米Joe Biden政権は13日、人工知能(AI)開発に不可欠な高性能半導体の新たな輸出規制を発表した。世界を「制限なし」「条件付き制限」「厳格な制限」の3層に分類し、同盟国との協力を維持しながら、中国やロシアなどへの先端技術流出を防ぐ体制を構築する。新規制は120日間のパブリックコメント期間を経て施行される。
3層構造による新たな輸出管理体制
米国による新たなAI規制に関しては、2024年12月に初めて規制の可能性が報道されていたが、今回正式に発表された形だ。
Biden政権が導入する新たな輸出管理体制は、各国との同盟関係や技術管理体制の成熟度に応じて、世界を3つの層に分類する包括的な枠組みとなる。この制度は、先端技術の適切な普及と安全保障上の懸念のバランスを取ることを目指している。
最上位となる第1層には、米国と緊密な同盟関係にある18カ国が指定された。オーストラリア、ベルギー、カナダ、デンマーク、フィンランド、フランス、ドイツ、アイルランド、イタリア、日本、オランダ、ニュージーランド、ノルウェー、韓国、スペイン、スウェーデン、台湾、イギリスがこれに該当する。これらの国々は「堅固な技術保護体制」を有し、米国の国家安全保障および外交政策上の利益と整合的な技術エコシステムを持つと評価されている。そのため、AIチップの調達に関して数量的な制限は設けられない。
第2層には、第1層および第3層以外の約120カ国が該当する。これらの国々に対しては、年間50,000個相当の高性能GPUという基礎的な輸入枠が設定される。この基準は、政府機関、医療機関、一般企業などの現地事業者による必要な技術利用を確保することを意図している。さらに、各国は米国との間で輸出管理、クリーンエネルギー、技術安全保障に関する政府間取り決めを締結することで、輸入枠を倍の100,000個まで拡大することができる。この段階的なアプローチにより、米国は協力国との関係強化と技術管理の両立を図る。
最下位の第3層には、中国、ロシア、イラン、北朝鮮など、米国が安全保障上の重大な懸念を持つ国々が含まれる。これらの国々に対しては、2022年10月および2023年10月に導入された厳格な輸出規制が継続される。具体的には、先進的な半導体の輸出が禁止され、汎用的な用途に限って一定の取引が認められる。さらに今回の規制では、非公開AIモデルのウェイトデータの移転も制限対象となった。
柔軟な運用と安全保障の両立を目指す新制度
米国が導入する新制度は、グローバルなAI開発の促進と安全保障上の要請を両立させるため、複数の柔軟な認証制度と運用メカニズムを組み込んでいる。特に注目されるのは、企業の信頼性に応じて異なるレベルの自由度を付与する二段階の認証制度だ。
最も包括的な認証制度となるUniversal Verified End User(UVEU)は、第1層の同盟国に本社を置く企業を対象としている。この認証を取得した企業は、グローバルなAI計算能力の配置について高い自由度が認められる。具体的には、世界中のデータセンターにおいて、自社の全AI計算能力の最大7%まで展開することが可能となる。この比率は、企業の事業規模によっては数十万個規模のGPUに相当する可能性がある。UVEUステータスは、グローバルかつ継続的な認証として付与され、企業の迅速で柔軟な事業展開を可能にする。
第二の認証制度であるNational Verified End Userは、第3層以外の国に本社を置く企業を対象としている。この認証を受けた企業は、2年間で最大320,000個相当の高性能GPUを購入できる権利を得る。この制度は、各国における信頼できる事業者が地域顧客や政府機関にサービスを提供する際の技術基盤を確保することを目的としている。
注目すべき点として、クラウドサービスプロバイダーに対する特別な配慮が盛り込まれている。MicrosoftやGoogle、Amazonなどの大手クラウドプロバイダーは、セキュリティと人権に関する要件を満たすことで、国別の割り当て枠を超えてデータセンターを建設することが可能となる。ただし、米国に本社を置くプロバイダーは、AI計算能力の少なくとも50%を米国内に維持し、第1層の国々以外に展開できる計算能力を25%以下に抑える必要がある。
実務的な運用面では、小規模な調達に対する大幅な簡素化も図られている。大学や医療機関、研究機関による1,700個相当までのGPU注文については、許可制から除外される。この措置により、明確に無害な目的での利用については、従来よりも迅速な調達が可能となる。商務長官のGina Raimondoは、この簡素化により「低リスクな米国技術の世界的な普及が加速される」と説明している。
AIモデル保護に向けた新たな規制
新規制では、AIチップの輸出管理に加え、AIモデルの「重み」(モデルの学習結果を示すパラメータ)の保護も対象となる。非公開のAIモデルの重みデータを信頼できない主体に転送することを制限する一方、オープンソースモデルについては制限を設けないとしている。
新制度では、認証取得企業に対して高度なセキュリティおよび信頼性基準への準拠を求めている。これには、技術の転用防止措置、セキュリティ管理体制の整備、エンドユーザーの検証プロセスなどが含まれる。これらの基準は、企業の事業展開の自由度を確保しながら、先端技術の不正利用や転用を防ぐ重要な防護壁として機能する。
米商務長官のGina Raimondoは「AIがより強力になるにつれ、国家安全保障上のリスクも強まっている」と指摘。「最先端のAI技術を保護しつつ、パートナー国との利益共有を可能にする」と新規制の意義を説明している。Microsoftの社長Brad Smithは「高度なセキュリティ基準を完全に遵守しながら、世界中の顧客のテクノロジーニーズに対応できる」と評価している。
だが新たに発表された規則に対しては半導体業界からの反発の強い。NVIDIAは即座に反応し規則は「見当違い」であり、この制限は「世界中のイノベーションと経済成長を阻害する」恐れがあると述べている。
新たな輸出規則は今後120日間の協議期間に入り、法案を修正および実施するかどうかの決定はDonald Trump新政権に委ねられることになる。
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