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スマホ最高峰HDRセンサー「OMNIVISION OV50X」が発表

Y Kobayashi

2025年4月13日

OMNIVISIONが、スマートフォン向けとしては業界最高のダイナミックレンジ(HDR)を実現するCMOSイメージセンサー「OV50X」を発表した。この新しい50メガピクセル(MP)センサーは、同社のTheiaCel™技術を搭載し、特に動画撮影において、これまでにないレベルの画質をフラッグシップスマートフォンにもたらすことを目指している。サンプリングは既に開始されており、2025年第3四半期の量産開始を予定している。

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1インチセンサーが切り拓く「映画品質」HDR動画

OV50Xの核心は、その大きな1インチ光学フォーマットと1.6µm(マイクロメートル)のピクセルサイズにある。大型センサーは一般的に多くの光を取り込むことができ、画質、特に低照度性能において有利である。しかし、OMNIVISIONがOV50Xで最も強調しているのは、単一露光でのハイダイナミックレンジ(HDR)性能だ。

HDRとは、明るい部分(ハイライト)と暗い部分(シャドウ)の輝度差が大きいシーンでも、白飛びや黒つぶれを抑えて、人間の目で見た景色に近い、あるいはそれ以上の階調豊かな映像を記録する技術だ。従来のスマートフォンカメラ、特に動画撮影においては、このHDR性能に限界があった。

OV50Xは、OMNIVISION独自のTheiaCe技術を搭載することで、この課題に正面から取り組んでいる。TheiaCeは、同社の横方向オーバーフロー積分キャパシタ(LOFIC: Lateral Overflow Integration Capacitor)技術と、独自の単一露光HDR技術を組み合わせたものだ。これにより、OV50Xは単一露光で約110dB(デシベル)という、スマートフォン向けセンサーとしては現時点で最高クラスのダイナミックレンジを達成したとOMNIVISIONは主張している。これは、前世代のTheiaCeセンサーであるOV50K40(約90dB)と比較しても大幅な向上だ。

OMNIVISIONの製品マーケティングディレクター、Arun Jayaseelan氏は、「真の差別化要因は、明るい領域の詳細を捉えつつ、暗い領域や影の部分で良好な信号対雑音比(SNR)を維持することです」と説明する。従来、静止画であれば複数枚の画像を撮影して合成することで広いダイナミックレンジを得る手法(マルチ露光HDR)が一般的だったが、動画ではリアルタイム処理が求められるため、この手法は適用が難しい。OV50Xは単一露光でこれを実現するため、「静止画だけでなく、動画においてプレミアムな性能を発揮する」とJayaseelan氏は強調する。

TheiaCelの成果:LOFICとDCGによる3チャンネルHDR

OV50Xが達成した約110dBの単一露光HDRは、TheiaCel、特に「DCG + LOFIC」による3チャンネルHDRによって実現されている。これを理解するために、少し技術的な背景を掘り下げてみよう。

  1. LOFIC(Lateral Overflow Integration Capacitor):
    • ピクセル内に、溢れた(飽和した)電荷を一時的に蓄えるためのキャパシタ(コンデンサ)を設ける技術。
    • 非常に明るい光(太陽、強い照明など)が入射した場合、通常のフォトダイオードはすぐに飽和してしまい、それ以上の情報を記録できない(白飛び)。LOFICはこの飽和した電荷を受け止めることで、明るい部分の階調情報を保持する。
    • Jayaseelan氏が指摘するように、「日没、日の出、明るい窓の前、あるいは明るい照明のある夜間など、携帯電話では処理が難しい高輝度画像」で特に効果を発揮する。
    • また、LED照明下での動画撮影時に発生しやすい「フリッカー(ちらつき)」を軽減する効果もあるとされる。
  2. DCG(Dual Conversion Gain):
    • 一つのピクセルで、高感度(High Conversion Gain: HCG)と低感度(Low Conversion Gain: LCG)の二つの信号を同時に、あるいは選択的に読み出す技術。
    • HCGは暗い部分のノイズを抑え、LCGは明るい部分の飽和を防ぎ、ダイナミックレンジを拡大するのに役立つ。

OV50Xでは、このDCG(HCGとLCG)にLOFICを組み合わせることで、単一露光で3つの異なる情報(HCG信号、LCG信号、LOFIC信号)を読み出す「3チャンネルHDR」を実現している。これにより、暗部からハイライトまで、極めて広い範囲の輝度情報を一度の露光で捉えることが可能になった。これは、前世代のOV50K40がHCG + LOFICによる「2チャンネルHDR」だった点からの進化である。

Jayaseelan氏は、「(単一露光で約110dBのHDR性能は)日没を背景に人物を撮影しようとして、人物の顔が非常に暗くなってしまうような、コーナーケース(極端な状況)で特に重要になります」と述べている。「このような状況では、暗い領域で良好なSNRを確保しつつ、背景の明るい領域の詳細も捉える必要があります。これらは一般的なケースではありませんが、コーナーケースは非常に重要であり、携帯電話メーカーにとって差別化要因となり得ます。LOFIC技術がこのような困難な環境で役立つのです」。

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高速性能と高度な機能

OV50Xは、優れたHDR性能に加え、フラッグシップスマートフォンに求められる他の高度な機能もサポートしている。

  • 高速フレームレート: 4つのピクセルを1つとして扱い感度を高める「4セルビニング」時には、12.5MPの解像度で最大180fps(フレーム/秒)の撮影が可能。3チャンネルHDRモード有効時でも60fpsを実現しており、滑らかなスローモーション動画や高品質なHDR動画撮影に対応する。
  • 8K動画: プレミアム品質の8K動画撮影をサポート。デュアルアナログゲイン(DAG)HDRオンセンサー・クロップズーム機能も備える。
  • 高速オートフォーカス: センサー全面を位相差検出に利用するクアッド位相差検出(QPD)をサポート。100%のカバレッジにより、迅速かつ正確なオートフォーカス(AF)性能を実現する。
  • 優れた低照度性能: OMNIVISIONのPureCel®Plus-S積層ダイ技術を採用。センサーチップ(画素層)とロジックチップ(回路層)を別々に製造し、垂直に積み重ねることで、画素領域の面積を最大化し、配線などの制約を減らすことができる。これにより、光の取り込み効率が向上し、暗い場所でのノイズを抑えた撮影が可能になる。

市場への影響と将来性

OMNIVISIONのマーケティングマネージャーであるTakuritsu Li氏は、「今日、動画や写真の撮影の大半はスマートフォンで行われており、映画品質の動画撮影は、消費者がフラッグシップ携帯電話に求める非常に重要な機能となっています。私たちのOV50Xイメージセンサーは、プロのビデオグラファーやフォトグラファーを念頭に設計されており、約110dBの単一露光HDRを提供する大型1インチ光学フォーマットのイメージセンサーを特徴としています。消費者は今や、日の出、日没、明るい光のある夜間、曇りの日といった困難な撮影条件下でも、一日中優れた動画や写真を撮影できるスマートフォンを所有できるようになります」と、述べている。

OV50Xの登場は、スマートフォンカメラ、特に動画性能の競争をさらに激化させる可能性がある。1インチという大型センサーサイズと、約110dBという単一露光HDR性能は、現行のフラッグシップ機と比較しても際立ったスペックであり、今後のハイエンドスマートフォンにおけるカメラシステムの新たな基準となるかもしれない。特に、従来のマルチ露光HDRでは難しかった、動きの速い被写体を含むシーンや、リアルタイム性が重視される動画プレビューでのHDR性能向上が期待される。

OV50Xは現在サンプリング中で、量産開始は2025年第3四半期に予定されている。実際にこのセンサーを搭載したスマートフォンが登場するのは、早くとも2025年末から2026年にかけてとなるだろう。この「OMNIVISIONの最高峰HDRセンサー」が、スマートフォンの動画体験をどのように変革するのか、今後の動向が注目される。


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