これまで半導体ソフトエラーの発生メカニズムや影響範囲は不明だったが、この度、NTTと北海道大学は、高精度測定装置により、これまで明らかになっていなかった、中性子がもたらす10 meV~1 MeVの低エネルギー領域におけるコンピューターへの影響について、中性子が半導体素子内でどのように振る舞い、どんな種類や量の誤動作を引き起こすかを解明した。そして、著者らは、コンピュータの組み立てや冷却に使用される材料が事態を悪化させる可能性があると警告している。
半導体ソフトエラーとは、宇宙線や放射性物質から放出される中性子が半導体素子に衝突して一時的な誤動作を引き起こす現象である。
著者らは、ソフトエラーがよく知られていることはうなずけるが、研究者がこの問題の全容を解明することはこれまでなかったと指摘する。電子機器が驚異的なスピードで普及し、多くの重要な役割で使用されている今、私たちがこの問題にどれだけ影響を受けやすいかを知ることで、より良い対策を講じることができるようになるはずだ、と著者らは指摘している。
実験は、大強度陽子加速器施設(J-PARC) 物質・生命科学実験施設(MLF)に設置された中性子源特性試験装置(NOBORU)に、NTTが開発した高速ソフトエラー検出器を用いて測定された。
同センターの説明によると、この技術により、中性子のエネルギーを測定することができる。また、FPGAのメモリにエラーがあることも確認された。
その結果、「ソフトエラーに対する低エネルギー中性子の寄与は、エラーカウント全体の約1/5~1/4、1MeV以上の中性子では1/4~1/3」と結論づけている。
著者はこれらの結果を “有意な割合”と表現している。
NTTは、この論文の結果を要約してこう述べている。「ソフトエラー発生率は、0.1 MeV付近で最も減少する傾向がみられ、さらにエネルギーが低くなるにつれて増加していく傾向があることを解明しました」
著者らは、「半導体に微量に含まれるホウ素(ホウ素10)の影響によるものと推測される」と述べている。
また、「熱中性子」と呼ばれる25meV(2.5×10-8MeV)前後のエネルギー帯の中性子では、ソフトエラー率が高くなることが判明したとのことだ。
そして、NTTの概要が指摘するように、「水、プラスチック、電子基板などの水素が含まれる物質に入ることにより減速されて生成される」ため、悪いニュースである。
すぐにはピンとこないかもしれないが、このような素材は、コンピューティング環境(特に最近のデバイスでは)では本当によく使われている。「例えば、水冷で半導体を冷却している場合、この熱中性子が大きく増加すると想定されます」と、研究者らが指摘しているように、水冷デバイスではソフトエラー率が高くなることが予想されるのだ。
著者らは、今回の発見により、「今回得られたデータにより、電子機器の周辺環境を考慮したソフトエラーによる故障数のシミュレーションや、このエネルギー領域に応じた対策などが可能となる」と指摘する。
論文
- IEEE Xplorer: Energy-Resolved SEU Cross Section From 10-meV to 800-MeV Neutrons by Time-of-Flight Measurement
参考文献
研究の要旨
大強度陽子加速器施設(J-PARC)において、10meV-1MeVのエネルギー範囲におけるシングルイベントアップセット(SEU)断面積の連続観測を実施した。その結果、0.1MeV以下の10B ( n , α)7反応の断面積への影響を明確に観測することができた。
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