Samsung Electronicsと半導体製造装置の世界最大手ASMLは、韓国・華城(ファソン)に建設予定だった共同研究開発(R&D)センター計画を修正し、代替案を模索していることが明らかになった。ASMLが計画用地の一部を売却したことで憶測を呼んだが、両社は協力関係の継続を強調しており、より効率的かつ迅速な研究開発体制の構築を目指すという。
計画変更の経緯:華城の土地売却と協力継続の確認
2023年12月、SamsungとASMLは、約1兆ウォン(当時のレートで約7億ユーロ、約1100億円)を共同投資し、韓国の首都圏に最先端の極端紫外線(EUV)リソグラフィ技術に関する研究施設を建設すると発表した。EUVリソグラフィは、10ナノメートル(nm、1nmは10億分の1メートル)以下の微細な回路パターンを半導体ウェハー上に形成するために不可欠な技術であり、ASMLはこのEUV露光装置を世界で唯一製造・供給している。Samsungは、自社のファウンドリ(半導体受託製造)事業やメモリ半導体製造において、このEUV技術を積極的に活用している。
この発表を受け、ASMLは研究施設建設のため、京畿道(キョンギド)華城市の東灘(トンタン)2新都市にある約19,000平方メートルの土地を購入する契約を韓国土地住宅公社(LH)と2024年6月に締結した。当初の計画では、この地に共同研究施設が建設される予定だった。当時、Samsungの半導体事業トップ(当時)だった慶桂顯(キョン・ゲヒョン)氏も、オランダ出張からの帰国時に「京畿道東灘に共同研究所を建設する」と述べ、華城での建設計画を公式に認めていた。
しかし、韓国メディアETNewsの報道によると、ASMLはこの計画用地の売却を進めているという。既に6区画のうち2区画を売却済みで、さらに2区画の売却手続きを進めているという。残りの2区画だけでは当初計画の研究施設を建設するには不十分であり、ASMLは残りの土地にも共同研究施設を建設する計画はないと報じられている。
この土地売却の動きから、一部では両社の協力関係に問題が生じたのではないかとの憶測も流れた。しかし、ASML本社はETNewsの取材に対し、「具体的な内容については明らかにできない」としながらも、「一部で報じられている共同研究所のキャンセルは事実ではなく、両社は緊密に協力している」とコメント。Samsung側も、ASMLによる土地売却はSamsungとは無関係であり、両社の協力は継続しているとの立場を明らかにしている。
両社は共同研究開発の重要性を再確認しており、計画変更は協力関係の破綻ではなく、より効率的かつ迅速に研究開発を進めるための戦略的な判断であるようだ。
背景と今後の展望:EUV技術の重要性と新たな協力形態
今回の計画変更の背景には、最先端半導体開発におけるスピードと効率性の追求があると考えられる。新しい土地に建物を建設し、高度な研究設備を導入するには多大な時間と費用がかかる。そのため、より迅速かつ投資効率の高い方法が模索されている。
代替案として具体的に挙がっているのは、以下の二つである。
- 華城以外の場所への建設: 当初の計画地とは異なる、新たな場所に共同研究施設を建設する可能性。
- 既存のSamsung施設内への設置: 新たに建物を建設するのではなく、Samsungが保有する既存の工場や研究施設内に共同研究センターを設置する案。業界関係者によると、この案も議論されているという。
いずれの案を採用するにせよ、世界最先端の半導体技術、特にEUVリソグラフィに関する共同研究は、両社にとって極めて重要である。EUV技術は2nm以下のプロセスノード、さらには原子レベルの寸法精度が求められる「オングストローム時代」の半導体量産に不可欠な要素となっている。
Samsungは、この先端技術開発においてASMLとの連携を強化している。韓国メディアThe Financial Newsによると、Samsungは2025年3月初旬に、次世代のHigh-NA(高開口数)EUV露光装置であるASML製の「EXE:5000」初号機を華城キャンパスに導入したようだ。さらに、別の報道では、Samsungが開発中の2nmプロセス「SF2」のテスト生産において、初期歩留まり(良品率)が予想を上回る30%超を達成したと伝えられている。同社は2025年後半にこのプロセスの安定化を図り、次期モバイルプロセッサ「Exynos 2600」の量産に備える計画だ。
こうしたSamsungの積極的な技術開発の動きは、ASMLにとっても重要となる。ASMLの2025年第1四半期の決算報告によると、韓国は同社の総売上高の40%を占める最大の市場であり、2024年第4四半期の25%から大幅に増加している。Samsungという最重要顧客との強固な連携は、ASMLにとっても不可欠だ。
今回の共同研究施設計画の変更は、単なる遅延や縮小ではなく、より迅速かつ効率的に最先端技術開発を進めるための戦略的な方向転換と見ることができるだろう。具体的な代替案が固まり、新たな研究施設が稼働するにはまだ時間がかかると予想されるが、SamsungとASMLの技術同盟は形を変えながらも継続していく見込みだ。両社の協力が、今後の半導体技術の進展にどのような影響を与えるか、引き続き注目される。
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