韓国の研究チームが、1nm(ナノメートル)未満の1次元金属材料を用いて超微細トランジスタを製造する事に成功した。この画期的な成果は、次世代半導体技術だけでなく、基礎材料科学にとって大きなブレークスルーとなる。
従来の限界を突破する新技術
韓国・基礎科学研究院(IBS)のバンデルワールス量子固体センター長であるJO Moon-Ho氏率いる研究チームが、幅1nm未満の1次元金属材料のエピタキシャル成長を実現した。この技術を応用し、研究チームは2次元半導体ロジック回路の新構造を開発。特筆すべきは、この1次元金属を超微細化トランジスタのゲート電極として使用したことだ。
従来の半導体製造プロセスでは、リソグラフィの解像度限界により、ゲート長を数nm以下に縮小することは不可能だった。しかし、研究チームは二硫化モリブデン(MoS₂)のミラーツインバウンダリ(Mirror Twin Boundary: MTB)が幅わずか0.4nmの1次元金属であることに着目。これをゲート電極として利用することで、リソグラフィプロセスの限界を突破したのである。
この1次元MTB金属相は、既存の2次元半導体の結晶構造を原子レベルで制御し、1次元MTBに変換することで達成された。また、1次元MTBベースのトランジスターは、FinFETやGAAといった技術に比べ、固有の利点もあるという。 研究者らによれば、この新しいトランジスタは、「シンプルな構造と極めて狭いゲート幅によって寄生容量を最小限に抑え」、その結果、安定性が向上しているという。
IEEE(電気電子技術者協会)の国際半導体技術ロードマップ(IRDS)は、2037年頃に半導体ノード技術が約0.5nmに達し、トランジスタのゲート長が12nmになると予測している。しかし、研究チームが開発した1次元MTBゲートによって変調されるチャネル幅は、わずか3.9nmにまで小型化可能だ。これは従来の将来予測をはるかに上回る成果といえる。
JO Moon-Ho氏は次のようにコメントしている。「エピタキシャル成長によって達成された1次元金属相は、超微細化半導体プロセスに適用できる新しい材料プロセスです。将来的には、さまざまな低消費電力、高性能電子デバイスを開発するための重要な技術になると期待されています」。
この革新的な技術は、半導体業界に新たな可能性をもたらすだけでなく、次世代のエレクトロニクス製品の性能向上にも大きく貢献する可能性がある。今後の研究開発の進展が期待される。
論文
- Nature Nanotechnology: Integrated 1D epitaxial mirror twin boundaries for ultrascaled 2D MoS2 field-effect transistors
参考文献
- Institute for Basic Science: Scientists Discover Way to “Grow” Sub-Nanometer Sized Transistors
研究の要旨
原子レベルで薄いファンデルワールス物質では、結晶粒界(面内回転が傾いた隣接結晶粒間の線欠陥)が遍在している。傾斜角度が任意である場合、粒界は不均一な副格子を形成し、制御できない局所的な電子状態を生じさせる。ここでは、位置制御エピタキシャル成長によって、2つの隣接する結晶がちょうど60°回転して反射ミラーリングする決定論的MoS2ミラーツイン境界(MTB)のエピタキシャル実現について報告する。我々は、これらのエピタキシャルMTBが回路長スケールまで一次元的に金属的であることを示した。究極の一次元(1D)特徴(幅~0.4nm、長さ数十マイクロメートルまで)を利用することにより、エピタキシャルMTBを1Dゲートとして組み込み、集積型2次元電界効果トランジスタ(FET)を構築した。1次元MTBゲートの重要な役割は、空乏チャネル長を3.9nmまで縮小し、その結果、低いゲート電圧でのチャネルオフ電流が大幅に低下することが検証された。これにより、個々のFETとアレイFETの両方で、低消費電力ロジックの最先端性能を実証した。本研究の1次元エピタキシャルMTBゲートは、高ゲート容量に強い2次元FETを集積化し、究極の微細化に向けた新たな合成経路を示唆している。
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