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トランプ関税:ハイテク製品の免除は一時的、1〜2ヶ月後に「半導体関税」導入へ

Y Kobayashi

2025年4月14日

4月に発表され、市場を混乱に陥れたDonald Trump政権による“相互”関税は、先週末、スマートフォンやPCなど一部ハイテク製品への関税免除が発表され、一時的に安堵をもたらした。しかし、Howard Lutnick米商務長官は、この措置が一時的なものに過ぎず、「1~2ヶ月後」にこれらの製品を対象とした新たな「半導体関税」を導入する方針を明らかにしており、ハイテク業界と消費者の不安はまだまだ払拭されることはなさそうだ。

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一時的な安堵:ハイテク製品への関税免除とその背景

混乱が続く米国の関税政策において、先週金曜日の夜、一つの動きがあった。米税関・国境警備局(CBP)が公報を発表し、4月2日以降に発表された関税措置から、スマートフォン、コンピューター、太陽電池、薄型テレビ用ディスプレイ、半導体ベースのストレージデバイスなど、多くの主要な電子機器を一時的に除外することを明らかにしたのである。

この発表は、特に中国からの輸入品に対する最大125%ともされる報復関税や、Donald Trump大統領が課した世界的な10%の関税率から、これらの製品が当面の間、対象外となることを意味した。これは、特に中国での生産比率が高いAppleなどの企業にとっては、まさに「大きな恩恵」となるはずだった。

しかし、この安堵感は長くは続かないかもしれない。

迫る「半導体関税」:導入時期と狙い

日曜日に放送されたABC Newsの番組「This Week」で、Howard Lutnick商務長官は、この免除措置が決して「恒久的な種類の免除ではない」と明言した。同長官によれば、免除された電子機器は、今後導入される「半導体関税」の対象となるという。

Lutnick長官は、「これらの製品はすべて半導体関税の枠組みに入り、特別な焦点タイプの関税が適用されることになります。これらの製品の製造を(アメリカ)国内に戻すことを確実にするためです」と述べた。導入時期については「おそらく1ヶ月か2ヶ月後。すぐに来ます」との見通しを示している。

この「半導体関税」の具体的な税率や詳細な仕組みについては、現時点では明らかにされていない。しかし、その目的は明確だ。Lutnick長官は、「私たちは半導体、チップ、フラットパネルをアメリカで製造する必要があります。私たちの生活に必要なあらゆるものを東南アジアに依存することはできません」と強調。半導体産業や、言及された製薬産業などを米国内に誘致するための「関税モデル」を導入する考えを示した。

さらに、「これらは国家安全保障に関わるものであり、アメリカで作られる必要があります。他国との交渉によって譲歩できるようなものではありません」と述べ、今回の措置が単なる貿易交渉のカードではなく、国家安全保障戦略の一環であることを示唆している。

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価格は?供給は? メーカーと消費者を襲う不確実性

Lutnick長官の発言は、メーカーと消費者の双方に新たな懸念と混乱をもたらしている。関税が免除されたことで安定するかに見えたハイテク製品の価格と供給は、再び不確実性の波に飲み込まれた状況だ。

価格上昇への懸念

「This Week」の司会者Jonathan Karl氏が、「これらの関税は、米国内での製品価格の上昇を意味するのか?」と尋ねたのに対し、Lutnick長官は「必ずしもそうは思わない。アメリカで製造できると考えている」と楽観的な見方を示した。その根拠として、日本のPanasonicがカンザス州に建設中の大規模工場を例に挙げた。

しかし、Lutnick長官が言及した工場は、電気自動車(EV)向けバッテリー工場であり、2022年11月に着工が発表されたものだ。さらに重要な点として、この工場はBiden政権下のインフレ抑制法(IRA)による数十億ドル規模の税制優遇措置を受ける見込みである。Trump大統領は、このインフレ抑制法について「未使用の資金をすべて撤回する」と公言しており、Lutnick長官が楽観論の根拠とした事例そのものが、政権交代によって覆される可能性を指摘している。

多くのエコノミストは、国内でのハイテク製品生産体制の構築には長い年月がかかり、たとえ実現したとしても、現在よりも製品価格が高くなる可能性があると予測している。Apple自身も、国内生産への移行は米国の消費者に手頃な価格のiPhoneをもたらさないだろうと主張してきた経緯がある。

メーカーの対応とサプライチェーン

関税を巡る混乱は、メーカーの事業戦略にも影響を与えている。関税引き上げの発表を受け、Razer、Dell、LenovoなどのPCメーカーは、すでに米国顧客向けの販売を停止したり、米国への出荷を停止したりする動きを見せていた。今回の「一時的な」免除と、それに続く「半導体関税」の予告は、これらの企業がすぐに販売を再開することをためらわせる可能性がある。

Appleは、中国製品への高関税を回避するため、インドでiPhoneを「備蓄」し、そこから米国へ出荷する戦略を進めていると報じられている。任天堂も同様に、ベトナムで製造された次世代機「Switch 2」(仮称)を利用する戦略をとっているとされる。しかし、Lutnick長官の発言からは、新たな「半導体関税」が、製品の原産国に関わらず、半導体を使用する特定の電子機器カテゴリー全体に適用される可能性も読み取れる。そうなれば、生産拠点を移すだけでは関税を回避できないシナリオも考えられる。

市場の反応

関税を巡るニュースはAppleの株価を大きく揺さぶってきた。金曜夜の免除措置は投資家に一時的な安堵感を与えたものの、今回のLutnick長官の発言は、税率も詳細も不明な新たな関税への懸念を再燃させ、さらなる不確実性をもたらしている。

国内回帰は実現可能か? Trump政権の狙いと現実

Trump政権が目指すのは、ハイテク製品のサプライチェーンを米国に回帰させる「リショアリング」である。Lutnick長官は「アメリカで作る必要がある」と繰り返し強調した。

しかし、その実現への道のりは平坦ではない。Jonathan Karl氏が指摘したように、「明日すぐに工場を開いてiPhoneを作れるわけではない」。高度な技術と複雑なサプライチェーンを要するハイテク製品の生産拠点を国内に移管するには、莫大な投資と長い時間が必要となる。

Lutnick長官が挙げたPanasonicの事例も、前述の通り、現政権の政策(IRA)による後押しが大きい。もしTrump氏が、IRAを撤回あるいは修正した場合、同様の国内投資が今後も続く保証はない。

半導体製造に関しては、Biden政権下で成立したCHIPS法による補助金などを通じて、すでに国内投資が進んでいる側面もある。しかし、スマートフォンやPCなどの最終製品の組み立てまで含めた大規模な国内回帰が、競争力のあるコストで実現できるかは、依然として大きな課題である。

米中貿易摩擦:関税措置と交渉の見通し

今回の関税措置の背景には、長期化する米中貿易摩擦がある。現在、米国は中国からの輸入品に対して最大145%の関税を課しており、一方、中国も米国からの輸入品に対して125%の報復関税を課しているとされる(ただし、税率は品目や状況によって変動する可能性があるため注意が必要)。中国はこれ以上の関税引き上げは行わないとしつつも、他の対抗措置をとる可能性を示唆している。

Lutnick長官は、ABC Newsのインタビューで、米中間の関税交渉について楽観的な見方を示した。「水面下での接触や仲介者を通じたコメントといった『ソフトエントリー』のようなものはあったと思う」と述べ、「最終的には米国のDonald Trump大統領と中国の習近平国家主席がこれを解決すると、皆が期待している」「私は完全に確信しており、大統領も同様に、これは米国にとって肯定的で思慮深く効果的な方法で解決されるでしょう」と語った。

しかし、現在の両国の対立状況を鑑みれば、交渉が容易に進むとは考えにくい。Lutnick長官の楽観論が現実のものとなるか、あるいはさらなる対立激化を招くのか、予断を許さない状況が続いている。

今回の「半導体関税」の導入予告は、Trump政権が、ハイテク分野における対中依存からの脱却と国内産業の保護・育成を、国家安全保障上の重要課題と位置づけていることを改めて示すものだ。しかし、その具体的な手法、影響、そして実現可能性については、多くの疑問符が残されている。今後、詳細な情報が明らかにされるのを待つ必要があるが、ハイテク業界と消費者は、しばらくの間、関税を巡る不確実性と向き合わざるを得ないだろう。


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