2026年6月初旬、米国のレアアース産業に立て続けに大型投資が発表された。USA Rare Earth, Inc.(NYSE: USAR)は南カロライナ州ブラックスバーグのバイリー工業団地に12億ドル規模の磁石製造・精製金属工場を建設すると発表。同社はCHIPS法の下、米国商務省との確定的資金協定を締結し、最大2億7,700万ドルの直接資金と最大13億ドルの優先担保ローンへのアクセスを確保した。政府はその対価として同社株1,610万株と1,760万のワラントを取得し、事実上の大株主となる。
この発表の前後には、民間資本によるシリーズ調達も閉幕しており、同社の確定資金総額は約35億ドルに達する。レアアースの単一企業としての資金規模としては過去最大級だ。
こうした動きの背景には米国が直面する供給リスクがある。米国地質調査所(USGS)の2024年版報告書によれば、米国のレアアース需要の80%は輸入で賄われており、うち56%は中国からの輸入だ。中国は加工・分離技術において圧倒的な規模的優位を持ち、磁石材料に不可欠なネオジム・ジスプロシウム・テルビウムの精製能力の多くを握る。半導体製造装置、F-35戦闘機のアクチュエータ、EVモーター——これらすべてが高性能永久磁石なしには成立しない。
USA Rare Earthが目指す「鉱山から磁石まで」の垂直統合
USA Rare Earthは「mine-to-magnet」と称する完全垂直統合を戦略の核心に据えている。現在のオペレーションは米国・英国・フランス・ブラジルに展開しており、2026年6月時点で複数の資産を保有または開発中だ。
国内では、テキサス州ハドスペス郡のラウンドトップ鉱山が軽・重レアアースの採掘拠点となる予定で、2028年の初期生産を目標に開発が進む。オクラホマ州スティルウォーターには既存の磁石製造ラインがあり、2026年3月に初の商業生産ラインの立ち上げが完了している。コロラド州には分離・精製拠点も構える。
海外では、英国のLess Common Metals(LCM)が希土類金属・合金の製造拠点として機能し、2025年9月に買収が完了した。フランスのCaresterには2026年4月に持分を取得し、欧州での精製能力を確保。さらにブラジルのセラ・ヴェルデ・ペラ・エマ鉱山の買収も手続き中で、軽・重レアアース双方をカバーするグローバルな採掘基盤を構築しつつある。
南カロライナ州の新工場は、この垂直統合の最終段階となる国内磁石製造ハブとして位置づけられる。約80万平方フィート(約7万4,000㎡)の施設で、NdFeB焼結磁石6,400トン/年と、ストリップキャスト金属・合金5,000トン/年の生産能力を目標とする。スティルウォーターとブラックスバーグを合算すると、NdFeB磁石1万トン/年・金属合金1万トン/年という国内製造規模が実現する計算だ。
操業開始は2028年を目標としているが、土地取得・建設・許認可・インセンティブ遵守といった複数の前提条件が満たされることが条件となる。
ブラックスバーグを選んだ理由——インセンティブ競争の勝者
サイト選定は複数州を対象にした比較検討の末に南カロライナ州が競り勝った形だ。チェロキー郡との間には固定資産税の代替評価(fee-in-lieu-of-tax)と工業団地指定を組み合わせたインセンティブ協定が締結され、最大40年間にわたって固定資産税評価を大幅に引き下げる仕組みが整えられた。最低4億ドルの投資達成が条件で、未達成の場合はクローバック(返還義務)が発動する。
南カロライナ州の経済開発調整評議会は雇用開発クレジットも承認している。新設される490のポジションの給与レンジは時給24.50ドルから63ドルで、高スキル製造職としての報酬水準を示す。デューク・エナジーが安定した電力供給を確約しており、I-85コリドー沿いの立地は防衛・航空宇宙顧客へのアクセスを容易にする。
CEO Barbara Humptoonは「サウスカロライナは必要な労働力・インフラ・パートナーを揃えていた。この投資は、アメリカとその同盟国が工場から最前線まで依存する先進製造能力を国内に取り戻すものだ」とコメントしている。
DOEが賭ける6,700万ドル——廃棄物から希土類元素を抽出する ElementUSAの技術
同じ週に、もう一つの国産化プロジェクトが連邦資金を獲得した。ElementUSA(2021年設立)はコロラド鉱山学校との共同研究に基づき、エネルギー省(DOE)から6,700万ドルの助成を受け、ルイジアナ州グレイマーシーに希土類元素処理施設を建設する。
ElementUSAのアプローチは従来の採掘モデルと根本的に異なる。同社が原料として使うのは「赤泥(red mud)」と呼ばれるボーキサイト精製残渣だ。グレイマーシーのAtalcoアルミナ精製所の残渣処分場には3,000万トン以上の赤泥が堆積しており、ElementUSAはこのサイトへの独占的アクセス権を確保している。
同社の湿式製錬(ハイドロメタラジカル)および乾式製錬(パイロメタラジカル)を統合したフローシートは、銑鉄を副産物として生産しながら、スカンジウム・ガリウム・ゲルマニウム・イットリウム・ネオジム・プラセオジム・ジスプロシウム・テルビウム・ガドリニウムを含む13種以上の重要鉱物を同時回収できるよう設計されている。この多品目同時回収が単一商品採掘との差別化点で、各素材の価格変動リスクを分散する構造的な強みとなる。
計画している本格的な商業施設は100万トン/年のフィード処理能力を想定し、推定設備投資額は約11億ドル。実現すれば、ガリウム・スカンジウム・イットリウム・ゲルマニウム・イッテルビウム・ジスプロシウム・ガドリニウムについて、米国の年間需要の45〜385%を単一サイトで供給できる可能性があるという。
DOEへの申請に先立ち、同社はスカンジウムとガリウムの実証プラントをグレイマーシーで展開中で、こちらは国防総省(DoD)から2,990万ドルの資金援助を受けている。
商業規模への距離——技術的・市場的な未決要素
2つのプロジェクトが描くビジョンは壮大だが、商業化に至るまでの道のりには複数の未確定要素がある。いずれのプロジェクトも政府支援という強力な後ろ盾を持つ一方、技術実証・許認可・資金調達の各フェーズで独自のリスクを抱えている。
USA Rare Earthのラウンドトップ鉱山は、採掘許可の取得が本格生産の前提となる。2028年の生産開始目標はこの許可プロセスの進捗に依存する。資金は分割支出(フェーズド・ディスバースメント)でマイルストーン達成に連動して拠出されるため、計画の遅延が財務的圧力をもたらすリスクも内包している。
株式の希薄化も投資家が注視する点だ。政府への株式発行(1,610万株+ワラント1,760万)と今後の民間調達が重なれば、既存株主の持分比率は継続的に低下する。実際、CHIPS法資金協定の発表日に株価は約6%下落した。
ElementUSAのケースでは、赤泥からの大規模な希土類回収が商業規模で成立するかどうかは、まだ実証段階にある。赤泥のREE濃度は天然鉱床と比べて低く、選択的分離のコスト効率は設備規模に大きく依存する。コロラド鉱山学校との共同研究で技術的な目処が立ちつつある段階であり、フルスケール施設への移行はその検証結果次第となる。
両プロジェクトに共通するのは、米国の対中レアアース依存を構造的に転換するという政策的なコンセンサスを背景に成立している点だ。CHIPS法の資金援助と国防総省・DOEの助成が組み合わさることで、民間単独では実現しにくい大規模投資が可能になっている。