OpenAIが、GPT-5.6の最小モデルLunaをリリース時の5分の1に値下げした。2026年7月30日から、100万トークン当たりのAPI料金は入力0.20ドル、出力1.20ドルとなる。Terraも20%安くなり、入力2.00ドル、出力12.00ドルへ下がった。ただし旗艦モデルSolの入力5.00ドル、出力30.00ドルは変わらない。
80%という数字は大きい。だが、新しいLunaの入力料金はGPT-5.4 nanoと同額で、出力も1.25ドルから4%下がった水準である。つまりOpenAIは、6月26日の限定プレビューでLunaに付けた価格を大幅に修正し、従来のnano級が担っていた大量処理の価格帯へ戻した。
中国の低価格APIを一気に抜き去ったわけでもない。DeepSeek V4 Flashは入力、出力ともLunaより安い。V4 Proとの比較は、入力と出力の比率、キャッシュの利用、1回のプロンプト長によって結論が入れ替わる。価格表を読むには、80%の分母から確かめる必要がある。
80%はLunaのリリース時価格との比較
GPT-5.6は6月26日に限定プレビューへ入り、7月9日に一般提供が始まった。Lunaの当初料金は入力1.00ドル、出力6.00ドルだったため、今回の0.20ドル、1.20ドルは両方とも80%減に当たる。一般提供から数えると21日、限定プレビューからでも34日で価格を組み替えたことになる。
同じ日にTerraは入力2.50ドルから2.00ドル、出力15.00ドルから12.00ドルへ20%下がった。OpenAIはChatGPTとCodexの購読価格、利用枠を据え置く一方、TerraとLunaを使った際のクレジット消費を減らす。API料金は7月30日から適用され、AWSにも同日中に反映を始めるとした。
Lunaの製品上の役割も重要だ。OpenAIはLunaを「以前のGPT-5ファミリーにおけるnano tierにおおむね対応する」と説明している。現行のGPT-5.4 nanoは入力0.20ドル、キャッシュ済み入力0.02ドル、出力1.25ドルだ。新Lunaは入力とキャッシュ料金が同じで、出力だけが1.20ドルへ4%下がった。
したがって、80%はOpenAIの最安APIが以前より80%安くなったという意味ではない。Luna自身のリリース時価格との比較である。今回の変更は、新世代の小型モデルを旧世代の大量処理向け価格帯に置き直した、と捉える方が実態に近い。
DeepSeekとの比較は入力と出力の比率で逆転する
2026年7月31日に各社の公式料金表を確認すると、100万トークン当たりの標準料金は次のようになる。入力はキャッシュが外れた場合で、税やツール利用料は含めていない。
| モデル | 入力 | キャッシュ済み入力 | 出力 | コンテキスト |
|---|---|---|---|---|
| GPT-5.6 Luna | 0.20ドル | 0.02ドル | 1.20ドル | 105万 |
| DeepSeek V4 Flash | 0.14ドル | 0.0028ドル | 0.28ドル | 100万 |
| DeepSeek V4 Pro | 0.435ドル | 0.003625ドル | 0.87ドル | 100万 |
| Kimi K3 | 3.00ドル | 0.30ドル | 15.00ドル | 104万8,576 |
LunaはKimi K3より入力が約93.3%、出力が92%安い。ただし、Kimi K3はMoonshot AIが旗艦モデルとして提供する2.8兆パラメータのオープンウェイトモデルであり、nano級のLunaと同じ性能帯ではない。単価差を、そのまま性能差や1タスクの費用差へ読み替えることはできない。
DeepSeek V4 Proとの関係はさらに複雑だ。各リクエストの入力が27万2,000トークン以下で、月間合計が入力100万、出力10万トークンになったとする。このときLunaは0.32ドル、V4 Proは0.522ドルで、入力の多い処理ではLunaが安い。一方、入力と出力が同量ならLunaは1.40ドル、V4 Proは1.305ドルとなり、V4 Proが下回る。
標準料金から計算すると、入力が出力の約1.4倍を超えるあたりが分岐点になる。コードベースや文書を長く読み、短い結果を返す処理にはLunaの低い入力料金が効く。だが、長い推論や文章を生成する処理では、Lunaの出力1.20ドルが相対的に重くなる。V4 Flashは入力0.14ドル、出力0.28ドルで、どちらの単価もLunaより低い。
27万2,000トークン超で効く長文割増
Lunaには、表の数字からは見えにくい条件がある。1回の入力が27万2,000トークンを超えると、そのリクエスト全体について入力単価が2倍、出力単価が1.5倍になる。105万トークンのコンテキストを使えることと、全長を同じ単価で処理できることは別である。
たとえば、1回の処理で入力90万、出力10万トークンを使うと、Lunaの料金は0.54ドルになる。これは総100万トークンで、Lunaのコンテキスト上限と最大入力92万2,000トークンに収まる。DeepSeekの現行料金表には同種の長文割増が記されておらず、同じトークン数ならV4 Proは0.4785ドル、V4 Flashは0.154ドルだ。短いリクエストを多数送る場合にLunaがV4 Proを下回っても、巨大なコンテキストを1回で渡すと順番が逆転し得る。
キャッシュを多用するエージェントでも差が出る。Lunaのキャッシュ済み入力は0.02ドルだが、DeepSeekはV4 Flashが0.0028ドル、V4 Proが0.003625ドルである。Lunaでは新しいキャッシュを書き込む際、通常入力の1.25倍が課金される。履歴やツール定義を繰り返し送る用途では、キャッシュの命中率と書き換え頻度も見積もらなければならない。
なお、各モデルはトークナイザーも、推論時に出すトークン量も異なる。100万トークン単価は調達時の入口にはなるが、同じ品質へ到達するまでの再試行、ツール呼び出し、推論強度を含むタスク費用を保証しない。自社の入力分布と品質基準を使った評価が必要である。
20%の原価改善から80%値下げへ飛躍はできない
OpenAIは今回の価格改定を、モデル、推論基盤、エージェント実行系の効率化によって可能になったと説明する。前日に公開した技術記事では、GPT-5.6 Solが本番用GPUカーネルを書き換え、より広いカーネル改善と合わせて配信全体の原価を20%下げたとした。
もう一つの手段が投機的デコーディングである。小さなドラフトモデルが複数の次トークンを先に提案し、主モデルが並列に検証する。提案が受理されれば、主モデルを逐次動かす回数を減らせる。Solはドラフトモデルの構造や規模を変える数百回の実験を設計・実行し、トークン生成効率を15%超高めたという。
ただし、20%は配信全体の原価、15%超はトークン生成効率であり、同じ指標ではない。単純に足して35%の原価低下とすることも、Lunaの原価が80%下がったとみなすこともできない。OpenAIはLuna固有の原価や稼働率を公表していない。粗利率も、80%の値下げを要因別に分けた数字も不明である。
価格改定と同時に、OpenAIはSol向けのFast modeも導入した。従来のPriority Processingを置き換え、標準の2倍の料金で最大2.5倍の速度を提供する。安価なLunaで大量処理を受け持ち、遅延が費用より重要な処理ではSolへ上乗せ料金を設定する。今回の発表は、一律値下げではなく用途ごとの価格帯を広げる再編である。
安いAPIとオープンウェイトは別の選択肢
中国勢との競争を考えるとき、API単価とモデルの重みの公開を分ける必要がある。DeepSeekはV4 Proを総1.6兆、活性490億パラメータ、V4 Flashを総2,840億、活性130億パラメータとして公開し、APIとモデルの重みを同時に提供した。Kimi K3も総2.8兆、活性1,040億パラメータのMoEで、896のエキスパートから16を選ぶ構成やMXFP4形式の重みを開示している。
LunaはOpenAIの管理下でツール利用や105万トークンのコンテキストをすぐ使えるクローズドなAPIだ。対するオープンウェイトモデルは、ライセンスの範囲で利用者や第三者事業者がモデルの重みを配置し、推論環境を選べる。OpenAIの値下げは、運用を任せたい利用者にとって自前配置との価格差を縮めるが、重みを保有して研究、配置、改変できるかという違いは残る。
OpenAIは、Lunaが約1年前のフロンティア級モデルに近い性能を、比較対象の約6%のタスク費用と約9倍の速度で出すと推計している。これは同社の評価であり、今回の料金表そのものが証明する数字ではない。次に見るべきなのは、各社の再値下げより先に、同じ実務データと品質基準で測った総出力、再試行回数、長文割増後の費用だ。80%という率が実際の請求額に残るかは、そこで決まる。



