半導体大手のIntelが、業績回復と競争力強化を目指して大規模な事業再編計画を発表した。この計画には、ファウンドリー事業の分社化、Amazon Web Services(AWS)との戦略的提携、そして大規模なコスト削減が含まれている。
ファウンドリー事業の独立と新たな成長戦略
Intelは、ファウンドリー(半導体受託製造)事業を独立した子会社として分社化する計画を明らかにした。Pat Gelsinger CEOは従業員向けのメッセージで、この動きについて次のように説明している:
「Intel Foundryを独立した子会社として設立する計画です。この統治構造により、外部のファウンドリー顧客とサプライヤーに対して、Intel他部門からのより明確な分離と独立性を提供します。重要なことに、これにより将来的に独立した資金調達源を評価し、各事業の資本構造を最適化して成長と株主価値創造を最大化する柔軟性も得られます」。
この動きは、Intelのファウンドリー事業を他の半導体企業から受注を獲得しやすい立場に置き、独立した資金調達の可能性も開くことになる。さらに、Intelはファウンドリー事業の競争力強化のため、AWSとの戦略的提携を発表した。
AWSとの提携には、カスタムチップ設計への共同投資が含まれ、複数年にわたる数十億ドル規模の枠組みが合意された。具体的には、Intel 18Aプロセスを用いてAWS向けのAIファブリックチップを製造し、さらにIntel 3プロセスを使用したカスタムXeon 6チップも生産する予定だ。
今回の協業拡大により、IntelとAWSは、米国を拠点とする半導体製造を加速させすることへのコミットメントを明確にしている。Intelは、ニューオールバニー地域と最先端の半導体製造業を構築する計画を継続することを確認し、 AWSは、2015年以来オハイオ州に投資してきた103億ドルに加え、セントラルオハイオでのデータセンター事業拡大のために78億ドルの投資する計画だ。
Gelsinger氏は、この提携について「我々の『ともに強く』なる戦略の力を反映しています。これは、ファウンドリーサービス、インフラストラクチャ、そしてx86製品にわたる統合ポートフォリオに基づいています」と述べている。
コスト削減とx86事業、AI戦略への注力
Intelは、競争力のあるコスト構造を作り出すために、100億ドルの節約目標を掲げている。この一環として、従業員の約15%にあたる約15,000人の削減を目指しており、すでにその半分以上が進行中だという。
さらに、不動産の効率化も進めている。Gelsinger氏は「年末までにグローバルでの不動産の約3分の2を削減または撤退する計画を実施しています」と述べ、大規模なコスト削減に向けた取り組みを強調した。
Intelは、ファウンドリー事業の独立化と並行して、コア事業であるx86フランチャイズの強化にも注力している。Gelsingerは「クライアント、エッジ、データセンター市場にわたるx86フランチャイズの価値を最大化することが最優先事項です」と述べ、カスタムチップレットやその他のカスタマイズされた製品を通じて顧客ニーズに応えていく方針を示した。
また、AI関連の投資についても言及し、「AIパソコン分野でのリーダーシップの継続、データセンターにおけるAIの強力なポジション、およびアクセラレーターポートフォリオ」に焦点を当てる考えを示した。これらの投資は、エンタープライズ向けや効率的な推論処理に重点を置いて、x86フランチャイズを補完し活用することを目指している。
政府支援とチップ製造の国内回帰
Intelの改革計画は、米国政府の支援も受けている。CHIPS法の下で、米国政府の「Secure Enclave」プログラムに対して最大30億ドルの直接資金提供を受けることが決定した。このプログラムは、米国政府向けの最先端半導体の信頼できる製造を拡大することを目的としている。
今回の資金獲得は、Intelにとって重要な財政的支援となるだけでなく、米国の半導体産業全体にとっても大きな意味を持つ。CHIPS法は、国内の半導体製造能力を強化し、グローバルなサプライチェーンの脆弱性に対処することを目的としている。
Secure Enclaveプログラムとは
Secure Enclaveプログラムは、Intel社と米国防総省(DoD)との間の既存のプロジェクトを基盤としている。具体的には、Rapid Assured Microelectronics Prototypes – Commercial (RAMP-C)やState-of-the-Art Heterogeneous Integration Prototype (SHIP)などのプロジェクトがその前身となっている。
このプログラムの主な目的は以下の通りである:
- 米国政府向けの信頼できる先端半導体製造の拡大
- 国内の半導体サプライチェーンの安全性確保
- 米国の技術システムの回復力向上
Intelは、先端ロジックチップの設計と製造の両方を行う唯一の米国企業として、このプログラムで重要な役割を果たすことが期待されている。特筆すべきは、Secure Enclaveプログラムが、今年3月にIntelがBiden政権と合意した半導体商業製造施設の建設・近代化支援とは別枠の資金提供であることだ。これにより、Intelの財政基盤がさらに強化されることになる。
Gelsinger氏は、「最先端のロジックチップを設計および製造する唯一のアメリカ企業として、我々は国内チップサプライチェーンの確保を支援します」と述べ、地政学的リスクの高まりを背景とした半導体生産の国内回帰の重要性を強調した。
Xenospectrum’s Take
Intelの大胆な改革計画は、半導体業界の激しい競争と変化する市場環境に対応するための必要不可欠な一手と言える。ファウンドリー事業の分社化は、より機動的な経営と外部顧客の獲得を可能にし、AWSとの戦略的提携は次世代のAIチップ開発において重要な一歩となるだろう。
また、今回の30億ドルの資金獲得は、Intelにとって財政的な救済策となる可能性が高い。同社は近年、財務状況の悪化に直面しており、広範なコスト削減策を実施している。これには複数の大型プロジェクトの中止や、事業部門の一部売却の可能性も含まれている。
しかし、今回の改革の成否は実行力にかかっている。大規模なリストラと並行して、いかに従業員のモチベーションを維持し、イノベーションを推進できるかが鍵となる。また、x86事業への注力と並行してAI市場でのポジション確立を目指す戦略は、リソースの分散リスクも孕んでいる。
政府支援を受けての国内生産強化は、地政学的リスクの軽減と技術覇権の維持という点で重要だが、コスト競争力の面では課題が残る。Intelが今回の改革を通じて、技術力と生産効率の両立を実現し、半導体業界のリーダーとしての地位を取り戻せるか、今後の展開が注目される。
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