SamsungとQualcommの2nm半導体の製造交渉が、価格を巡って長引いている。韓国の経済メディアthebellは、Qualcommが値下げを求める一方、Samsungが応じず、同社での生産が2027年にずれ込む可能性を報じた。製造技術には改善が伝えられているが、それだけでは契約成立に届かない。Samsungが公表したAI関連の顧客案件や製造技術の説明を重ねると、注文量とスマートフォンの発売日程も、取引を左右する条件として見えてくる。

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価格の隔たりに加え、注文量も交渉を左右する

thebellの独自報道によると、協議の対象はSamsungの2nm工程を使うQualcomm製APの製造受託だ。APはスマートフォンの主要な処理を担う半導体であり、ファウンドリは、その設計を顧客から預かって製造する事業を指す。記事は9月9日付で掲載され、9月11日に無料公開された。

同紙は、今回協議している工程についてQualcommが前向きに評価していると伝える。ただし、良品の割合を示す歩留まりの実数や、性能評価の条件は明らかにしていない。技術面の改善も取材に基づく情報であり、両社が量産適格性を公式に認定したという発表ではない。

価格交渉で見落とせないのは、話し合われている生産量が多くないという点だ。thebellは、これもSamsungが値下げに消極的な背景に挙げている。また、交渉が長引くことで年内生産が難しくなり、次世代製品について改めて協議する可能性も伝えた。対象製品名や価格、数量は公表されていない。

大口顧客を獲得する戦略的な価値は、個々の注文の採算とは別に考える必要がある。Qualcommとの取引再開に戦略的な価値があっても、当面の製造量が限られるなら、値下げで得られる数量面の見返りは小さくなる。逆に、他の顧客案件が増えれば、Samsungには条件を比較する余地が生まれる。今回の交渉は、その採算判断が表に出た事例とも読める。

大口案件の拡大は、どこまで確認できるか

Samsungは7月30日の決算発表で、ファウンドリ事業における主要顧客の設計採用案件が拡大していると説明した。例に挙げたのが、2nmを用いるHPC、つまり高性能計算向けの案件である。2026年下期には、第2世代2nm工程による新しいモバイル製品の生産を拡大する計画も示している。

事業の改善要因としては、HBMのベースダイ需要と米国顧客からの強い受注を挙げた。HBMはAI向けに使われる広帯域メモリで、ベースダイはその基盤となるチップを指す。もっとも、決算の収益改善の説明には「奨励金関連の引当計上前」という条件が付く。これをそのまま、ファウンドリの利益が確定的に拡大したという意味に読み替えることはできない。

より具体的な協業先はBroadcomだ。両社が7月25日に公表した覚書は、メモリとファウンドリの協力を広げる内容だった。製造分野では2nm以下の工程を対象とし、無線ブロードバンド通信向け製品などへの協力を掲げている。AI向けメモリと先端製造の両方で関係を深める構想である。

ただし、発表にある2,000億ドル超は、2030年までの5年間にわたるメモリとファウンドリを合わせた協力規模の見込みだ。全額が2nmの製造注文として確定したことを示す金額ではない。製造分野にいくら配分され、どれだけの生産量になるかは、この発表からは分からない。

案件・取り組み 公表された状態 製造受託を判断する際の留保
Broadcomとの協力拡大 メモリとファウンドリに関する覚書を締結 協力規模の見込みを2nmの確定注文額とはみなせない
第2世代2nmの新モバイル製品 Samsungが2026年下期の増産を計画 対象顧客をQualcommとは明記していない
Qualcomm向け2nm製造 thebellが価格協議の長期化を報道 契約成立、製品名、量産開始日は未確定

Broadcomとの協力拡大は覚書、Samsungの第2世代2nm増産は計画であり、どちらもQualcomm向けの製造契約の成立を示すものではない。Qualcomm向けは価格協議が続いているという報道で、契約成立の発表を待つ状況だ。

それでも、Samsungが顧客案件の拡大を公式に説明し、Broadcomとの協力分野まで示した意味は大きい。Qualcommとの契約を待つ間にも、他の顧客との事業を進められるためだ。この変化は、価格に慎重な姿勢を理解する材料になる。ただし、工場が満杯になったことや、Qualcommの注文を受けなくても採算が確保できることまで示してはいない。

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製造先の分散には、価格以外の時間がかかる

Samsung自身が、先端工程を採用する顧客の課題として挙げてきたのが、設計に必要な人手と時間だ。SAFE Forum 2023の公式説明では、微細化に伴って設計規則が複雑になり、開発資源と所要時間が増えると説明している。その負担を減らすため、複数のファウンドリから調達する顧客に向けて、Samsungの工程へ設計を移す支援技術を紹介した。

チップの機能が同じでも、製造工程が変われば、その工程に合わせて設計を実装し、要求する性能を満たすか確かめなければならない。Samsungが移植支援を用意するのも、その作業を短縮するためである。「2nm」という世代名が共通していても、製造先を選び直すだけで準備が完了するわけではない。

なお、この説明は一般的な開発上の制約を示すもので、現在のQualcomm製品にどれだけ移植作業が残っているかを示したものではない。交渉中の設計がどこまで進んでいるかは不明だ。それでも、製造先の分散を考える際には、単価と同時に日程を見る必要があると分かる。

スマートフォン向けのAPは、完成品の発売に間に合うように供給する必要がある。価格交渉を続ける間にも準備と製造に使える時間は減っていくため、現在の製品に間に合わせるより、次世代に向けて条件を詰める判断が合理的になる場合がある。thebellが伝えた協議の持ち越し観測も、この時間制約を踏まえると理解しやすい。

したがって、Samsungでの生産開始が遅れるという話を、Qualcommの2nm製品全体の発売延期に広げることはできない。今回の報道が対象としているのは、Samsungへの製造委託の協議である。他の製造先を含む製品計画や、スマートフォンの発売時期まで決まったわけではない。

Galaxyへの採用と製造受託は別の取引

Qualcommは7月22日の公式記事で、Galaxy Z Fold8がSnapdragon 8 Elite Gen 5 for Galaxyを世界で搭載すると紹介している。Samsung製品にQualcommの半導体を採用する関係は、実際の製品として続いている。

一方、今回の協議では、発注側と受注側が逆になる。Galaxy向けではSamsungがチップを採用し、ファウンドリの取引ではQualcommが製造を依頼する。前者で製品を供給していることは、後者の製造価格や数量についても合意していることを意味しない。両社の関係の深さだけでは、製造契約の成否を説明しきれないのだ。

スマートフォンを買う側にとっても、この交渉から直ちに値下げや値上げを予想するのは早い。製造先が増えることと、調達費用が下がることの間には、実際の価格条件と生産量がある。さらに、その変化が端末価格へ反映されるかは別の判断になる。

契約がまとまったという知らせが出たら、対象のAPと量産開始時期が、どこまで具体的に示されるかを確かめたい。製品の発売に間に合う日程で、双方が受け入れられる数量と価格が決まって初めて、SamsungはQualcommにとって実際に使える製造先の選択肢になる。