中国のAIスタートアップDeepSeekが、米国の輸出規制下にあるNVIDIAの高性能AI用GPUをシンガポール経由で入手した可能性について、米政府が調査を進めている。同社の最新AIモデルが示す高い性能と、シンガポール経由のNVIDIA製品取引の急増が、調査の背景となっている。
GPU密輸疑惑調査の焦点と背景
DeepSeekは2024年1月、推論能力でOpenAIの最新モデルに匹敵する「R1」をオープンソースで無償公開。わずか2,000台のNVIDIA H800 GPU(グラフィックス処理装置)と600万ドルという低予算で開発したと主張し、公開5日間で米App Storeダウンロード1位を記録した。
特に注目されているのは、DeepSeekが以前に公開した学習効率性に関する主張だ。同社は671億パラメータを持つV3モデルの学習に、わずか2,048台のH800 GPUを使用し、280万GPU時間で完了したと報告している。これはMetaが405億パラメータのLlama 3モデルの学習に要した3,080万GPU時間と比較して、著しく効率的な結果となっている。
この驚異的なコストパフォーマンスに対し、AI企業AnthropicのCEO Dario Amodei氏は「禁止前チップの使用や密輸チップの可能性が高い」と指摘。OpenAIがChatGPT Pro会員限定の「o1」モデルを開発するのに要したリソースと比較し、技術専門家の間で疑念が広がっていた。
中国企業による規制回避の疑惑
調査の中心となっているのは、シンガポールを経由したGPU取引の急増である。NVIDIAの売上に占めるシンガポールの割合は、2023年度第3四半期の9%から2025年度第3四半期には22%まで上昇している。
これに関連して、米議会関係者は「シンガポールが中国向け迂回ルートに悪用されている」と懸念を表明している。米下院議員のJohn MoolenaarとRaja Krishnamoorthiは、シンガポールが出荷管理を強化しない限り、厳格なライセンス措置の導入を求めている。
NVIDIAとDeepSeekの主張
NVIDIAは、シンガポールでの取引増加に関する懸念に対して詳細な説明を行っている。同社の声明によると、シンガポールの売上高には「請求先」としてシンガポールに登録された取引が含まれており、これは必ずしも製品の最終仕向地を示すものではないとしている。多くの顧客企業が米国や欧州向けの製品取引にシンガポールの事業体を活用しているという事情を強調している。
NVIDIAはまた、すべてのビジネスパートナーに対して適用法令の遵守を義務付けており、違反の情報を得た場合には然るべき対応を取るとの方針を示している。この姿勢は、高性能AIチップの輸出管理を巡る国際的な注目の高まりを受けたものといえる。
一方、DeepSeekは2023年に合法的に購入可能だったH800チップを使用したと主張している。また、現在も中国向けに輸出可能な比較的低性能なH20チップも所有していることが報告されている。
これに加えて同社はH800チップでの学習効率の高さを強調している。同社の説明によれば、V3モデルの学習において2,048台のH800 GPUで著しい効率性を実現したとしている。ただし、より高性能なR1モデルの開発に使用された具体的なハードウェア構成については、現時点で詳細を明らかにしていない。
このハードウェアの詳細に関する透明性の欠如が、米国当局の調査を促した一因となっている。業界専門家からは、R1モデルの学習には、V3モデル以上の計算資源が必要だったはずだとの指摘が出ている。
Trump大統領指名の商務長官候補Howard Lutnick氏は、就任承認公聴会でDeepSeekによる米国の貿易規制回避を指摘し、中国は米国のハードウェアに依存せず公平に競争すべきだと主張している。escription
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