NVIDIAの「SLI」やAMDの「CrossFire」といったマルチGPU技術が過去のものとなって久しい。しかし、PCゲームのコミュニティでは今、古いグラフィックスカードを現代のゲーム環境で蘇らせる新しい手法が注目を集めている。

現在、最新のAAAタイトルの要求スペックは肥大化の一途をたどっている。リアルタイムレイトレーシングや高解像度テクスチャの普及により、GPUにかかる負荷は前世代の比ではない。そこで各社がこぞって導入しているのが、AIを用いたフレーム生成技術だ。しかし、この技術の恩恵にあずかれるのは最新世代のグラフィックスカードの所有者に限られることが多かった。

Redditユーザーのquziwuzzi氏は、ハイエンドの「GeForce RTX 3090」とエントリー向けの「GeForce RTX 3050」という異色の組み合わせで、4K解像度(3840x2160)において144 FPSの滑らかなゲームプレイを達成した。この記録の背景には、マルチGPUの再構築ではなく、役割の完全な分業がある。

AD

レンダーとフレーム生成の分業

今回の手法の中核にあるのは、Steamで約7ドルで販売されているユーティリティソフト「Lossless Scaling」だ。もともとはウィンドウモードでしか起動できない古いゲームを、ぼやけさせることなくフルスクリーンに引き伸ばす単純なアップスケーリングツールとして出発した。しかし現在では、独自の機械学習ベースのフレーム生成機能(LSFG)を搭載し、ゲームエンジンに直接依存しない汎用的な高画質化・高フレームレート化ツールへと進化を遂げている。

Lossless Scalingは、NVIDIAのDLSSやAMDのFSRのようなゲームエンジンの内部パイプラインに統合されるネイティブな実装とは異なる。画面上にレンダリングされた完成後の2D映像を読み取り、画面の中の動きのベクトルを解析して、後処理でAIアップスケーリングやフレームの補間を行う仕組みだ。最新のアップデートにより、このLossless Scalingはフレーム生成の重い演算を、メインのGPUとは物理的に異なる別のGPUへ完全にオフロードする機能を備えた。

quziwuzzi氏の構成では、プライマリGPUであるGainward製のRTX 3090がゲームの3Dレンダリングのみに100%のリソースを集中する。一方で、セカンダリGPUであるASUS製のRTX 3050(6GBモデル)は、Lossless Scalingによるフレーム生成(補間)の処理だけを専門に引き受ける。

通常、ネイティブなフレーム生成であっても、処理自体がGPUリソースを10%から20%ほど消費してしまう。これをセカンダリGPUに逃がすことで、プライマリGPUは本来の描画性能を一切損なうことなく稼働できる。RTX 3090単体では4K解像度で約71 FPSにとどまっていたパフォーマンスが、RTX 3050によるフレーム生成の支援を受けた途端、144 FPSへと倍増した。これにより、同氏が所有する144 Hz駆動の42インチ有機ELテレビ「LG OLED C4」のリフレッシュレート性能を完全に引き出すことに成功している。

なぜSLIなしで動くのか

かつてのSLIやCrossFireといったマルチGPU技術は、複数のGPUに交互にフレームを描画させる「Alternate Frame Rendering(AFR)」などの手法を用いていた。これはドライバレベルでの緊密な連携と、原則として同じ型番(または同じVRAM容量やアーキテクチャ)のGPUを揃えることをユーザーに要求した。さらには、映像の出力タイミングがずれることで生じるマイクロスタッタリング(微小なカクつき)といった根深い問題も抱えており、開発コストに見合わないとしてメーカーからもゲームデベロッパーからも見放されてしまった。

しかし今回の手法では、ハードウェアを繋ぐ物理的なSLIブリッジケーブルも、同じGPUを2枚揃える必要もない。OS側からは、単に独立した2つのディスプレイアダプタとして認識され、ソフトウェアがその計算資源を非同期に使い分けているだけだからだ。

ただし、ハードウェア側には一つの明確な条件がある。マザーボードがPCIeレーンの帯域分割(Bifurcation)を適切にサポートしていることだ。

quziwuzzi氏は、ASUS製の「X870E ProArt Creator Wi-Fi」マザーボードを使用し、BIOSの設定から両方のグラフィックスカードをPCIe 4.0 x8モードで動作させている。メインのGPUが描画した完成フレームをセカンダリGPUへ高速に転送し、そこで中間フレームを合成して最終的な映像を出力するためには、マザーボード側の十分な帯域幅の確保とレーン分割が欠かせない。また、映像出力のケーブル自体も、最終的な表示映像を生成して送り出すセカンダリGPU(今回の場合はRTX 3050)側に接続する必要がある点も注意が必要だ。

また、フレーム生成は無条件でパフォーマンスを向上させるわけではない。描画演算を別のGPUに逃がしたとしても、映像をキャプチャし、解析し、補間フレームを生成して出力する一連のプロセス自体が物理的な入力遅延(インプットラグ)を生む。しかし、ベースとなるフレームレートが71 FPSと十分に高かったことで、2倍(2X)のフレーム生成モードを利用しても、プレイヤーが体感する遅延は最小限に抑えられている。

AD

余剰ハードウェアの新しい使い道

一連の検証結果が示唆するのは、使わなくなった旧世代のGPUや、安価なローエンドGPUに「コプロセッサ」としての新しい価値が生まれる可能性だ。

現在、GPU市場は生成AIブームに伴うデータセンター向けチップの需要過多やメモリ不足の影響を色濃く受け、最新のグラフィックスカードの価格は高止まりしている。DLSS 3によるAIフレーム生成はRTX 40シリーズ以降の特権とされており、旧モデルの所有者がアップグレードを行うための金銭的なハードルは非常に高い。だがLossless Scalingを使えば、こうしたメーカー側のハードウェア制限を迂回できる。

引き出しに眠っている古いグラフィックスカードを取り出し、システムの空きスロットに挿すだけで、それがフレーム生成専用のアクセラレータの役割を果たす。PCIeレーン分割に対応したマザーボードさえあれば、十数万円を超える最新GPUを買わずとも、既存のハードウェアの組み合わせでハイエンド機に迫る滑らかさを手に入れられる。

一方で、この構成には電源容量や排熱の新たな課題も伴う。2台のGPUを同時に稼働させるため、システム全体の消費電力は単体稼働時よりも確実に増加し、ケース内のエアフローにはより一層の注意が必要となる。

ユーザーの創意工夫は、いつの時代もメーカーが敷いたロードマップの隙間を縫って進化する。このデュアルGPUの新しい使い道が、アップグレードを躊躇しているPCゲーマーたちにとっての次なるトレンドになるか。次は、さらに古いアーキテクチャのGPU(例えばGTX 700番台や10シリーズなど)を組み込んだ際のPCIE帯域の限界や、遅延の実用性がコミュニティによって試されることになるだろう。