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MediaTek、3nmプロセス採用の次世代フラッグシップチップ「Dimensity 9400」を発表 – AIエージェントと三つ折りスマホに対応

Y Kobayashi

2024年10月9日

MediaTekは2024年のフラッグシップスマートフォン向けチップセット「Dimensity 9400」を正式に発表した。このチップセットは、同社が前年から採用している「オールビッグコア」アーキテクチャを踏襲しつつ、TSMCの第2世代3nmプロセス(N3E)を採用することで、性能と効率性の大幅な向上を実現している。

Dimensity 9400の概要と主要スペック

Dimensity 9400の主要スペックは以下の通りだ:

  • CPU構成:Arm Cortex-X925(最大3.63GHz)x1、Arm Cortex-X4 x3、Arm Cortex-A720 x4
  • GPU:Arm Immortalis-G925(12コア)
  • NPU:MediaTek第8世代NPU
  • メモリ:LPDDR5X(最大10,667Mbps)
  • ストレージ:UFS 4.0 + MCQ
  • 製造プロセス:TSMC 3nm(N3E)

特筆すべきは、前モデルのDimensity 9300で採用されていたCortex-A520コアを廃し、全てのコアをより強力なものに置き換えている点である。これにより、低負荷時の処理も大型コアで迅速に実行することで、全体的な効率性の向上を図っている。

MediaTekは、この「オールビッグコア」設計により、ピーク性能と電力効率の両立を実現したと主張している。大型コアが低強度のタスクをより迅速に完了させることで、結果的に効率的な動作を可能にするという考えだ。

仕様項目内容
CPUプロセッサ1x Arm Cortex-X925, 2MB L2キャッシュ, 最大3.63 GHz
3x Arm Cortex-X4, 1MB L2キャッシュ
4x Arm Cortex-A720, 512KB L2キャッシュ
12MB L3キャッシュ
10MB SLC
コア数オクタコア (8)
メモリとストレージメモリタイプLPDDR5X
最大メモリ周波数10667 Mbps
ストレージタイプUFS 4 + MCQ
接続性携帯通信技術3GPP-R17, Sub-6GHz(FR1), 2G-5Gマルチモード, 5G-CA, 4G-CA, 5G FDD / TDD, 4G FDD / TDD, TD-SCDMA, WCDMA, EDGE, GSM
特定機能5G/4GデュアルSIMデュアルアクティブ、デュアルデータ、SA & NSAモード
SAオプション2、NSAオプション3 / 3a / 3x, NR FR1 TDD+FDD, DSS, 256QAM VoNR / EPSフォールバック
DL機能Sub6 DL 4CC 300MHz, R17強化, LB DL 4×4 MIMO
UL機能Sub6 UL 2CC 200MHz, R17強化, FDD UL 2×2 MIMO/PC2
電力節約MediaTek UltraSave 4.0, R17電力節約機能
GNSSGPS L1CA+L5+L1C
BeiDou B1I+B1C + B2a+B2b
Glonass L1OF
Galileo E1 + E5a + E5b
QZSS L1CA + L5
NavIC L5
Wi-FiWi-Fi7 (a/b/g/n/ac/ax/be)
Wi-Fiアンテナトリプルバンドトリプル同時接続(TBTC)
最大Wi-Fiデータレート7.36Gbps
Bluetooth5.4, デュアルBluetoothエンジン
最大Bluetoothデータレート3.6Gbps
カメラ最大カメラセンサー対応320MP
最大ビデオキャプチャ解像度8K60 (7690 x 4320)
グラフィックスGPUタイプArm Immortalis-G925 MC12
ビデオ8K60, 10ビットビデオデコード(HEVC/AVC/VP9/AVI)
8K30, 10ビットビデオエンコード(HEVC/AVC)
8K60, 8ビットHEVCエンコード
ディスプレイ最大リフレッシュレートWQHD+ 180Hz
その他のディスプレイ特性トライポートMIPI(トリプル折りたたみディスプレイ用)
AIAIプロセッシングユニットMediaTek NPU 890(生成AI、エージェントAI)

性能と効率性の向上

Dimensity 9400は、前世代のDimensity 9300と比較して大幅な性能向上を実現している。MediaTekの発表によると、Dimensity 9300比で、シングルスレッド性能で35%、マルチスレッド性能で28%の向上を達成した。これは、新しいCPUコア構成と3nmプロセス技術の採用によるものだ。

特筆すべきは、電力効率の劇的な改善である。MediaTekによれば、Dimensity 9400は前モデルと比較して最大40%の電力効率向上を実現している。これは、より微細な3nmプロセスの採用と、MediaTekの電力制御技術の進化によるものと考えられる。

GPUにおいても大幅な性能向上が見られる。新たに採用されたArm Immortalis-G925 GPUは、ピーク性能で41%、レイトレーシング性能で40%の向上を実現している。同時に、GPUの電力効率も大幅に改善されており、より長時間の高負荷ゲームプレイが可能になると期待される。

ベンチマークスコアに関しては、Geekbench 6.2のシングルコアテストで3,055点、マルチコアテストで9,600点を記録したとされている。これは、Qualcommの現行フラッグシップチップであるSnapdragon 8 Gen 3(Galaxy S24 Ultraで測定)のスコア(シングルコア2,140点、マルチコア6,688点)を大きく上回る数値だ。

メモリ性能においても向上が見られ、新たにLPDDR5X 10,667Mbpsをサポートすることで、CPU、GPU、NPUへのデータ供給をより高速に行えるようになっている。これにより、複雑なタスクやマルチタスキング時のパフォーマンスが向上すると期待される。

AI機能の強化とAIエージェントへの対応

Dimensity 9400における最も注目すべき進化の一つが、AI処理能力の大幅な強化である。MediaTekは、第8世代NPU(Neural Processing Unit)を搭載し、オンデバイスでのAI処理能力を飛躍的に向上させている。

具体的には、大規模言語モデル(LLM)のプロンプト処理速度が80%向上し、画像生成に用いられるDiffusionモデルの処理速度も100%向上したという。さらに、NPUの電力効率は35%改善されており、より複雑なAIタスクをバッテリー消費を抑えつつ実行できるようになっている。

特筆すべきは、Dimensity 9400が「AIエージェント」に対応している点だ。MediaTekは、「Dimensity Agentic AI Engine(DAE)」と呼ばれる開発者向けフレームワークを提供し、AIエージェントの開発を容易にする。これにより、スマートフォン上でより高度なAIアシスタントの実現が可能になると期待される。

また、Dimensity 9400は以下のような先進的なAI機能をサポートしている:

  • オンデバイスでのLoRA(Low-Rank Adaptation)トレーニング
  • 高品質なオンデバイスビデオ生成
  • Diffusion Transformer(DIT)最新AIGCモデルのサポート
  • Mixture of Experts(MoE)最新LLMモデルのサポート

これらの機能により、プライバシーを保護しつつ、より個人化されたAI体験を提供することが可能になる。さらに、MediaTekはGoogleのGemini Nanoをサポートすることを発表しており、AndroidデバイスでのAI機能強化に大きく貢献することが期待される。

こうした進化により、Dimensity 9400を搭載したスマートフォンでは、より高度な音声認識、自然言語処理、画像・動画生成といったAI機能が実現可能となる。また、オンデバイスでのAI処理が強化されることで、クラウドに頼らないプライバシー保護と低遅延な処理の両立が期待される。

ディスプレイ技術と三つ折りスマホ対応

Dimensity 9400は、次世代のディスプレイ技術にも対応している。特筆すべきは、WQHD+解像度で最大180Hzのリフレッシュレートをサポートしている点だ。MediaTekによれば、これはOEMからの要望に応えたものであり、近い将来、この高リフレッシュレートを実現したスマートフォンが市場に登場する可能性がある。

さらに注目すべきは、Dimensity 9400が三つ折りディスプレイに対応している点だ。これは、Huawei Mate XTのような三つ折りスマートフォンの登場を見据えたものと考えられる。具体的には、トライポートMIPIをサポートしており、複数のディスプレイパネルを効率的に制御することが可能となっている。これにより、三つ折りスマートフォンの滑らかな画面遷移や、マルチタスキング時の効率的なリソース管理が実現できると期待される。

ディスプレイ技術の進化は画質面にも及んでいる。Dimensity 9400は、MediaTekのMiraVision 1090テクノロジーを採用しており、OLED画面の焼き付き防止機能や、あらゆる照明条件下で一貫した視覚体験を提供するDimensity Adaptive Vision Engineを搭載している。これらの技術により、SDR、HLG、HDR10、HDR10+、HDR Vividなど、多様な映像フォーマットに対応し、0〜100,000ルクスの幅広い環境光条件下で最適な視聴体験を提供することが可能となっている。

また、Dimensity 9400は高度なカメラ機能もサポートしている。最大320MPのカメラセンサーに対応し、8K60fpsの動画撮影が可能となっている。さらに、全ズーム範囲でHDRビデオキャプチャを実現し、プロフェッショナルカメラのズームレンズに匹敵する品質を提供するという。また、AIを活用したスーパーズーム技術により、100倍までの高倍率ズームを実現している。

これらの機能により、Dimensity 9400を搭載したスマートフォンは、より没入感のある視聴体験と高品質な写真・動画撮影を実現することが期待される。特に、折りたたみスマートフォンや三つ折りスマートフォンなど、新しいフォームファクターのデバイスにおいて、その真価を発揮すると考えられる。

市場投入時期と競合との比較

MediaTekは、Dimensity 9400を搭載した最初のスマートフォンが2024年第4四半期(10月〜12月)に市場に登場すると発表している。これは、主要な競合他社の次世代チップセットと同時期の市場投入となる見込みだ。

現時点で、Dimensity 9400を採用することを公式に表明しているのはOppoのみである。Oppoは、Find X8シリーズにDimensity 9400を搭載し、2024年末までに国際市場(主にヨーロッパ)で発売する予定だという。

一方で、MediaTekのチップセットの採用範囲が拡大している兆しも見られる。最近、Samsungが Galaxy Tab S10+とTab S10 UltraにMediaTekのチップセットを採用したことは業界に衝撃を与えた。これは、Samsungがフラッグシップ製品にMediaTekのシリコンを採用した初めてのケースである。この動きは、来年春のGalaxy S25シリーズにDimensity 9400が採用される可能性を示唆していると言えるだろう。

話題性という点で言えば、Dimensity 9400は3nmプロセスを採用した最初のAndroidスマートフォン向けチップセットとなる。これは、主要な競合であるQualcommに先んじた形となり、大きなアピールポイントだ。ただし、Appleはすでに1年前にA17 Proで3nmプロセスを採用しており、最新のA18チップもMediaTekと同じTSMCのN3Eノードで製造されている。

Qualcommの次世代チップセットであるSnapdragon 8 Gen 4も3nmプロセスを採用すると噂されており、今月後半に発表される予定だ。両社のチップセットの実際の性能差は、実機での比較テストを待たなければならない。

Dimensity 9400の市場での成功は、MediaTekがこれまで課題としていた米国市場での採用拡大にかかっている。現在、MediaTekのハイエンドチップは主に中国のスマートフォンメーカーに採用されているが、Samsungとの提携拡大やOppoの国際展開により、より広範な市場でのプレゼンス向上が期待される。


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