Financial Timesの報道によると、Huaweiは最新のAIチップ「Ascend 910C」の生産歩留まり(製造過程で正常に機能するチップの割合)を約40%にまで向上させることに成功したという。この数値は約1年前の20%から倍増したもので、同社のAIチップ生産ラインが初めて収益性を持つようになったと言うことを示す物だ。米国の技術制限の中で、HuaweiはこのAIチップでNVIDIAの市場支配に挑戦する姿勢を強めている。
Ascend 910Cの歩留まり向上が意味するブレークスルー
Huaweiのこの技術的進歩は、単なる生産効率の向上にとどまらない意義を持つ。Financial Timesが情報筋から入手した情報によると、Huaweiは2025年に最新のAscend 910Cプロセッサを10万個、前世代のAscend 910Bチップを30万個生産する計画を持っている。これは2024年に910Bを20万個生産し、910Cの量産がなかったことと比較すると大きな前進だ。
歩留まり率の向上は半導体製造においては極めて重要な指標である。生産ラインで作られたチップのうち、正常に機能するチップの割合を示すこの数値が向上することで、製造コストの削減と供給量の増加が可能になる。Creative Strategiesの半導体アナリスト、Austin Lyons氏は、HuaweiのこのマイルストーンをTSMCのNVIDIA H100 AIプロセッサ製造における推定60%の歩留まりと比較し、Huaweiのような競合製品が40%の歩留まりでも商業的に実現可能であるとFinancial Timesに語っている。
Ascend 910Cは完全な自社設計のチップであり、中国の半導体製造大手SMICの7nm N+2プロセスで製造されている。このチップは530億のトランジスタを搭載し、前身と同様にチプレットパッケージング技術(複数の小さなチップを一つのパッケージに統合する技術)を採用している点が特徴だ。
パフォーマンス面では、Ascend 910CはNVIDIA H100のパフォーマンスの約60%を達成しているとされ、特に推論処理(訓練済みAIモデルを実行する計算処理)において高い性能を示している。
米中テクノロジー競争における位置づけ
このHuaweiの進展は、より広範な技術開発の文脈で理解する必要がある。2020年、米国政府の輸出規制強化により、台湾の半導体製造大手TSMCはHuawei向けの先端チップ製造を停止せざるをえなくなった。Financial Timesによると、この状況に対応するため、HuaweiはSMICと提携し、新たな半導体製造体制の構築を進めてきた。
SMICのN+2プロセスは、オランダASMLの極端紫外線(EUV)リソグラフィー装置を使用せずに先端チップを生産できる技術だ。このアプローチによって一定レベルの先端チップ製造を実現している。
中国政府も、国内テクノロジー企業に対し、NVIDIAからHuaweiのAIチップへの移行を促す動きを見せている。Financial Timesによると、Huawei創業者の任正非氏は先週、習近平国家主席に対し、中国が「コアとソウルの欠如」の懸念が和らいでいると語り、「より強大な中国がより速く台頭すると固く信じている」と述べたと報じられている。「コアとソウル」とは、半導体(コア)とオペレーティングシステム(ソウル)を指す1999年の中国技術相の発言に由来する表現だ。
しかし、NVIDIA製品の優位性は依然として顕著だ。SemiAnalysisの推計を引用したFinancial Timesによれば、NVIDIAは昨年、中国向けに100万個のH20チップを販売し、120億ドルの売上を記録している。H20は米国の輸出規制に準拠するために設計された、H100の性能を抑えたバージョンだが、それでもHuaweiの計画生産規模はこれに比べるとまだ小さい。
Huaweiの課題と展望
Huaweiのチップビジネス拡大には、いくつかの課題が残されている。Financial Timesが取材した業界関係者によると、最大の課題はNVIDIAの広く普及しているCUDAソフトウェア(GPUプログラミング用のプラットフォーム)に対抗することだ。CUDAは使いやすさとデータ処理の速さで知られており、Huaweiの現行ソリューションはまだこのレベルに達していないとされる。
だが、Huaweiは中国市場でのNVIDIAのCUDAの優位性を打破するために、「CANN」(Compute Architecture for Neural Networks)と呼ばれる自社ソフトウェアの開発に取り組んでいる。これは長期的な計画であるが、同社は確固たる決意を示しているという。
また、Huaweiの研究者らも認めているように、前世代のAscend 910Bはチップ間接続やメモリの問題から、大規模なAIモデルトレーニングには適していなかった。Huaweiはこれらの問題を解決するため、パートナー企業と協力してソフトウェアのバグ修正やメモリ容量の増加に取り組んでいるとFinancial Timesは報じている。
一方で、Ascend 910Cの登場により、Huaweiは国内市場でより幅広い用途に製品を提供できるようになる可能性がある。現在、HuaweiのAIチップはDeepSeek、Alibaba、Baiduなどの中国大手テック企業が採用しているが、その用途は主に推論処理などの低〜中程度のワークロードに限られていた。910Cにより、より高度な用途への展開が期待されている。
Huaweiの次世代Ascendチップが中国の「次のDeepSeekの瞬間」になる可能性も囁かれている。これは中国AIスタートアップのDeepSeekが昨年発表した低コストの高性能AIモデルが業界に与えた影響を指しており、Huaweiの新チップが同様の市場インパクトを持つ可能性があることを示唆している。
供給面での課題もある。Financial Timesの報道によれば、Huaweiは大規模な国営クラウドプロバイダー(China Mobileなど)への供給を優先しており、その他の顧客への供給確保が難しいとの指摘もある。また、中国のAIチップ全体の生産量のうち、Huaweiが4分の3以上を占めており、他の小規模競合他社はSMICの先端プロセスノードでの十分な生産能力の確保に苦戦しているという。
Huaweiが目指す60%の歩留まり達成と供給量の増加が実現すれば、中国国内のAIインフラ構築における同社の役割はさらに大きくなると見られている。
Source
- Financial Times: Huawei improves AI chip production in boost for China’s tech goals
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