半導体業界で注目を集める新たな冷却技術が登場した。スタートアップ企業のPhononicが発表した、革新的なCPU冷却器「Hex 2.0」は、従来のパッシブ冷却とアクティブ冷却を巧みに組み合わせたもので、効率的な熱管理を実現するという。AI需要によるコンピューティング能力の増強により、冷却能力向上が求められている特にデータセンター冷却に期待が持てそうだ。
Phononicが描く次世代の冷却ソリューション
Phononicが開発したHex 2.0は、一見すると従来のCPUクーラーに似ているが、その内部にはこれまでの物とはことなる革新的な技術が詰め込まれている。この冷却器は、パッシブ冷却用のヒートシンクと、半導体ベースのアクティブ冷却システムを1つのデバイスに統合しているのだ。
Phononicの技術責任者であるJesse Edwards氏は、Hot Chips会議で行われたセミナーで次のように説明した。「必要でないときは追加の電力消費はゼロですが、アクティブ冷却が必要な場合は35Wの電力を使用して170W TDPのCPUを管理できます」。
Hex 2.0の性能は、従来の240mm全水冷システムと競合するレベルにあるという。具体的には、AMDのRyzen 9 9950Xを使用したストレステストで、液冷システムや空冷システムを上回る冷却性能を示したとPhononicは主張している。
この新技術の特筆すべき点は、必要に応じてアクティブ冷却を動作させることができると言う、その柔軟性にある。通常時はパッシブ冷却として機能し、高負荷時にのみ半導体ベースの冷却システムが起動する。これにより、必要最小限の電力消費で最大の冷却効果を得ることが可能になる。
Hex 2.0のサイズは125 x 112 x 95mmで、重量は810グラムと、一般的なタワー型CPUクーラーと同程度のサイズ感を実現している。搭載されている92mmファンは、最大2650RPM(アイドル時1000RPM)で動作し、最大44立方フィート/分の空気流量を生み出す。最大負荷時の騒音レベルは33dBAと、比較的静音性も確保されている。
ペルチェ素子の復活と市場戦略
Hex 2.0の核心技術は、ペルチェ素子を利用した半導体ベースの冷却システムにある。ペルチェ素子を用いた冷却技術は過去にも存在したが、消費電力の増加という課題があった。Phononicは、この効率の問題を解決したと主張している。
Edwards氏は、Hex 2.0の熱ポンプについて「従来の蒸気圧縮システムと比較して、容量、性能、コストの面で競争力があり、非常にコンパクトです」と述べている。さらに、複数のデバイスを組み合わせることで、より高い冷却効果を得られるという。
Phononicの市場戦略は興味深い。最新の水冷システムを採用した新世代のデータセンターではなく、空冷を基本とする既存のデータセンターをターゲットにしている。この戦略は、既存インフラへの導入障壁を低くし、市場参入を容易にする狙いがあると考えられる。
一方で、競合他社も革新的な冷却技術の開発を進めている。既に本サイトでもご紹介したFrore SystemsはAirjetと呼ばれる固体冷却チップを開発し、ノートPCやSSDの冷却を目指している。xMEMSはさらに小型の固体冷却チップXMC-2400を開発し、スマートフォンとSSD市場に参入しようとしている。
Phononicの技術がデータセンター市場で受け入れられるかどうかは未知数だが、CPUの高性能化に伴う熱問題は確実に深刻化している。Hex 2.0が市場に与える影響と、競合他社の動向に注目が集まっている。
将来的にPC市場への展開も視野に入れているのかもしれない。Be Quiet!など他のメーカーも、低騒音と高い熱排出能力を両立させた製品の開発に注力している。Hex 2.0がPCユーザーに新たな選択肢を提供する日が来るかもしれない。
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