人工知能(AI)業界で革新を続けるOpenAIが、クラウドコンピューティング戦略の大幅な転換を図っている。同社は主要な資金提供者であるMicrosoftのクラウドサービスに依存してきたが、今後はOracleなど他のプロバイダーのデータセンターも活用する方針だ。この動きは、AIの覇権争いが激化する中で、OpenAIが計算能力の急速な拡大を目指していることを示している。
OpenAIの戦略転換:Microsoft以外のデータセンター利用へ
OpenAIのSarah Friar最高財務責任者(CFO)は、同社が最近66億ドルの資金調達を行った後の従業員向け説明会で、データセンターとAIチップの調達においてより積極的な役割を果たす方針を明らかにした。The Informationの報道によると、Friar氏はすでにMicrosoftの対応スピードが遅すぎるとして株主に懸念を表明していたという。
この戦略転換の背景には、Elon Musk氏率いるxAIが巨大な計算クラスターをメンフィスに迅速に展開したことも影響している。OpenAIのSam Altman CEOは、MicrosoftがOpenAIの需要に見合う速さでサーバーを提供できないのではないかという懸念を抱いている。
OpenAIはすでにMicrosoft以外のプロバイダーとの協力を開始しており、2023年6月にはOracleとのサーバーレンタル契約を発表した。この契約は、テキサス州アビリーンに建設中のデータセンターを対象としている。注目すべきは、この契約においてMicrosoftの関与が限定的であることだ。Microsoftは形式上サーバーをレンタルしてOpenAIに提供するものの、プロジェクトへの深い関与は見られないという。
Oracleとの大規模契約:アビリーンデータセンターの詳細
OpenAIとOracleの協力関係は、当初の契約以上に拡大する可能性が高まっている。The Informationの報道によると、OpenAIは現在、アビリーンのデータセンター全体をレンタルする交渉を進めているという。このデータセンターは、2026年半ばまでに約1ギガワット(GW)の電力容量を持つ巨大施設となる見込みだ。
さらに注目すべきは、このデータセンターの潜在的な拡張性である。エネルギー供給が可能であれば、施設の電力容量は最大2GWまで拡大できる可能性がある。これは、数十万台のNVIDIA AI処理チップを収容できる規模であり、OpenAIの計算能力を飛躍的に向上させる可能性を秘めている。
この動きは、OpenAIがAI開発競争で優位性を確保するための戦略的な判断と見られる。特に、Elon Musk氏のxAIが年内に「最も強力なAIモデル」と主張するGrok 3をリリースする計画を発表していることから、OpenAIにとって計算能力の拡大は喫緊の課題となっている。
一方、MicrosoftもOpenAIへの支援を継続している。2024年末までにウィスコンシン州とアトランタの自社データセンターで、約30万台のNVIDIAの最新GB200グラフィックプロセッサをOpenAIに提供する計画だ。しかし、Altman氏はMicrosoftにウィスコンシンプロジェクトの加速を要請しており、2025年後半の部分開設を目指している。
Microsoft依存からの脱却
OpenAIがMicrosoft以外のデータセンタープロバイダーを積極的に活用する背景には、急速に変化するAI市場での競争力維持という切実な事情があるようだ。MicrosoftとOpenAIの契約には、OpenAIが他のプロバイダーのデータセンターを利用することを許可する条項が含まれているが、これまではその選択肢をほとんど行使してこなかった。
しかし、AIモデルの大規模化と計算要求の急増に伴い、OpenAIはより柔軟かつ迅速な計算リソースの確保を必要としている。特に、xAIやGoogle、Meta、Anthropicなど、競合他社のAI開発速度が加速する中、OpenAIにとって計算能力の拡大は生き残りをかけた課題となっている。
Microsoftとの関係性の変化は、OpenAIの独立性と機動力の向上につながる可能性がある。一方で、MicrosoftにとってはOpenAIとの独占的な関係が薄れることを意味し、両社の戦略的パートナーシップに新たな局面をもたらす可能性がある。
ただし、Oracleとのデータセンター契約においても、MicrosoftはOpenAIの「独占的クラウドプロバイダー」としての立場を形式的に維持している。Microsoftは技術的にサーバーをレンタルし、それをOpenAIに提供する形をとることで、Azureの収益に貢献する構造を保っている。この複雑な関係性は、OpenAIがMicrosoftとの重要な関係を維持しつつ、他のプロバイダーを活用するバランス戦略を示唆している。
OpenAIの野心的な計画:独自チップ開発と「Stargate」プロジェクト
OpenAIの戦略転換は、データセンターの多様化にとどまらない。同社は長期的な計算能力の確保と効率化を目指し、独自のAIチップ開発にも着手している。
Sam Altman CEOは従業員に対し、独自のカスタムチップがコスト削減に寄与する可能性を示唆した。OpenAIは現在、BroadcomとMarvellと協力してASIC(特定用途向け集積回路)チップの設計を進めている。さらに、TSMCの最新のA16オングストロームプロセスの生産能力を確保したとの報道もある。この新チップの量産は2026年後半に開始される見込みだ。
独自チップの開発は、OpenAIにとって計算能力の拡大とコスト削減の両面で重要な意味を持つ。現在、高性能AIチップの需要が急増する中、NVIDIAなどの主要サプライヤーへの依存度を下げることで、OpenAIは長期的な競争力を確保しようとしている。
さらに、OpenAIは「Stargate」と呼ばれる野心的なプロジェクトを推進している。これは5GWの電力を消費する巨大データセンターの構想で、その規模は前例のないものとなる。概算で1,000億ドル以上のコストがかかるとされるこのプロジェクトは、当初の報道とは異なり、Microsoftの関与なしで進められる可能性がある。
しかし、「Stargate」プロジェクトの実現には、巨額の資金調達と十分な電力供給の確保という大きな課題が存在する。OpenAIがこれらの課題をどのように克服し、プロジェクトを進展させていくかは、AI業界全体から注目されている。
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