Qualcommはこれまで新たなWindows PC向けのArmチップ「Snapdragon X」シリーズについては、「Snapdragon X Elite」の存在しか明らかにしていなかったが、Snapdragon Xシリーズは単一の構成からなる物ではなく、Qualcommは市場のさまざまな価格/性能層向けに幅広いチップ構成を準備している。そして今回、同社は新たなバリエーションとして「Snapdragon X Plus」を正式に発表するとともに、Snapdragon X Eliteの3つの構成についても、いくつかの技術的な詳細とともに明らかにしている。
Snapdragon Xの命名規則と4つの構成
今回明らかになったのは、Snapdragon Xチップが4つの構成でリリースされる事、またそのそれぞれに割り振られる正式な製品番号だ。QualcommがPC向けSoCでこうした形で製品をリリースするのは初めてであるため、今回同社は製品番号の付け方について解説を行っている。
同社はフラッグシップチップの「Snapdragon X1E-84-100」を例に取り、上図の様に解説を行っている。最初のアルファベットまでは製品ファミリー(Snapdragon X)を示し、2番目の数字は製品の世代(この場合はSnapdragon Xの第1世代)を示す。3番目のアルファベットは階層を示し(現時点ではElite(E)またはPlus(P))、その後の2桁の数字がSKUで、数字が大きい方が性能が高い事を示す。最後の数字はQualcommが今後の製品のための予約している物とのことだ。
長くて分かりにくいが、とりあえずは世代の数字と階層、SKUの3つがある認識で良いだろう。
これを踏まえて今回同社が明かした4つの構成を以下に示す。
コア数 | 総キャッシュ容量 | 最大クロック周波数(マルチスレッド) | デュアルコア・ブースト | GPU性能 | NPU TOPS | メモリ | |
---|---|---|---|---|---|---|---|
Snapdragon X1E-84-100 | 12 | 42MB | 3.8GHz | 4.2GHz | 4.6TFLOPs | 45 TOPS | 最大64GB LPDDR5X-8448 |
Snapdragon X1E-80-100 | 12 | 42MB | 3.4GHz | 4.0GHz | 3.8TFLOPs | 45 TOPS | 最大64GB LPDDR5X-8448 |
Snapdragon X1E-78-100 | 12 | 42MB | 3.4GHz | 3.4GHz | 3.8TFLOPs | 45 TOPS | 最大64GB LPDDR5X-8448 |
Snapdragon X1P-64-100 | 10 | 42MB | 3.4GHz | 3.4GHz | 3.8TFLOPs | 45 TOPS | 最大64GB LPDDR5X-8448 |
Snapdragon Xチップファミリーの階層は、CPUコア数に基づいて分かれている事が分かる。Eliteチップはすべて、12個のOryon CPUコアすべてが有効化されているが、Plusチップは、これらのCPUコアのうち2つが減少し、10コアとなっている。
Snapdragon X Elite:それぞれの詳細とダウングレード
フラッグシップチップだは最速で完全に有効化されたSnapdragon X Eliteチップ、「Snapdragon X1E-84-100」となる。このチップは、45TOPS NPUや42MBのシステム・キャッシュなど、Qualcommがこれまで実証してきたように、Snapdragon X Eliteのすべての性能と機能を備えている。
ただし、昨年10月のデビュー時に比べるといくらかスペックがダウングレードされている部分がある事に気付くだろう。まず、このチップのデュアルコアのピーククロック周波数(Qualcommがデュアルコア・ブーストと呼ぶもの)は、初期のデモで見られた4.3GHzではなく、4.2GHzとダウングレードしている。LPDDR5Xメモリの周波数についても、昨年の発表時に見られたLPDDR5X-8533から、LPDDR5X-8448となっている。
Qualcommはこのスペック低下については何も触れていないし触れたくないのだろう。恐らく製造上の何らかのトラブルか、当初の予想よりも困難を極めた結果の妥協点という形だろうか。
2番目のチップは「Snapdragon X1E-80-100」となる。このパーツは、ハードウェアの構成的にはフラッグシップと並ぶ物だが、CPUとGPUのクロックスピードが低下している。CPU面では、デュアルコアブーストが4.0GHzになり、200MHz(5%)低下している。一方、オールコアの最大クロック周波数は3.4GHzで、フラッグシップのEliteチップから400MHz(11%)低下している。
GPUについては、このSKUの定格スループットは3.8 TFLOPsで、フラッグシップ・チップより0.8 TFLOPS(17%)低くなっている。現在のところ、QualcommはSnapdragon Xのダイに含まれるGPUブロック/コアの数を明らかにしていないため、これがGPUクロックスピードの低下だけなのか、それともGPUコアを無効化しているのかは不明だ。
Eliteチップの最後になるのが「Snapdragon X1E-78-100」だ。このチップは、デュアルコアブーストがなく、チップ上の12個のOryon CPUコアのどれもが、オールコアの最大クロック周波数である3.4GHzより高いクロック周波数にならないように制限されているようだ。
Snapdragon X Plus:新たに明らかになった下位モデル
Qualcommは、Snapdragon X Eliteの下に位置するモデルとして、Snapdragon X Plusという2つ目のSnapdragon Xチップを導入する。
QualcommはSnapdragon X PlusがSnapdragon X Eliteと同じダイを使用しているかどうかを明らかにはしていないが、4つのSKUがすべて同時に発表されることを考えると、これらすべてがQualcommの初期Snapdragon Xダイを使用していると考えるのが妥当だろう。
「Snapdragon X1P-64-100」は、CPUコア数以外はすべて下位のEliteチップと同じ物となる。それ以外はEliteチップと同じ機能で、メモリ帯域幅、キャッシュ、NPU、GPUの性能/構成も全てが同じ物だ。違うのは、マルチスレッド性能だけという事になる。
今回のお披露目でも、QualcommはIntelやAMDとの比較を行った。ベンダーの提供するベンチマークテストと言う事で、鵜呑みにすることはオススメしないが、同社がどこに焦点を当てて性能を誇っているのかは見ておいても良いだろう。
特に同社が主張しているのはマルチスレッドワークロードの性能だ。Snapdragon X Plusは、iso-powerとiso-performanceのそれぞれにおいて、性能と消費電力の両方で大きな優位性を持っている。Cinebench 2024MTの場合、Core Ultra 7 155Hに対して28%の性能優位性があり、39%低い消費電力で同チップのピーク性能に匹敵する。逆にシングルスレッド性能はあまり触れたくないのか、同社は誇らしげなベンチマークテスト結果を公開していない。
実際のグラフからも見て取れるように、Eliteチップは明らかにPlusチップに対し、ほぼ全ての部分で大きくパフォーマンスが上回っている。
最後に、Snapdragon Xシリーズチップのディスプレイコントローラ(Adreno DPUブロックの一部)は、4つのディスプレイ出力をサポートしている。これにより、最大4K@120Hzの内部ディスプレイ1台と、最大4K@60Hzの外部ディスプレイ3台を使用できる。また、2台の外部ディスプレイを使用する場合は、5K@60Hzをサポートする。Qualcommは、Snapdragon XをAppleのM3 SoCと競合させるつもりだが、M3チップが合計2台のディスプレイしかサポートしないこと不評な事を考えると、Qualcommは自社のディスプレイコントローラの優位性を強調したいようだ。
逆に、SoCの画像取得側を駆動するのは、Qualcommの18ビットSpectra ISPのペアとなる。これはフラッグシップスマートフォンのカメラのようなものには取り付けられないため、Snapdragon 8ファミリーのようなものほど高性能ではない。しかし、Snapdragon Xチップは、最大64MPのシングルカメラセンサーか、それぞれ最大36MPのデュアルセンサーをサポートする。また、これらのデバイスのプライマリストレージは、以前に公開されたPCIe 4バスを経由するNVMe SSDになる一方で、Qualcommは、SoCがUFS 4.0とSD 3.0のメモリインターフェイスを提供することも確認している。
最後に、QualcommはこれらのSKUにTDPを割り当てていないことに留意すべきだろう。公式には、Snapdragon Xの全製品は、薄型軽量のウルトラブックから高TDPの生産性ノートPCまで、OEMが決定するシステムの構成と冷却方法に応じてあらゆる製品に適している。そのため、AMDやIntelに見られるようなU/H/HSの区別はない。とはいえ、消費電力が性能に比例することを考えれば、Plusが最も低消費電力なチップになるだろう。
Qualcommによれば、これらSnapdragon Xチップを搭載したWindows AI PCは今年半ばの登場の予定だ。
Sources
コメント