰行政院長は最近のBloombergのインタビューで「台湾もグローバルトレンドと新しい原子力技術に追いつくことを望んでいる」と述べ、原子力発電の活用に向けた方針転換を示唆した。
この発言は、2011年の福島第一原子力発電所事故後に掲げた「2025年までの非核化」という従来の方針からの大きな転換を意味している。
AI産業の電力需要急増で政策転換
2011年の日本での福島第一原子力発電所事故以来、台湾では原子力発電についてはタブー視されてきた。日本と同様に地震の多い島国である台湾にとって、原発事故は他人事はなかったからだ。この事故を受けて、台湾は2025年までに原子力を段階的に廃止することを宣言していた。だが、今回の発言は大いなる政策転換を意味する。
政策転換の背景には、世界最大の半導体製造企業であるTSMCの急増する電力需要がある。S&P Globalの最新レポートによると、TSMCの電力消費量は2030年までに台湾の総電力消費量の約24%に達する見込みである。
台湾のエネルギー管理局のデータによれば、現在の電源構成は石炭が42.24%、液化天然ガスが39.57%、再生可能エネルギーが9.47%、原子力が6.31%、水力が1.08%となっている。
台湾の動きは、世界的なデータセンター事業者の原子力発電活用という流れと軌を一にしている。2024年には、AWSがペンシルベニア州の原子力発電所に隣接するデータセンターキャンパスを取得し、Microsoftは837MWのスリーマイル島原子力発電所からの電力購入契約を締結している。
再生可能エネルギーと比較して、原子力発電は安定的な電力供給が可能であり、かつ低炭素という特徴を持つ。このため、24時間365日の安定運転が求められるデータセンター向けの電源として注目を集めている。
台湾の原子力回帰の動きは、単なるエネルギー政策の転換以上に、中国との地政学的緊張が高まる中、エネルギー安全保障の観点からも重要な意味を持つ。
特筆すべきは、この政策転換が世界的な半導体供給網の安定性に直結する点である。TSMCの電力消費量が台湾の総電力消費量の4分の1に達するという予測は、同社の生産能力が世界のAI産業の発展に不可欠であることを示している。
原子力発電の再導入には、地震多発地帯という地理的課題や、使用済み核燃料の処理など、解決すべき技術的・社会的課題が山積している。しかし、AI時代における産業競争力の維持と、カーボンニュートラルの実現という二つの要請に応えるためには、原子力という選択肢を真剣に検討せざるを得ない状況にあると言えよう。
台湾政府には、今後、国民的合意の形成と、安全性の確保という難しい課題が待ち受けている。その成否は、世界のAI産業の発展にも大きな影響を与えることになるだろう。
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