フランスの大手ゲーム開発・販売会社Ubisoftは2024年10月7日、中国のテクノロジー巨大企業Tencentによる同社買収の噂に対して公式声明を発表した。この声明は、最近の報道機関による憶測を受けてのものである。
Ubisoftの公式声明とTencentによる買収の噂
Ubisoftは声明の中で、「当社は定期的にすべての戦略的選択肢をステークホルダーの利益のために検討しており、適切な時期に市場に通知します」と述べている。さらに、「現在の経営陣は、オープンワールドアドベンチャーとGaaSネイティブ体験という2つの中核的な垂直統合に焦点を当てた戦略の遂行に注力しています」と付け加えた。
この声明は、BloombergがTencentとUbisoftの創業家であるGuillemot家が「Ubisoftを安定させ、その価値を高める」方法を模索していると報じたことを受けてのものだ。報道によると、Tencentは現在Ubisoftの約10%の株式を保有しており、さらにGuillemot兄弟社の49.9%を所有している。
Ubisoftの声明は、直接的にTencentによる買収の可能性に言及していないものの、業界関係者の間では、この慎重な表現が潜在的な取引の可能性を示唆しているとの見方が広がっている。Tencentは、世界最大のゲーム企業の一つとして知られており、Ubisoftの買収は同社のグローバル展開をさらに加速させる可能性がある。
不振が続くUbisoftの現状
Ubisoftは近年、厳しい経営環境に直面している。2024年9月には同社の株価が19%も急落した。この株価下落の背景には、同社の看板タイトルである『アサシン クリード シャドウズ』の発売延期や、『スター・ウォーズ 無法者たち』の販売不振がある。
特に『スター・ウォーズ 無法者たち』は、Ubisoftが多額の資金を投じて開発・プロモーションを行ったにもかかわらず、発売から1か月で100万本の販売にとどまったとされている。これは同社の期待を大きく下回る結果となった。
こうした状況を受け、Ubisoftは非公開化を検討しているとの観測も浮上している。非公開化が実現すれば、短期的な株価変動に左右されずに長期的な戦略を実行できる可能性がある。しかし、同時に大規模な組織再編や新CEOの就任、さらなる人員削減などが行われる可能性も指摘されている。
Ubisoftはすでに2023年11月にITチームと特殊効果スタジオで大規模な人員削減を実施しており、2024年1月にはサブスクリプションサービスの大幅な見直しを行っている。これらの施策は、同社が直面する財務的課題に対応するための一連の取り組みの一環と見られている。
『アサシン クリード シャドウズ』は2025年以降に延期されたが、この大型タイトルの成功がUbisoftの財務状況を改善させる可能性がある。業界アナリストらは、この作品の出来栄えと市場での反応が、Ubisoftの今後の方向性を大きく左右する可能性があると指摘している。
Xenospectrum’s Take
UbisoftとTencentの潜在的な取引は、グローバルゲーム産業に大きな影響を与える可能性がある。Ubisoftが非公開化を選択した場合、短期的な市場圧力から解放され、長期的な視点に立ったより大胆かつ革新的な戦略を展開できる可能性がある。これは、『アサシン クリード』シリーズや『Far Cry』などのAAA級タイトルの開発に必要な巨額の資金調達方法にも変化をもたらす可能性がある。これは、ゲーム業界全体のビジネスモデルに波及効果をもたらし、他の大手パブリッシャーの戦略にも影響を与える可能性がある。
一方で、Tencentによる買収は、西側ゲーム市場への中国企業の影響力拡大を意味し、地政学的な観点からも注目される。特に、ゲームコンテンツの検閲や個人情報の扱いに関して、欧米諸国の規制当局が慎重な姿勢を示す可能性がある。
今後の展開によって、ゲーム業界の勢力図が大きく塗り替えられる可能性もあり、業界関係者のみならず、ゲームユーザーにとっても目が離せない状況が続くだろう。
Source
- Ubisoft: Company Statement [PDF]
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