スマートフォンや電気自動車(EV)など、電力により駆動するデバイスのバッテリーには、そのほとんどにリチウムが用いられており、国家戦略上でも重要な資源と位置づけられている。そのほとんどはオーストラリアの鉱山や、チリの塩湖で産出されている。だが今回、米国国家エネルギー技術研究所およびピッツバーグ大学の共同研究によれば、今まで見落とされていた天然ガス採掘の廃水から、米国の国内需要の4割近くを賄える莫大な量のリチウムが確保できる可能性があるとの事だ。
シェールガス採掘の副産物
ペンシルバニア州の地下には巨大なガス田「マーセラス・シェール」が広がっており、頁岩(シェール)層に割れ目を作り、天然ガス採掘、いわゆる「シェールガス」の採掘が盛んに行われている。
このシェールガス採掘においては、水圧破砕法(フラッキング)と呼ばれる手法が用いられる。これは、岩石を水、砂、その他の化学物質の混合物で爆破してガスや石油を回収する技術であるが、適切に管理されない場合、周囲の地下水層に大量の汚染廃水を散布する可能性があるため非常に物議を醸している。
だが今回ペンシルバニア環境保護局のコンプライアンスデータを使用した新しい分析によって、この廃水から90%以上の効率で抽出できれば、相当な量のリチウムが抽出出来る可能性が示唆された。その量は実に米国の国内需要の最大40%を賄える規模の莫大な量だという。
「どれだけの量が含まれているのか分かりませんでした。それは何億年もの間、岩を溶かしてきた。つまり、水が地下を採掘してきたのです」と、国家エネルギー技術研究所の主任研究者であり、研究のリード著者であるJustin Mackey氏は声明で述べた。
今回、ペンシルバニアの規制要件が変更となった。企業は各井戸パッドで使用される廃水の分析結果を提出する必要があり、その中に含有されるリチウムの量も報告されることになった。こうした分析結果のおかげで、研究チームはこれを把握することができ、科学誌『Scientific Reports』に報告される運びとなった。
今回の結果は驚くべき物ではあるが、Mackey氏はペンシルバニア州以外にも同様のリチウムが豊富な廃水は存在すると述べている。「ペンシルバニアはマーセラス頁岩の最も充実したデータソースを持っているが、ウェストバージニアにも多くの活動があります」と、同氏は述べている。
廃水リチウムを活用する次のステップは、抽出の環境影響を理解し、抽出技術を開発するためのパイロット施設を実施することだ。
石油とガスの廃水は大きな問題だが、現在、それは最小限の処理しかされずに廃棄されている。だがこの再利用について見直す事で多くの価値を提供する可能性が示されたことは意義深い。
論文
- Scientific Reports: Estimates of lithium mass yields from produced water sourced from the Devonian-aged Marcellus Shale
参考文献
- University of Pittsburgh: Making batteries takes a lot of lithium. Some of it could come from wastewater.
研究の要旨
脱炭素化の取り組みにより、リチウムの需要が急速に高まっている。本研究では、公共廃棄物コンプライアンス報告書とモンテカルロ法を用いて、ペンシルベニア州のマーセラス・シェールから産出される随伴水(PW)からの総リチウム質量収率を推定する。州全体では、マーセラス頁岩の生産水にはかなりの抽出可能なリチウムがあるが、濃度、生産量、抽出効率は北東部と南西部の操業ゾーンで異なる。年間推定では、州全体で年間約1160(95% CI 1140-1180)トン(mt)のリチウムが採れる。PW量に関する生産減少曲線分析により、州の北東部(中央値=2.89×107L/10年)と南西部(中央値=5.56×107L/10年)の地域間の累積量格差が明らかになり、南西部[2.90(95% CI 2.80-2.99)mt/10年]と北東部[1.96(CI 1.86-2.07)mt/10年]の個々の坑井のリチウム収量推定値に影響を与えた。さらに、Mg/Li質量比は地域によって異なり、北東部のPAはMg/Li質量比の中央値が5.39(IQR, 2.66-7.26)と低く、南西部のPAはMg/Li質量比の中央値が17.8(IQR, 14.3-20.7)と高い。これらの推定値は、マーセラスPWからのかなりのリチウム収量を示しているが、化学的性質と生産における地域的なばらつきが、回収効率に影響を与える可能性がある。
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