Teslaの新たなAIスーパーコンピューター「Cortex」が、CEOのElon Musk氏によって公開された。テキサス州オースティンにあるTesla本社の南側に建設中のこの巨大な施設は、自動運転技術の開発とロボットタクシーの実現に向けた重要な役割を果たすと期待されている。しかし、その完成と本格稼働にはまだ時間がかかりそうだ。
Cortexの全貌と今後期待されるその能力
Tesla CEOのElon Musk氏は、X上で「Cortex」と呼ばれる新しいAIトレーニングスーパークラスターの内部を映した20秒の動画を公開した。この動画では、NVIDIAのH100 GPUを搭載した無数のサーバーラックが並ぶ様子が確認できる。黒いサーバーラックには、ガラス扉の背後に密集したハードウェアが並び、赤と青のケーブルの束がラック間を縦横に走っている。また、上部の冷却システムからと思われる大きな騒音も聞こえる。
Cortexは、Teslaの自動運転システム「Full Self-Driving (FSD)」と人型ロボット「Optimus」の開発に不可欠な役割を果たすと考えられている。このシステムは、世界中の数百万台のTesla車から収集された膨大な量のビデオ映像を処理し、その情報を基にソフトウェアアップデートを作成する。これにより、Tesla車が人間のように運転することを目指している。
当初の計画では、Cortexは50,000個のNVIDIA GPUと独自のAIハードウェアを組み合わせた構成で稼働を開始し、最終的には100,000個以上のNVIDIA H100およびH200 GPUを搭載する予定だ。Musk氏によると、この施設は稼働開始時に130MW(メガワット)の電力を消費し、将来的には500MWまで拡張される可能性があるという。この電力消費量は、約100個のスポーツスタジアムが試合中に消費する電力に相当し、AIデータセンターの電力需要の大きさを物語っている。
冷却システムにも特筆すべき特徴がある。施設の屋上には航空機のプロペラほどもある巨大なファンが設置されており、Teslaが特許を取得した冷却システムが使用されている。これは、大規模なAI計算に必要な膨大な熱を効率的に処理するための重要な要素となっている。
しかし、Electrekの報道によれば、Cortexはまだ完全には稼働していない。現在は一時的な冷却システムで運用されており、チラープラントの完成を待っている状態だという。また、ネットワークフィーダーの追加も必要とされており、一部の関係者は10月までの完成を見込んでいる。これは、当初8月に予定されていたロボットタクシーの発表が延期されたことと時期を同じくしている。
Cortexの開発は、Teslaが自動運転技術とAIへの注力を強めていることを示している。Musk氏は、AIと自律性に重点を置くことで、Tesla車の販売減少や充電ビジネスの後退といった課題に対応しようとしている。しかし、同時に新たな課題も浮き彫りになっている。FSDシステムは実際の走行条件下で多くの欠陥を示しており、「完全自動運転」という名称に値しないとの指摘もある。また、ロボットタクシーの事故時の責任所在など、法的な問題も未解決のままだ。
さらに、NVIDIAのプロセッサーをTeslaではなくMusk氏の私企業xAIに転用したとされる問題で、株主から訴訟を起こされているなど、Cortexの開発は必ずしも順調とは言えない状況にある。Musk氏は、Teslaがプロセッサーを設置する場所がなかったと説明しているが、なぜ私企業のxAIが受け取る準備ができていたのかについて、説明を求められている。
Teslaの自動運転技術とAI開発の未来は、Cortexの成功にかかっていると言えるだろう。しかし、技術的な課題、法的問題、そして企業統治の面での懸念など、その道のりは決して平坦ではない。Cortexが真に革新的な成果をもたらすのか、それとも単なる巨大な投資に終わるのか、今後の展開が注目される。
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