世界最大の半導体ファウンドリであるTSMCが、最先端の3nmと5nmプロセスの価格を最大8%引き上げる計画であることが明らかになった。この値上げは、高い需要と市場での優位な立場を背景に、TSMCが利益率を維持しつつ、増加するコストに対応するための戦略的な動きと見られている。
TSMCの市場優位性から顧客企業は値上げを受け入れざるを得ない
TSMCの価格引き上げ計画は、同社の市場での圧倒的な優位性を如実に反映したものだ。現在、3nmと5nmプロセスの生産ラインは100%の稼働率を達成しており、これらの先端プロセスへの需要が非常に高いことを示している。この状況下で価格を引き上げることは、TSMCにとって理にかなった戦略と言える。
TSMCのC. C. Wei CEOは、この状況について明確な見解を示している。「市場ではTSMCの価格が最も高いと言われていますが、顧客が得られるダイから見ると、TSMCの価格と品質は他社よりも優れています。そのため、TSMCにはまだ価格を引き上げる余地があり、できるだけ早く調整したいと考えています」。
この価格戦略を支える要因は複合的である。まず、競合他社の遅れが挙げられる。SamsungやIntelなどの競合他社は、先進プロセスの開発や生産で大きく遅れをとっている。特にSamsungは先端プロセスの歩留まりが不透明であり、Intelは赤字に苦しんでいるとされる。この状況下で、顧客企業が7nm以下のプロセスで他社に移ることは、高いコストとリスクを伴うため、現実的ではない。
次に、顧客の依存度の高さがある。AppleやQualcomm、NVIDIA、AMDなどの大手顧客は、TSMCの先端プロセスに大きく依存している。これらの企業は、AI、HPC(高性能コンピューティング)、スマートフォンなど、様々な分野で高性能チップを必要としており、TSMCの先進プロセスへの需要は今後も高まると予想される。
さらに、TSMCは海外展開を進めており、それに伴うコスト増加にも対応する必要がある。アメリカのアリゾナ州や日本の熊本県での工場建設は、生産コストの上昇をもたらす。C. C. Wei CEOは、「アメリカでの工場建設は非常に高コストです。我々の戦略は、台湾とアメリカを比較するのではなく、アメリカの同業他社と比較することです。この観点から見ると、我々は常にトップの位置にいます」と述べている。
これらの要因を背景に、TSMCはCoWoS(Chip on Wafer on Substrate)パッケージング技術の価格も引き上げる計画だ。これは、NVIDIAやAMDなどのAIアクセラレータ向けの需要増加に対応するためとされている。
TSMCの価格戦略の目標は、長期的に53%の粗利益率を維持することにある。この目標を達成するため、TSMCは段階的な価格引き上げを計画しているようだ。2024年からの値上げに加え、2025年1月からはさらに3〜8%の追加値上げが予定されているという。
この価格戦略は、半導体業界全体に大きな影響を与える可能性がある。顧客企業にとっては厳しい決定となるが、TSMCの技術的優位性と生産能力の高さから、多くの企業は受け入れざるを得ない状況にある。一部のIC設計企業からは不満の声も上がっているが、転注先がないため、やむを得ず受け入れているという実態がある。
TSMCの強気な価格戦略は、同社の市場支配力の強さを如実に示している。競合他社が追随できない技術力と生産能力を背景に、TSMCは半導体産業において独占的な地位を確立しつつある。この状況が今後どのように展開し、半導体業界全体にどのような影響を与えるか興味深いところだ。
Source
コメント