GoogleのCEOであるSundar Pichai氏は、実用的な量子コンピュータの実現にはまだ5〜10年かかるとの見解を示し現在の量子コンピューティング開発をAI黎明期になぞらえた発言を
量子コンピュータ開発の現状と課題
Pichai氏は、ドバイで開催されたWorld Governments Summitにおいて、「量子コンピュータの現状は、2010年代にGoogle Brainに取り組んでいた頃のAIの初期段階を彷彿とさせる」と述べた。
米国や中国をはじめとする各国政府や企業は、量子コンピューティングの研究に数十億ドル規模の投資を行っている。量子コンピュータは、処理できるデータの速度と容量を劇的に向上させ、複雑なシステムのモデル化、さまざまなシナリオの結果の正確な予測、現在の暗号化システムの解読を可能にする可能性を秘めている。
しかし、この技術はまだ主に研究段階であり、いつ実用化されるかについては議論がある。2025年1月、NVIDIAのCEOであるJensen Huang氏は、「非常に有用な」量子コンピュータの実現にはおそらく数十年かかると述べ、量子関連株を急落させた。
Pichai氏は、Googleの最新の量子チップのブレークスルーにも言及。このチップは、既存のスーパーコンピュータでは「宇宙の年齢よりも長い」時間を要する問題を5分で計算できるという。
「量子分野の進歩は、目に見えてエキサイティングだ」とPichai氏は述べ、量子コンピューティングの可能性に期待を示唆する一方で、実用化にはまだ時間を要するという慎重な見解を示した。Pichai氏の発言は、量子コンピュータの実用化に対する業界の期待と現実のギャップを浮き彫りにしている。
Googleの「Willow」チップと量子コンピュータの可能性
2024年12月、GoogleはWillow量子コンピューティングチップを発表した。このプロセッサは、標準的なベンチマーク計算を5分未満で実行し、従来のスーパーコンピュータでは1025年かかる計算を処理できると主張している。
また、Googleは、このチップが「しきい値以下」の量子計算を実証できたとも主張。これは、量子コンピュータにさらに量子ビットを追加すると、エラー率が「指数関数的に」低下することを意味する。以前は、量子ビットを増やすとエラー率が増加していた。
しかし、Googleは、非常に特殊で、特別に作られたベンチマークではなく、実世界のアプリケーションで広く役立つものに量子システムを使用するという閾値をまだ超えていない。
量子コンピューティング分野の最新動向
量子コンピューティング分野では、Google以外にも様々な企業や研究機関が活発な動きを見せている。
オランダ応用科学研究機構(TNO)は、アイルランドの量子コンピューティングスタートアップEqual1に非公開の金額を投資した。Equal1は、シリコンスピン量子ビットを使用した量子プロセッサの開発を目指しており、TNOとデルフト工科大学が共同開発した技術を活用する。この投資により、Equal1は研究開発活動の一部をオランダ・デルフトのHouse of Quantumに移転する予定だ。
ドイツの研究機関 Forschungszentrum Jülich (FZJ) は、D-Waveの量子コンピュータを購入した。これにより、FZJはD-Wave Advantageアニーリング型量子コンピュータシステムを所有する世界初の高性能コンピューティングセンターとなる。FZJのシステムは、D-Waveの次世代Advantage2量子プロセッサユニット(QPU)が利用可能になり次第、アップグレードされる予定だ。
TreQは、英国オックスフォードシャーに本社および製造施設を開設した。TreQの中核エンジニアリングチームは同施設を拠点とし、2025年に最初の量子コンピューティングシステムを開発・展開するためのインフラと設備を備えている。
IonQとGeneral Dynamics Information Technology (GDIT) は、政府および防衛部門向けの量子プロセッシングおよびネットワークアプリケーションを共同開発するために提携した。両社は共同声明で、この提携が「GDITの高度な技術と政府機関のミッションに関する専門知識と、IonQの先駆的な量子技術を組み合わせる」と述べている。IonQはすでに、米国空軍研究所および諜報・安全保障応用研究所と契約を結んでいる。
XenoSpectrum’s Take
Google CEOのSundar Pichai氏の発言は、量子コンピュータの実用化に向けた期待と現実のギャップを示唆している。Google自身のWillowチップの成果は目覚ましいものの、真に実用的なアプリケーションへの適用はまだ先の話である。
量子コンピュータの開発競争は、国家レベルでの戦略的取り組みとしても激化しており、技術的なブレークスルーだけでなく、関連するエコシステムの構築も重要になるだろう。今後5〜10年で、基礎研究の進展と並行して、特定分野での応用事例が徐々に出現してくると予想される。
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