NVIDIAは2026年7月20日、SIGGRAPH 2026の基調講演で、生成AIをリアルタイム描画へ組み込むDLSS 5の開発者向け制御を実演した。開発者は3種のモデルをシーンごとに選び、画面全体の変化量から人物や小物への適用強度まで調整できる。3月の初公開時点では、生成後の映像が元のアートディレクションを変えてしまうとの懸念に対し、NVIDIAは強度調整やマスクを用意すると説明するにとどまっていた。今回初めて、その制御がどの粒度で働くのかが見えた。
DLSS 5は低解像度の画像を復元する従来の超解像処理とは役割が異なる。ゲームエンジンが描いたフレームを受け取り、照明や素材の見え方を生成モデルで作り直す後段処理である。NVIDIAがSIGGRAPHで示したのは、生成AIの自由度を残しながら、人物の同一性や物体の形、照明の意図をゲーム側へ結び付ける設計だ。
3モデルと2段階のマスクで変化量を決める
DLSS 5のデモ画面にはModel A、Model B、Model Cの3種が並んだ。各モデルは異なるパラメータで学習され、同じ人物と同じ強度を入力しても、肌や布、照明の仕上がりが変わる。開発者はゲーム全体を1モデルに固定する必要がなく、通常の場面、別のシーン、カットシーンで使い分けられる。NVIDIAは各モデルの学習データ、パラメータ数、速度差を明らかにしていない。現時点で開発者が選べるのは出力の見た目だけだ。
画面全体には「Structure Intensity」と「Tone Intensity」という2本のスライダーがある。Structureは高周波の細部を調整し、環境遮蔽や肌のサブサーフェス・スキャタリング、反射などの強さに関わる。Toneは低周波成分を受け持ち、照明や色の変化を大きくする。講演ではStructureを25%、中間値、95%へ変え、元のレンダリングに近い出力からモデルの効果を強く出した仕上がりまで比較した。
適用対象を切り分ける方法はさらに2つある。モデル側の自動マスクは画面内の意味を認識し、人物などへの適用強度を個別に変える。エンジン側のマスクでは、水差し、ブドウ、瓶といった物体を開発者が指定し、それぞれのStructureとToneを個別に動かせる。顔の特徴を守りながら衣服の素材感を強める、植物だけに透過光を足すといった選択を、ゲーム制作側が決める仕組みだ。
この制御が必要になるのは、入力と正解画像が一対一に対応しないためである。超解像では高品質な参照画像へ近づけることが目標になるが、写実的な素材や照明には複数の妥当な仕上がりがあり得る。NVIDIAのEdward Liuは、DLSS 5について「画像は変えても、物語を変えてはならない」と説明した。どの見た目を選び、どこへ、どの強さで適用するかはモデルではなく制作者が決めるという線引きである。
1フレームずつ生成するための内部情報
生成動画モデルの多くは、前後の複数フレームをまとめて処理する。ゲームでは操作への反応を次のフレームへ出さなければならず、将来の映像を待てない。DLSS 5はゲームエンジンが持つモーションベクトルを使い、物体が隣接フレーム間でどちらへ動いたかをモデルへ渡す。NVIDIAによると、処理は将来フレームを先読みしない因果方式で、1フレームを受け取って1フレームを返す。
芸術的意図を固定するための入力も増えた。3月の発表では各フレームの色とモーションベクトルが主な入力として示されたが、SIGGRAPHではアルベド、サーフェス法線、照明情報の一部といったレンダラー内部のバッファを使うと説明した。アルベドは照明の影響を分けた物体本来の色を指し、サーフェス法線は表面が向く方向を表す。画面上の色だけから推測させず、形状や光の手掛かりをピクセル位置に対応させて渡すことで、傷が消えたり、物体が別のものへ変わったりする動きを抑える。
NVIDIAは、この入力を使って人物の同一性やポーズを保ちつつ、肌の内部で光が散る表現、髪や葉を通る光、接触影、素材の反射を生成するとしている。時間方向ではシマー、ドリフト、模様が泳ぐような破綻を抑えられるとも説明した。ただし、いずれも自社の講演デモに基づく主張であり、異なるゲームや激しいカメラ移動で同じ安定性が得られるかは第三者による検証を待つ必要がある。
DLSS 4.5の次ではなく、描画後の「生成」
DLSSという名称は、これまで性能を高める超解像やフレーム生成と強く結び付いてきた。NVIDIAは今回、リアルタイム描画でのAI利用を3種類に分けた。Super ResolutionやRay Reconstructionは、計算資源が十分なら得られる参照画像を復元する「再構成」に当たる。Neural Radiance CacheやNeural Materialsは、高価な計算を小さなネットワークで近似する。
DLSS 5が加える3番目が「生成」である。従来のレンダラーが作った世界と構図を入力にして、モデルが最終的な外観を生成する。より多くのレイや高解像度テクスチャで元のレンダリングを改善する経路は残り、その結果がDLSS 5の出発点になる。既存の描画パイプラインを置き換えるのではなく、後ろに生成工程を足す設計だ。
実行モデルは、一般的な動画生成モデルをそのまま載せたものではない。NVIDIAは、現実世界の見え方を学んだ大規模な基盤モデルを蒸留し、リアルタイム描画の外観向上に役割を絞った「1ステップのピクセル空間拡散Transformer」に圧縮したと説明する。用途を狭めることで、ゲーム本体と並行して動かせる大きさと速度を狙った。既存のDLSSやNVIDIA Reflexと同じStreamlineフレームワークを使うため、統合経路も従来技術と共通化する。
この違いは、DLSS 4.5との関係を理解するうえで欠かせない。DLSS 4.5は超解像やRay Reconstructionの第2世代Transformer、動的なMulti Frame Generationを扱う。一方のDLSS 5は、レンダリング済みのフレームに写実的な照明と素材表現を生成する。数字上の世代は続いていても、置き換える処理は同じではない。
16ミリ秒の内訳と秋までに残る空白
4Kの1フレームは約800万画素で、60fpsを超える描画ではフレーム全体を16ミリ秒未満で終えなければならない。しかも、その時間の大半はゲームエンジンが使う。NVIDIAは蒸留したモデルをこの残り時間へ収める方針を示したが、DLSS 5単体の処理時間やフレームレートへの影響は公表していない。16ミリ秒という数字を、DLSS 5が使える推論時間と受け取ることはできない。
対応GPU、最低VRAM、モデルごとの負荷もまだ分からない。NVIDIAは最大4Kでリアルタイムに動作し、2026年秋に提供するとしているものの、どの世代のGPUで、どの画質設定なら成立するかを示していない。Model A/B/Cの選択が見た目だけを変えるのか、速度やメモリ消費との交換条件になるのかも未開示だ。
技術そのものにも境界がある。Edward Liuは、NVIDIAがリアルタイムの写実性を解決したとは主張しておらず、現在のモデルは外観ほどにはアニメーションを改善しないと認めた。生成する範囲が広がれば、制作者が決めるべき項目も増える。今回の物体別制御はその出発点であり、完成形ではない。
DLSS 5は2026年秋、Assassin's Creed Shadows、Hogwarts Legacy、Resident Evil Requiem、Starfieldなどへの対応が予定されている。そこで初めて、静止した比較画像では分からない時間的一貫性と操作遅延、そして制作者が選んだ画づくりが実際のゲームで検証できる。採用の判断を分けるのはモデル数ではなく、対応GPUと実測フレーム時間を伴った製品版の結果である。



