データセンターのAIワークロード増大に伴う通信ボトルネック解消を目指す光インターコネクト開発のAyar Labsは、Advent Global OpportunitiesとLight Street Capitalを筆頭に、NVIDIA、AMD、Intel、GlobalFoundriesなど半導体業界大手からシリーズDラウンドで1億5500万ドル(約237億円)の資金調達を実施したことを発表した。同社の累積調達額は3億7000万ドルに達し、企業価値は10億ドルを突破した。
チップ間通信の革新を目指すAyar Labs
AIモデルの急速な大規模化は、チップ間通信に大きな課題を突きつけている。富士通の研究者によると、AIシステムのパラメータ数は約3年で32倍のペースで増加しており、これに対応するためNVIDIAなどのチップメーカーは、8基以上のGPUを単一デバイスのように動作させるため、毎秒1.8テラバイトという超高速の相互接続を実現している。
しかし、従来の銅線を使用した通信では、データ転送速度が速くなればなるほど、信号を維持できる距離が短くなるという物理的な制約がある。現在の技術では、この超高速通信は1〜2メートル程度の短距離に制限されている。この制約を克服するため、Ayar Labsは革新的なアプローチを提案している。
同社が開発するTeraPHY光I/Oチップレットは、CPUやGPUパッケージに直接統合される光通信チップだ。この技術により、4Tbpsという驚異的な双方向帯域幅を実現しながら、消費電力はわずか10W(1バイトあたり5ピコジュール)に抑えることに成功している。さらに、SuperNova光源モジュールと組み合わせることで、16の波長を用いて256のデータチャネルをサポートし、最大16Tbpsの双方向通信を可能にする。
この技術の真価は、データセンターのアーキテクチャ構成に大きな柔軟性をもたらす点にある。Terry Thorn氏が説明するように、光通信により物理的な距離の制約から解放されることで、高密度化が進むラック単位の電力密度や熱密度の問題を緩和できる。複数のラックに分散配置されたGPUを、あたかも同一ラック内にあるかのように連携させることが可能になるのだ。
SC24における実用化への一歩
スーパーコンピューティング分野の主要カンファレンスSC24において、Ayar Labsは次世代の光インターコネクト技術の具体的な実装例を披露した。特に注目を集めたのは、富士通のCPUと組み合わせたプロトタイプのデモンストレーションである。
このデモでは、1つのCPUパッケージに2つのTeraPHY光学チップレットを統合した構成が示された。各チップレットは約8Tbpsの双方向帯域幅を実現する能力を持ち、これは現行の電気通信方式と比較して大幅な性能向上を意味する。具体的には、A64FXプロセッサと組み合わせたモックアップが展示され、高性能コンピューティングにおける光インターコネクトの実用可能性を示す重要な一歩となった。
ただし、この展示はあくまでも技術的な可能性を示すコンセプトデモンストレーションの段階であり、富士通が直ちにこの技術を商用化する計画があるわけではない。むしろこれは、Intelとの過去の実験的な統合プロジェクトと同様に、光インターコネクト技術の実用化に向けた検証段階の一環として位置づけられる。
このデモが単なる性能向上だけでなく、実装における現実的な課題への取り組みも示している点も注目に値するだろう。例えば、光源を別にすることで高温環境下での信頼性を確保し、レーザーの故障時には交換可能な設計を採用している。また、ウェハーレベルでの光学・電気テストを通じて、不良品の早期検出と歩留まりの向上を図る製造プロセスの確立にも言及があった。
このように、SC24での展示は、Ayar Labsが理論的な技術提案の段階から、実用化に向けた具体的な課題解決のフェーズに移行していることを示す重要なマイルストーンとなった。しかし同時に、商用化までには信頼性の確保や製造プロセスの最適化など、依然として多くの技術的ハードルが残されていることも浮き彫りになったと言える。
業界リーダーの支持が示す潜在性
今回の資金調達には、NVIDIA、AMD、Intelという競合関係にある半導体大手3社が揃って参加した点が注目される。これは光インターコネクト技術がAI時代のインフラストラクチャにおいて極めて重要な位置を占めることを示唆している。
Ayar LabsのCEOであるMark Wade氏は「主要なGPUプロバイダーや半導体ファウンドリーからの支持は、我々の光I/O技術がAIインフラの未来を再定義する可能性を裏付けるものだ」と述べている。同社は現在GlobalFoundriesで製造を行っているが、IntelやTSMCとも製造プロセス統合に向けた協議を進めており、2026年半ばまでの量産開始を目指している。
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