2025年に登場予定のMediaTekの次世代フラッグシップSoC「Dimensity 9500」の詳細情報が相次いで明らかになっている。新たに判明した情報によると、同チップは新CPU設計「Travis」および「Gelas」アーキテクチャを採用し、Apple M4同様にArmのSME(Scalable Matrix Extension)をサポートする見込みだ。
新アーキテクチャ採用で性能向上を目指す
Dimensity 9500は、現行のプロセッサアーキテクチャから大きく設計思想を変更し、新たに「Travis」および「Gelas」と呼ばれるCPUアーキテクチャを採用することが明らかになった。著名リーカーのデジタルチャットステーション(数码闲聊站)氏によると、同チップは2基のCortex-X930コアと6基のCortex-A730コアによる「2+6」構成を採用するという。これは現行のDimensity 9400で採用されている「1+3+4」構成からの抜本的な変更を意味している。
この構成変更の背景には、競合するQualcommのSnapdragon 8 EliteやSnapdragon 8 Elite Gen 2への対抗という狙いがあるとみられる。特に注目すべきはパフォーマンスコアの仕様だ。Dimensity 9500のCortex-X930コアは最大動作周波数4.00GHzでテストされていると報告されており、現行のDimensity 9400のCortex-X925(3.62GHz)と比較して約400MHz、つまり約10%の周波数向上を実現している。
しかしながら、この性能向上を以てしても、QualcommのSnapdragon 8 Eliteには及ばない状況が続くと予想される。Snapdragon 8 Eliteは標準で4.32GHzでの動作が可能で、十分な冷却性能があれば4.57GHzまで引き上げることができるためだ。さらに2025年に登場予定のSnapdragon 8 Elite Gen 2では、性能コアが5.00GHzでテストされているとの情報もある。
MediaTekがこのような周波数差を受け入れざるを得ない背景には、独自のカスタムコア開発に踏み切れないという事情がある。QualcommはArmのCPU設計が競合に遅れを取っていることを認識し、独自のOryonコア開発に移行することで高い動作周波数を実現した。一方でMediaTekは、Armとの法的な問題を避けるため、カスタムコア開発という選択肢を取ることができなかったと推測される。ただし、最近のQualcommのArm訴訟での勝利を受けて、MediaTekの戦略にも変化が生じる可能性がある点は注目に値する。
TSMCの3nmプロセスとSME対応による性能向上
Dimensity 9500の製造には、TSMCの最新3nmプロセス技術となるN3Pが採用される見込みだ。この新プロセスの採用に加え、注目すべき特徴として新たにArm SME(Scalable Matrix Extension)のサポートが実装されることが明らかになった。SMEは複雑な演算処理を効率的に処理できる命令セットで、特にマルチスレッド処理において約20%の性能向上が期待できるとされている。
現時点でSMEに対応しているプロセッサはAppleのM4が代表的な例として挙げられる。M4はArmv9アーキテクチャを採用することでSMEをサポートしており、これがGeekbench 6での高いスコアの一因となっていると分析されている。Dimensity 9500がSMEを採用することで、同様の恩恵を受けられる可能性が高い。
性能面での具体的な数字を見ると、現行のDimensity 9400は既にSnapdragon 8 Gen 3と比較して、Geekbench 6.3のシングルコアテストで25%以上、マルチコアテストでも同様の優位性を示している。さらにGPU性能においても、Snapdragon 8 Gen 3を上回る性能を実現している。しかし、Snapdragon 8 Eliteの登場により、このリードは失われることとなった。
デジタルチャットステーション氏によれば、Dimensity 9500では「大幅な性能向上」が見込まれているという。具体的なベンチマーク結果は明らかにされていないものの、これまでのMediaTekの進化の軌跡を考慮すると、Dimensity 9400からDimensity 9500への性能向上は、シングルコアで約21%、マルチコアで約8%程度が期待できる。この性能向上が実現すれば、現行のSnapdragon 8 Eliteとの性能差を埋めることも十分に可能だと考えられる。
特にGPU性能については、現時点でもDimensity 9400がSnapdragon 8 Eliteを上回っている状況を考えると、次世代のDimensity 9500ではさらなる性能差の拡大が予想される。ただし、これらの予測は現時点での推測に基づくものであり、2025年第3四半期の正式発表まで、実際の性能については慎重に見守る必要がある。
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