eスポーツが果たしてスポーツなのかという議論はあるだろうが、今回の国際オリンピック委員会(IOC)の決定はeスポーツの地位を向上させることに大きく貢献することになるだろう。IOCはサウジアラビアと12年間のパートナーシップを締結し、2025年に初のオリンピックeスポーツ大会をサウジアラビアで開催する事を発表した。これは、伝統的なスポーツの枠を超えて、デジタル時代における競技の新たな形を模索するIOCの野心的な取り組みを反映する物と言えるだろう。
12年のパートナーシップが結ばれ、2年ごとの開催の可能性
「国際オリンピック委員会（IOC）は本日、サウジアラビア王国においてオリンピック・エスポーツ・ゲームズ2025を初開催するため、サウジアラビア国内オリンピック委員会（NOC）と提携したことを発表しました。この提案は、オリンピック・パリ大会2024の前夜に開催されるIOC総会で行われます。IOCとサウジアラビアNOCの提携期間は12年間で、オリンピックeスポーツゲームは定期的に開催されます」と、IOCは声明の中で発表している。
オリンピックがeスポーツ大会を検討していることは過去にも報じられたが、今回正式に発表された形だ。
IOC会長のThomas Bach氏は、サウジアラビアの選定理由について、「サウジNOCはEスポーツ分野において、全てのステークホルダーに関して優れた―おそらく他に類を見ない―専門知識を持っています」と述べ、その経験がオリンピックeスポーツゲームに大きく貢献すると期待を寄せている。
さらにBach氏は、「サウジNOCとのパートナーシップにより、オリンピックの価値観が尊重されることも確保しました。特に、プログラムに含まれるゲームタイトル、ジェンダー平等の促進、そしてEスポーツを受け入れている若い観客との関わりに関して」と強調し、この新しい取り組みがオリンピック精神と合致することを強調している。
具体的な開催都市、会場、日程などの詳細はまだ決定されていないが、IOCは既存のスポーツのデジタル版やeスポーツに関与している国際連盟や各国オリンピック委員会をパートナーの第一候補としている。昨年シンガポールで開催された試験的なイベント「オリンピックeスポーツウィーク」では、『Gran Turismo』、『Fortnite』、『Just Dance』、『Zwift』などのゲームが採用された。
さらに注目すべきは、IOCがより人気の高いeスポーツタイトルの採用も検討している点だ。フランスのスポーツ紙L’Equipeによると、『Rocket League』、『Street Fighter』、そして世界最大のeスポーツタイトルである『League of Legends』の採用に向けて、IOCが出版社と交渉を進めているという。これらの競技が正式に採用されれば、オリンピックeスポーツゲームの注目度と競技性が大幅に高まることが予想される。
サウジアラビアのスポーツ大臣でありオリンピック・パラリンピック委員会会長でもあるAbdulaziz bin Turki Al Faisal王子は、この決定について「サウジアラビアは、IOCと提携し、国際スポーツの新時代を迎えることに大きな期待を寄せています」と述べ、さらに「オリンピック史の新しい章を書くことをサポートできることを誇りに思います。これは文字通り、世界中の何百万人もの選手たちに新しい夢と新しい抱負を抱かせる可能性を秘めています」と、この取り組みの意義を強調している。
サウジアラビアは近年、Vision 2030と呼ばれる社会経済改革計画の下で、スポーツ全般、特にEスポーツ分野での成長が著しい。同国には2300万人以上のゲーマーがおり、人口の67%が自身をゲーマーと考えているという驚くべき統計がある。また、女性のスポーツ参加も急速に拡大しており、ゲーマーの約半数が女性であることも注目に値する。
一方で、サウジアラビアの人権状況に対する国際的な懸念も指摘されている。同国がエンターテインメントやスポーツ、eスポーツを通じてイメージ向上を図っているとの見方もあり、IOCの決定には議論の余地がある。
しかし、IOC女性委員会委員長でもあるReema Bandar Al-Saud王女は、「eスポーツにおける女性参加の増加傾向を目の当たりにするのは非常に興奮します」と述べ、この取り組みが女性のエンパワーメントにつながる可能性を示唆している。
オリンピックeスポーツゲームは2年ごとに開催される可能性があり、韓国や米国も将来の開催地として検討されているという。今後、IOCは組織内に専門の部署を設置し、従来のオリンピック大会とは異なる財政・運営モデルを構築する必要がある。
この新しい取り組みは、オリンピック運動とEスポーツ産業の双方に大きな影響を与えることが予想される。伝統的なスポーツの価値観とデジタル時代の競技文化をいかに融合させるか、また、若い世代をオリンピック精神にいかに引き付けるか。2025年のサウジアラビア大会は、これらの課題に対する一つの答えを示すことになるだろう。
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