英国の競争市場庁(CMA)は、発表した611ページにも及ぶ膨大な最終報告書の中で、AppleとGoogleのモバイルブラウザポリシーが消費者や企業にとって市場を適切に機能させず、英国でのイノベーションを阻害していると結論付けている。特にAppleのiOSデバイス上でのブラウザ制限が重点的に批判されており、今後の調査で是正措置が検討される見込みだ。
CMAの調査が明らかにした競争阻害要因
CMAの独立調査グループは2025年3月12日、611ページにも及ぶモバイルブラウザとクラウドゲーミングの市場調査に関する最終報告書 [PDF]を発表した。この調査では、AppleとGoogleのモバイルブラウザポリシーが消費者や企業に悪影響を与え、Web技術の革新を妨げていると結論づけている。
報告書の批判の矛先は主にAppleに向けられており、報告書内ではAppleについて87回、Googleについて47回言及されている。特に問題視されている点は以下の通りだ:
- WebKit強制使用 – AppleはすべてのサードパーティブラウザにWebKitブラウザエンジンの使用を要求している(EU以外)。これにより、競合他社が独自の機能を提供することが制限されている。
- プラットフォーム機能への優先アクセス – SafariがiOSの重要な機能に他のブラウザより先にアクセスできる特権を持っている。
- プログレッシブウェブアプリ(PWA)の制限 – iOSでのPWAに対する制限がある。
- アプリ内ブラウジングの制限 – Appleのポリシーがアプリ内ブラウザの機能を制限している。
報告書ではMetaの主張も取り上げられている。Meta(Facebook親会社)は「iOS上で独自のブラウザエンジンを使用して完全にカスタマイズできるアプリ内ブラウザを構築したい」と述べているが、これは2022年にFacebookに約100億ドルの収益減をもたらしたAppleのプライバシー制御を潜在的に回避する可能性があるという懸念もある。
GoogleもCMAの調査を免れておらず、特にAppleとの収益共有契約が問題視されている。GoogleはiPhoneのデフォルト検索エンジンになる見返りに、SafariおよびiOS上のChromeを通じて生成される広告収入の大部分をAppleに支払っている。報告書によれば、これらの支払いは「競争する財政的インセンティブを大幅に削減している」とされている。
CMAの独立調査グループの議長Margot Daly氏は、「詳細な調査の結果、異なるモバイルブラウザ間の競争がうまく機能しておらず、英国でのイノベーションを阻害していると結論付けました」と述べている。
規制措置は保留、新たな調査結果を待つCMA
興味深いことに、CMAは厳しい調査結果を発表したにもかかわらず、現時点では具体的な規制措置を取らないことを決定した。当初の予定では、3月16日を法定期限として規制措置が実施される予定だったが、CMAは「市場調査で利用可能な救済策策定権限を通じて実施した場合、これらの措置の有効性に多くの重大なリスクがある」と結論づけている。
代わりに、2025年1月に開始された別の調査の結果を待つとしている。その調査とは、AppleとGoogleが「戦略的市場地位(SMS)」を持つかどうかを判断するためのもので、英国の新しいDigital Markets, Competition and Consumers Act(DMCC)の下で行われている。このDMCCは、EUのデジタル市場法(Digital Markets Act: DMA)と同様に、「実質的かつ確立された市場力」を持つ企業に対してより厳格な独占禁止法要件を課す権限を規制当局に与えるものである。
SMSと指定された企業には「行動要件」が課され、DMCC規則に違反した場合、年間売上高の最大10%の罰金を科される可能性がある。CMAの現在の報告書は、AppleまたはGoogleがSMSと指定された場合、「適切な介入を検討する」ことを推奨している。
一方、AppleはCMAの報告書に反発している。AppleのスポークスパーソンであるJulien Trosdorf氏はThe Vergeに対し、「Appleは革新が栄える活気ある動的な市場を信じています。我々は事業を展開するすべてのセグメントと管轄区域で競争に直面しており、我々の焦点は常にユーザーの信頼です」と述べ、さらに「我々はこの報告書に懸念を持っており、そこで議論されている救済策はプライバシー、セキュリティ、全体的なユーザー体験を損なうと考えています」と付け加えた。
潜在的な解決策と今後の展望
CMAが示唆する潜在的な解決策には以下が含まれる:
- AppleにiOS上での代替ブラウザエンジンの使用を許可させること
- ライバルブラウザにiOS機能への平等なアクセスを義務付けること
- デバイス設定時にブラウザ選択画面を提供するようAppleとGoogleに要求すること
- GoogleとAppleの間の収益共有契約を禁止すること
- Googleがブラウザ選択画面を表示する方法やAndroid上でのデフォルトブラウザポップアップの頻度についてより厳格な規制を実施すること
クラウドゲーミングについては、Appleが調査期間中に行った重大な変更により、この分野での追加措置は必要ないとCMAは判断している。
SMS調査は現在進行中であり、2025年後半に結論が出ると予想されている。その結果によっては、英国のモバイルブラウザ市場に大きな変化がもたらされる可能性がある。また、EUや米国司法省などの他の競争機関もモバイルブラウザ市場を調査しており、グローバルな規制環境の変化が進む可能性が高まっている。
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