自動運転ソフトウェア「Autoware」の開発を主導するティアフォーが、2026年7月22日に東京証券取引所グロース市場へ上場した。上場資料が示すのは、オープンソースを広めて開発案件を得る段階から、自動車メーカーの量産車1台ごとにライセンス料やロイヤルティを受け取る段階へ移る構想である。そのために同社は、AI、自動運転専用半導体、数千・数万台を扱う供給網へ資金を投じる。売上高を上回る研究開発費を抱える同社にとって、量産案件がいつ継続収入に変わるかが上場後の事業を左右する。
上場資金はAI・半導体と数万台供給へ
ティアフォーは6月29日に開示した資金使途で、2028年9月期までに研究開発へ87億円、量産・事業拡張へ72億円、採用と組織拡張へ34億300万円を充てる計画を示した。研究開発の対象はAI技術と自動運転専用半導体である。量産・事業拡張費は、数千・数万台規模の供給を見据えたサプライチェーンと、車載ユニットの製造・調達体制に向かう。
資金配分は、ティアフォーがソフトウェア企業の枠を越えて、自動運転システムの量産基盤を引き受ける意思を表している。Autowareのソースコードは誰でも利用できるが、商用車両にはセンサーや演算装置を組み合わせ、車載品質を満たす形で評価しなければならない。ティアフォーはPilot.Auto、Web.Auto、Edge.Autoを通じて、その統合作業と運用環境を製品・サービスにしてきた。
ただし、6月29日の手取概算額上限193億300万円は、想定発行価格1015円を基にした数字である。東京証券取引所が公表した公募・売出価格は1085円だったため、この上限額を最終的な調達額として扱うことはできない。用途別では研究開発に87億円、量産・事業拡張に72億円を投じる。残る34億300万円は組織を広げる費用であり、2028年9月期までに越えようとする技術面と供給面の壁を映している。
売上64億円でも営業損失105億円
2025年9月期の売上高は64億1000万円と前期から65.6%増えたが、営業損失は105億600万円に達した。研究開発費は85億5100万円で、売上高より大きい。このうち55億2500万円が補助金の対象だった。営業外収益も補助金収入の増加を主因に55億6600万円を計上したため、経常損失は55億400万円、最終損失は47億9900万円となった。
この損益構造では、売上の成長率と同時に、どの売上が増えたかを見なければならない。2025年9月期の売上構成は、自治体や交通事業者に車両と導入支援を提供するモビリティサービスが22億6700万円、メーカーと量産システムを共同開発するデベロップメントサービスが13億3000万円、政府委託事業や技術支援を含むソリューションサービスが28億1200万円だった。将来の中核に据えるデベロップメントサービスは、当時の売上構成比で20.8%にとどまる。
2026年9月期も売上高84億8400万円に対し、営業損失112億3900万円を見込む。会社は黒字化の時期を示していない。公的資金は長期の研究開発を支えるが、量産車から得る継続収入の代わりにはならない。上場後に測るべきなのは、補助金を含む研究開発規模の大きさよりも、量産と連動する売上が研究開発負担を吸収し始める時期である。
13社の開発案件を量産1台ごとの収入へ
ティアフォーのデベロップメントサービスは、量産前の専用開発やカスタマイズで一時収入を得た後、ハードウェアを販売し、量産開始後には車両1台ごとのライセンス料やロイヤルティを受け取る設計になっている。受託した開発プロジェクトの顧客数は、2024年9月期の7社から2025年9月期に9社、2026年3月までの半年で13社へ増えた。
車両の稼働実績も積み上がっている。2026年3月末時点で、公道を走る小型EV自動運転バスは26台、eve autonomyが閉鎖空間に導入した無人搬送車は93台だった。これらは自動運転システムを現場へ持ち込めることを示す一方、OEMの量産車へ広がった台数ではない。会社が開示する協業先のOEM・Tier1サプライヤー18社には、直接の顧客に加えて間接参加企業とエンドユーザーも含まれるため、13社の顧客KPIと合算もできない。
量産移行には顧客側の車両計画、車載品質の検証、部品調達が絡む。上場資料は主要OEMとの台数、時期、車種を協議中としており、13社のうち何社がいつ量産へ進むかを開示していない。契約社数の増加は入口である。収益モデルの転換は、車両1台に連動するライセンス収入が決算に現れて初めて確認できる。
ソフトウェアの次は用途別チップ
半導体のオープン化は、量産収益への転換を計算資源の側から支える試みである。科学技術振興機構のプロジェクトでは、東京大学の川原圭博教授を研究代表者とし、ティアフォー、慶應義塾大学、東京大学が主要な研究分担機関に入る。構想はフィジカルAIの処理を「思考」「反射」「末梢」に分け、高コストな思考処理を必要なときに呼び出す。汎用GPUを常時フル稼働させる代わりに、用途に応じた小規模チップを組み合わせ、消費電力と遅延を減らす狙いだ。
ティアフォーはこの研究契約を約9億円、2025年12月から2030年12月までと開示している。また、3月にはベルギーの研究機関imecが運営するAutomotive Chiplet Programへの加盟を発表した。チップレットは機能別の小さな半導体を組み合わせる方式で、同社は開発済みのLiDARアクセラレーターを足掛かりに、AI自動運転向けアクセラレーターを研究する。
オープンな設計環境には、特定の半導体ベンダーへの依存を抑え、Autowareと用途別ハードウェアを共同設計しやすくする狙いがある。とはいえ、研究参加は車載半導体の製品化や採用を保証しない。安全性の検証、車載認定、量産歩留まり、供給契約は別に積み上げる必要がある。
国の第3次交通政策基本計画は、自動運転サービス車両を2025年度の11台から2030年度に1万台へ増やす目標を掲げた。これはティアフォーへの発注台数ではないが、量産体制を急ぐ理由にはなる。量産へ移った顧客数と車両1台当たりの収入が、まず決算で確認すべき数字だ。半導体では車載認定、採用、供給時期の開示が要る。Autowareを中心とする開発基盤が継続収益を生むかを判断できるのは、これらの数字と条件が揃ったときである。



