トヨタ自動車も出資する自動運転配送ロボット企業として知られるNuroが、大きな事業戦略の転換を発表した。同社は今後、自社の自動運転技術をOEM(自動車メーカー)やモビリティ企業にライセンス供与することを主軸とする新たなビジネスモデルへの移行を開始する。
Nuroの新たな市場戦略と事業転換の背景
Nuroは今回の戦略転換により、2つの並行した市場アプローチを追求する。1つ目は、同社の従来のサービスに近い形で、Level 4自動運転システムの完全なパッケージを配送サービスや乗客輸送サービス向けに提供するものだ。ただし、これまでNuroの象徴的存在であったキュートな配送車両の製造は行わない。2つ目は、OEMやその部品・サービスサプライヤーと協力し、消費者向け車両用の自動運転製品を開発することである。この製品ラインナップは、Level 2からLevel 4までの幅広い自動運転システムを含む。
Nuroのこの大胆な事業転換の背景には、2022年と2023年に実施された複数回のレイオフがある。同社の共同創業者であるDave Ferguson氏は、「商業配送の展開競争にはコストがかかるため、AIの開発に注力することで、ユニットエコノミクスが成立するまでの資金繰りを1.5年から3.5年に延長できる」と、TechCrunchのインタビューで述べている。
Nuroの最高技術責任者であるAndrew Clare氏は、この事業モデルの転換について、The Vergeのインタビューで2つの理由を挙げている。「1つ目は、同社の自動運転技術が配送以外のより広範なタスクにも対応できるレベルにまで向上したこと。2つ目は、Nuro設立当初と比べ、現在では完全な自動運転車両の製造を真剣に計画している自動車メーカーが複数存在すること」だと説明している。
また、Clare氏は現在のNuroの財務状況について「複数年分の資金を確保している」と述べ、「2年前の厳しい事業再構築を経て、現在は財務的に安定した状態にある」と強調している。この発言は、Nuroが2023年に従業員の30%を削減する事業再構築を行ったことを踏まえたものだ。
個人所有の完全自動運転車への大胆な挑戦
Nuroの新たな事業戦略の中で特に注目されるのは、個人所有の完全自動運転車への展望である。同社の共同創業者兼社長のDave Ferguson氏は、「個人所有車両にLevel 4技術を提供することは実現可能であり、消費者向けの完全なL4技術の使用例に最も興奮している」と述べている。
Level 4自動運転は、SAE(自動車技術会)の定義によると、特定の条件下で人間の介入なしに自動運転が可能なシステムを指す。Nuroは、この高度な自動運転技術を個人所有の車両に適用することで、自動運転技術の新たな市場を開拓しようとしている。
Nuroの競合他社との大きな違いは、同社が「商業的に独立」していることだ。最高技術責任者のAndrew Clare氏は、「当社は大手企業の傘下にない。これにより、モビリティ企業やOEMの両方にとって非常に強力なパートナーとなる」とThe Vergeに述べている。この独立性は、Waymo(Alphabet傘下)、Cruise(General Motors傘下)、Zoox(Amazon傘下)といった他の主要な自動運転車開発企業にはない特徴だ。
安全性に関しては、Nuroの自動運転ソフトウェアが独自のAIアーキテクチャを通じて優先的に取り組んでいる。AVドライバーは、エンドツーエンドの基盤モデルを通じてあらゆるアクションを生成するが、より伝統的なロボティクスシステムがバックアップとして並行して動作する。このバックアップシステムは、AIドライバーが行う各ステップをリアルタイムで検証し、車両の動的制限や道路規則などの制約に違反していないことを確認する。
自動運転技術の実績と今後の展望
Nuroは過去4年間で、アリゾナ州、テキサス州、カリフォルニア州の公道で100万マイル以上の自動運転走行を達成している。これには、安全運転手が運転席にいる場合といない場合の両方が含まれており、一般的なテストだけでなく、Uber Eats、Domino’s、FedExとの配送パートナーシップの一環としても行われた。
Nuroの共同創業者兼CEOのJiajun Zhu氏は、「L4自動運転が広く普及するのは、もはや『もし』ではなく『いつ』の問題だ」とTechCrunchのインタビューで述べている。この発言は、自動運転技術の未来に対する同社の強い自信を示している。
しかし、この新しい事業戦略には課題もある。人間の乗客を乗せる無人運転車両に関する規制要件は複雑だ。Nuroは、サイドミラーなどの特定の制御機能なしで車両を展開するための連邦車両安全規則の免除を受けた数少ない企業の1つだが、これは主に同社が自動運転車両で食料品や家庭用品のみを配達してきたためだ。今後、人間も輸送することを提案するにあたり、新たな規制への対応が求められる。
Nuroの事業転換は、自動運転技術業界全体にとっても重要な転換点となる可能性がある。個人所有の完全自動運転車の実現は、多くの専門家が安全性や法的責任の問題から懐疑的な見方をしている中、Nuroは自社の技術がこの移行を促進できると考えている。
Clare氏は、「個人所有のLevel 4自動運転車が市場に出回るのは時間の問題だ」と強調する。彼は、一部の自動車メーカーが個人使用向けのLevel 4車両の生産計画を立てていることを指摘し、「市場には今日まだ出回っていないかもしれないが、確実に来る。それが来るのは単に時間の問題だ」と、The Vergeに述べている。
自動運転技術業界の現状と課題
Nuroのこの大胆な戦略転換は、自動運転車開発業界全体が直面している課題を反映している。最近、無人運転車による事故で人々が負傷する事例が発生し、安全性に関する新たな疑問が浮上している。外部からの投資も減少傾向にあり、実用化までの時間軸も当初の予想よりも長期化している。さらに、世論調査では自動運転車に対する一般市民の深い懐疑心が示されている。
このような状況下で、Nuroの戦略転換は注目に値する。同社は、自社で車両を製造・運用するという資金を大量消費するモデルから、より持続可能なライセンスモデルへと移行することで、これらの課題に対応しようとしている。
Nuroの強みの一つは、公道での完全無人運転の実績だ。同社は現在、カリフォルニア州とテキサス州で完全無人運転車両(つまり、運転席に安全運転手がいない車両)を運用している数少ない企業の一つである。Clare氏によると、これらの車両は大きな安全事故を起こすことなく100万マイル以上を走行している。
また、Nuroは連邦安全要件の特別免除を受けた最初の自動運転車運用企業であり、カリフォルニア州で無人配送サービスに料金を請求した最初の企業でもある。これらの実績は、同社の技術力と規制対応能力の高さを示している。
今後の展望と業界への影響
Nuroの新戦略は、自動運転技術の応用範囲を大きく広げる可能性がある。配送サービスから始まり、ロボタクシー、そして個人所有の完全自動運転車まで、幅広い用途に対応できる技術を提供することで、自動運転技術の普及を加速させる可能性がある。
特に、個人所有の完全自動運転車の実現は、都市交通や車の所有形態に革命をもたらす可能性がある。交通事故の削減、移動時間の有効活用、高齢者や障害者の移動の自由の拡大など、社会に大きな変革をもたらす可能性がある。
一方で、Nuroの戦略転換は、自動運転技術業界全体のビジネスモデルの再考を促す可能性もある。自社で車両を製造・運用するモデルから、技術提供に特化するモデルへの移行は、他の企業にも影響を与える可能性がある。
技術的な課題、規制の問題、社会の受容性など、乗り越えるべき障壁は依然として存在するが、Nuroの取り組みは自動運転技術の実用化と普及に向けた重要な一歩となるかもしれない。今後の展開が注目される。
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