欧州委員会は2025年3月20日、AppleとGoogleがEUのデジタル市場法(DMA)に違反していると発表した。Appleには相互運用性の向上が命じられ、Googleには自社サービス優遇の停止が求められている。この決定はTrump政権がEUの規制に批判を強める中で行われ、米欧の貿易緊張を高める可能性がある。
EUによるDMA違反の発表内容
欧州委員会(European Commission)は、AppleとGoogle親会社のAlphabetがデジタル市場法(Digital Markets Act、DMA)に違反しているとする調査結果を発表した。DMAは2022年に成立したEUの法律で、デジタル市場での公正な競争を確保するために「ゲートキーパー」と指定された大手テクノロジー企業に追加の義務を課すものである。
Teresa Ribera欧州委員会副委員長は「私たちが今日採択する2つの予備的調査結果は、AlphabetがEU全域でビジネスと消費者に広く使用されている2つのサービス、Google検索とAndroidスマートフォンに関して、EUのルールを順守することを目的としています」と声明で述べた。
昨年3月にGoogle、Apple、Metaに対してDMA遵守の正式調査を開始した欧州委員会。今回の決定は2024年9月にAlphabetが「ゲートキーパー」に指定され、2025年3月6日までの遵守期限が設けられていたことを受けたものである。
Appleに対する違反内容と具体的要求
Appleに対しては、DMAに基づく相互運用性義務を満たすための法的拘束力のある措置が命じられた。この決定によれば、AppleはiOSとiPadOSの「接続機能」を第三者デバイスに開放する必要がある。
具体的には、以下の9つの接続機能が対象となる:
- iPhoneの通知を非Apple製スマートウォッチに表示する機能
- モバイルデバイス間のピアツーピアWi-Fi接続
- 店舗での支払いに使用されるNFC(近距離無線通信)チップ機能
欧州委員会によれば、この措置により「あらゆるブランドの接続デバイスがiPhoneでより良く動作するようになる」としている。
またAppleは、相互運用性に必要な技術文書や仕様へのアクセス方法を改善し、より明確なコミュニケーション、タイムリーな更新、予測可能な相互運用性リクエスト審査のタイムラインを提供することも求められている。
欧州委員会は「この仕様決定は法的拘束力がある。Appleは決定の条件に従って指定された措置を実施することが求められる」と強調した。
Googleに対する違反内容と潜在的罰則
Googleに対する調査結果は予備的なものであり、2つの側面に焦点を当てている。
第一に、Google検索においてAlphabetは自社のサービス(ショッピング、ホテル予約、交通、金融、スポーツ結果など)を第三者のサービスより優遇しているとされる。具体的には、これらのサービスをGoogle検索結果の上部や専用スペースに表示し、拡張された視覚的フォーマットやフィルタリング機能を提供している点が問題視されている。
第二に、Google Playアプリストアでは、アプリ開発者が顧客に代替の安価な選択肢を知らせたり、それらの提供先に誘導したりする自由を妨げているとされる。欧州委員会の調査では、Googleが開発者によるユーザー誘導を技術的に阻止し、また課す手数料が「正当化される範囲を超えている」と指摘している。
EU法の下では、GoogleはDMA違反で全世界収益の最大10%の罰金を科される可能性がある。これはAlphabetの2024年の収益3,500億ドルに基づくと、最大で350億ドル(約5兆2,500億円)に達する可能性のある巨額なものだ。繰り返し違反した場合、この金額は2倍になる。
Henna Virkkunen欧州委員会副委員長は「両方の慣行はEU内のユーザーにリーチするためにGoogle検索またはGoogle Playに依存している多くのヨーロッパおよび非ヨーロッパのビジネスに悪影響を与えています。AlphabetがDMAを完全に遵守することは、すべてのデジタルサービスプロバイダーのビジネスとイノベーションの機会を確保するために重要です」と強調した。
テック企業の反応と主張
AppleとGoogleの両社はEUの決定に強く反発している。
Appleは声明で「今日の決定は私たちを赤テープで包み込み、Appleがヨーロッパのユーザーのためにイノベーションを行う能力を遅らせ、同じルールに従う必要のない企業に私たちの新機能を無料で提供することを強制しています」と訴えた。さらに「これは私たちの製品とヨーロッパのユーザーにとって悪影響がある」と主張している。
一方Googleは、Oliver Bethell競争部門ディレクターのブログ投稿で「欧州委員会による今日の発表は、Google検索、Android、Playにさらなる変更を迫るものであり、ヨーロッパのビジネスと消費者に害を与え、イノベーションを妨げ、セキュリティを弱め、製品品質を低下させるだろう」と反論した。
Googleは具体例として、検索結果で直接航空会社サイトに案内できない場合、ユーザーは中間業者への手数料によってより高価なチケットを購入することになると主張。また、EUが強制した変更により、一部のヨーロッパ企業はすでにトラフィックを最大30%失っていると述べている。
AndroidとGoogle Playに関しては、GoogleはEUの決定が「開放性とセキュリティの間で誤った選択を強いる」ものだと主張。「AppleのiOSとは異なり、開発者はAndroidで自由にアプリを配布できる。これによりどのプラットフォームよりも多くの選択肢が生まれ、ユーザーはiOSの50倍以上のアプリにアクセスできる」と指摘している。
米欧間の規制をめぐる緊張
この決定は、米国と欧州の間で高まる緊張の中で行われた。Donald Trump大統領は先月、「海外での強要」と呼ぶ米国テック企業に対するデジタルサービス税、罰金、慣行、政策を通じてEUに関税を課すと警告する指令を発した。
CNBCによれば、これに対してEUは加盟国に対する経済的強制の場合に行動を取ることを可能にする新しい「反強制」手段の使用を検討していると報じられている。
こうした対立にもかかわらず、欧州委員会はDMAのような厳格な法律に従い続けている姿勢を崩していない。
今後の展望と産業への影響
今回の決定がもたらす具体的な影響は今後明らかになるが、特にAppleに対する法的拘束力のある決定は、iPhoneユーザーと第三者デバイスメーカーに大きな変化をもたらす可能性がある。
スマートウォッチメーカーやヘッドフォンメーカーなどは、iPhoneとより深く連携する機能を開発できるようになり、消費者の選択肢が広がる見込みだ。一方で、AppleはこうしたAPI開放がセキュリティリスクを高める可能性を示唆している。
Googleに対する調査結果は予備的なものであり、同社には調査結果を精査し異議を唱える機会が与えられる。最終的な決定と罰金の詳細はまだ確定していない。
Teresa Ribera欧州委員会副委員長は「私たちの主な焦点はデジタル市場法の遵守文化を作ることである。非遵守手続きは対話による試みが成功しなかった状況のために留保されている」と述べ、規制当局の姿勢を明確にした。
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