Game Developers Conference(GDC)の最新調査で、ゲーム開発者のPCプラットフォームへの移行が急速に進んでいることが明らかになった。2025年の調査では、開発者の80%がPCゲームの開発に携わっており、前年の66%から大幅な増加を示している。
顕著な成長トレンド
PCゲーム開発への移行は、この5年間で劇的な変化を見せている。2020年時点では開発者の56%がPCプラットフォームを選択していたが、その後は着実な上昇カーブを描いている。2021年には58%、2022年には63%、2023年には65%と、年を追うごとに増加の一途をたどってきた。そして2025年には一気に80%まで上昇し、過去最高を記録している。
特筆すべきは、この成長がコンソール機器との比較において際立っていることだ。現行世代の主力機であるPlayStation 5は38%、Xbox Series X/Sは34%の開発者しか対象としておらず、PCプラットフォームとの差は歴然としている。この数字は、ゲーム開発の中心がコンソールからPCへと大きくシフトしていることを如実に示している。
さらに注目すべき点は、PCプラットフォームへの開発意欲の高まりだ。実際の開発状況に加えて、今後PCプラットフォームでの開発に「興味がある」と回答した開発者は74%に達しており、これは前年の62%から大幅な増加を示している。この数字は、PCプラットフォームが単なる一時的なトレンドではなく、ゲーム開発の主要プラットフォームとしての地位を確立しつつあることを示唆している。
変化の要因
この急激な変化の背景には、複数の要因が存在する。最も注目すべき点は、Valve社のSteam Deckの台頭である。調査で「その他」のプラットフォームを選択した開発者の44%が、具体的にSteam Deckを開発対象として挙げている。
さらに、PCプラットフォームの開発アクセシビリティの高さも重要な要因となっている。Steamなどのプラットフォームを通じて、比較的低コストでゲームの開発・配信が可能な環境が整備されている。2024年には約19,000タイトルが新たにSteamでリリースされ、この数字がプラットフォームの活況を裏付けている。
ブラウザゲームの復活
興味深い傾向として、ブラウザゲーム開発の復興が挙げられる。開発者の16%がブラウザベースのゲーム開発に従事しており、これは前年の10%から大幅な増加を示している。過去10年で最も高い水準となった背景には、ウェブ技術の進化により、従来のダウンロード型やコンソール型ゲームでしか実現できなかったような高度なグラフィックスや複雑なゲームプレイメカニクスが、ブラウザ上でも実現可能になったことがある。
地域的な偏りと市場の実態
ただし、今回のGDC調査には重要な地域的偏りが存在している。回答者の地域分布を見ると、アメリカ合衆国からの参加者が58%を占め、これにイギリス、カナダ、オーストラリアを加えると、英語圏の開発者だけで全体の74%に達する。この偏りは調査結果の解釈において慎重な姿勢を求めている。
特に注目すべきは、世界最大級のゲーム市場である中国からの回答者が統計的に有意な数に達していないことだ。中国市場ではモバイルゲームが圧倒的な存在感を示しており、PCゲーム開発の実態はこの調査結果とは異なる様相を呈している可能性が高い。同様に、日本の開発者もほとんど調査に参加していない。日本市場特有のコンソールゲーム文化や、独自の開発エコシステムが結果に反映されていないことを意味している。
このような地域的な偏りは、特にモバイルゲーム開発の実態把握において大きな課題となっている。アジア市場では、スマートフォンゲームが主流となっており、開発リソースの多くがモバイルプラットフォームに集中している。しかし、今回の調査ではこうした地域特性が十分に反映されておらず、グローバルなゲーム開発の全体像を把握する上では、補完的なデータや調査が必要とされている。
業界が直面する課題
PCゲーム開発の活況な成長の陰で、ゲーム業界全体は深刻な構造的問題に直面している。2024年の統計によると、開発者の11%が解雇を経験しており、特にナラティブ部門では19%という高い解雇率を記録した。一方でビジネスおよびファイナンス部門の解雇率は6%と比較的低く、職種による影響の差が顕著となっている。
これらの人員削減の背景には複合的な要因が存在する。企業の説明によれば、22%が組織再編、18%が収益低下、15%が市場環境の変化を理由として挙げている。注目すべきは、19%の事例では解雇の理由が従業員に明確に説明されていないという事実だ。この不透明な状況は、業界の不安定さをより一層際立たせている。
さらに深刻なのは、スタジオの完全閉鎖である。調査対象の4%が所属スタジオの完全閉鎖を報告しており、これは業界全体の構造的な脆弱性を示唆している。また、41%の開発者が周囲での解雇の影響を実感しており、その内訳は29%が直接の同僚の解雇を、18%が他チームのメンバーの解雇を目撃している。
これらの問題は、ゲーム開発の資金調達方法にも影響を及ぼしている。現在、56%の開発者が自己資金での開発を選択しており、これは次点のプロジェクトベースや出版契約による資金調達の28%を大きく上回っている。この自己資金での開発は89%が「ある程度成功している」と報告しているものの、業界全体の不安定さを反映して、ベンチャーキャピタルからの資金調達は32%が「全く成功していない」と報告している状況だ。
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