米国の原子力産業における次世代技術の実証に向けた動きが、かつてない速度で進展している。米Antares Nuclearは2026年6月4日、アイダホ国立研究所(INL)の原子炉・臨界実験(RACE)施設において、同社が開発する先進炉「Mark-0」がゼロ出力臨界を達成したと発表した。これは、2025年5月に発令された大統領令14301号に基づくエネルギー省(DOE)の「原子炉パイロットプログラム」の下で、最初に臨界到達の要件を満たした事例となる。
INLの敷地内で建設された原子炉としては1951年以降で53番目にあたり、同研究所において新型炉が臨界に達するのは半世紀以上ぶりの出来事である。今回のゼロ出力臨界とは、熱出力や発電を伴わず、核分裂の連鎖反応が持続する状態を維持できることを物理的に証明するプロセスである。これは実証の初期段階ではあるものの、炉心設計と反応度制御システムが理論通りに機能することを科学的・工学的に裏付ける不可欠なステップとなる。
Mark-0の技術的アプローチとアーキテクチャ
Antaresが開発を進めるシステムは、冷却材として液体ナトリウムを利用したヒートパイプ冷却と、燃料として高アッセイ低濃縮ウラン(HALEU)を用いたTRISO(3重被覆層付燃料)を採用している。従来の軽水炉のように複雑なポンプやバルブを必要とする能動的な冷却システムとは異なり、ヒートパイプによる受動的な熱輸送は可動部品を持たない。この単純化された設計アプローチは、システムの故障率を劇的に引き下げると同時に、製造および保守コストの削減にも寄与する。
今回稼働したプロトタイプであるMark-0は、原子炉物理学および制御システムの挙動確認に特化した専用の試験炉である。そのため、熱除去や発電を行うためのブレイトンサイクルなどの電力変換システムは意図的に搭載されていない。あくまでゼロ出力での臨界達成と炉心設計の実証を目的としており、熱を発生させない安全な環境で物理モデルの正確性を検証する役割を担っている。
TRISO燃料による安全性の担保
本システムの根幹をなすのが、BWX Technologies(BWXT)が製造を担ったTRISO燃料である。TRISO粒子は、ウランのカーネルを多孔質炭素、高密度炭素、炭化ケイ素などの多重層でコーティングした堅牢な構造を持つ。この独自の被覆層が極めて高温の環境下でも核分裂生成物を燃料粒子内に閉じ込める構造を持つため、メルトダウンの物理的リスクを根本的に低減する。この結果、従来の大型炉で必須とされた巨大な格納容器や複雑な安全系システムへの依存を脱却し、原子炉の大幅な小型化とモジュール単位での可搬性を実現している。
今回の実証において、BWXTは国家核安全保障局(NNSA)から提供されたスクラップ材料からHALEUの原料を処理し、TRISO燃料コンパクトを製造した。現在、米国国内における商用規模のHALEU濃縮サプライチェーンは未整備であり、NNSAからの原料供給が初期の試験を支える重要な鍵となった。Antaresはこの燃料仕様について、米国防総省の戦略的能力局(SCO)が推進する「Project Pele」向けに開発された既存の設計を踏襲している。実証済みの仕様を活用することで、燃料の基礎開発にかかる膨大な時間とコストを削減し、自社の中核技術である制御システムや炉物理の検証にリソースを集中投下する戦略を採択した。
高度なモジュール化と閉サイクル発電
Antaresが最終的に目指す商用モデル「R1」は、電気出力100キロワット(kW)から1メガワット(MW)のマイクロ炉である。外部の商用電力網に接続することなく、燃料交換なしで6年以上の連続運転を想定して設計されている。
R1の設計では、受動的なナトリウムヒートパイプを一次熱輸送に用い、フィン付き管式熱交換器を経て、窒素ガスによる密閉型ブレイトンサイクル(300 psi以下)で発電を行う。システム全体は遮蔽体を統合した輸送用クレードルに収まるようパッケージ化されており、軍事施設などのマイクログリッドに直接接続できる電力管理ノードを備えている。最大出力密度よりも、信頼性や稼働率、そして製造の容易さを最適化したアーキテクチャとなっている。
迅速な規制承認と今後の開発ロードマップ

Antaresの開発速度は、数十年単位の時間を要した従来の原子力業界のタイムラインとは一線を画している。2023年に設立された同社は、1億4000万ドル以上の民間資金を調達し、わずか数年で「臨界」という原子力技術における最大の技術的ハードルを越えた。2026年1月にはMark-0の予備的文書化安全解析(PDSA)がDOEによって承認され、直後に実機の製造から組み立てへと迅速に移行した実績がある。
この驚異的なスピードを実現した背景には、通常の原子力規制委員会(NRC)による商用炉向けの長期的なライセンスプロセスではなく、DOEの「原子炉パイロットプログラム」の枠組みに基づく特例的な認可経路の活用がある。DOEの権限下にある国立研究所の敷地内で試験を行うことで、安全性を担保しながらも官僚的な手続きを最小限に抑え、ハードウェアの反復開発(イテレーション)を加速させる手法が功を奏している。
Mark-1による発電実証への移行
Antaresは今回のMark-0による炉物理実験を完了させた後、2027年には同じINLの施設において、発電変換システムを統合した「Mark-1」によるフル出力運転を予定している。Mark-1では、温度依存の原子炉効果や反応度フィードバック、炉心と発電システム間の相互作用の検証が行われる予定であり、これが初のフルスケールかつ発電可能な商用要件を満たすマイルストーンとなる。
並行して、同社はカリフォルニア州トーランスの開発拠点で、電気加熱を用いた実証機のテストキャンペーンを実施している。核物質を使用しないこの非核テストは、規制プロセスを経ずに迅速な反復試験や分解検証が可能であり、2027年の発電開始に向けた熱交換器や電力変換システムの技術要件を詰めるために活用されている。
防衛・宇宙部門への初期展開
商用化の第一段階として、Antaresは米空軍や宇宙軍、NASA、国防イノベーション部門(DIU)との協定を既に結んでいる。2026年4月には、空軍の「基地向け先進原子力発電(ANPI)」イニシアチブにおいて、テキサス州のサンアントニオ統合基地へのプロトタイプ配備企業として選定された。INLでの実証がDOEの認可経路で行われるのに対し、ANPIでの配備は独立した規制トラックでの評価となる。環境審査や規制当局の承認を前提としつつ、2028年までに初期ユニットを防衛・宇宙顧客へ納入する計画が進行中である。
DOEプログラム下での他社の動向と競争環境
DOEの「原子炉パイロットプログラム」は、2026年7月4日までに少なくとも3つの先進炉を臨界に到達させるという高い目標を掲げている。Antaresが先陣を切った一方で、他の複数のプロジェクトもそれぞれの技術方式を採用し、ゴールに向けて最終段階に入っている。
Valar Atomicsは、ユタ州のサンラファエル・エネルギー研究所において、ガス冷却炉「Ward 250」の稼働を目指している。同社は2025年11月にロスアラモス国立研究所でゼロ出力臨界実験(NOVA Core)を完了させており、2026年4月には最終文書化安全解析(DSA)の承認を得ている。Valarが目指しているのはゼロ出力ではなく、より複雑な「発電運転」での稼働達成であり、近いうちにDOEの運用準備レビュー(ORR)を迎える。
Aalo Atomicsは、ナトリウム冷却とウラン燃料(UO2)を用いる熱スペクトル炉「Critical Test Reactor」の建設を完了し、4月末にDSAの承認を取得した。同社のシステムは商用モデルである「Aalo-1」の直接的なスケールダウンモデルであり、将来的にAIデータセンターなどの電力需要を満たすための量産体制(フリート展開)を見据えている。
Radiant Nuclearは、INLのDOME施設(かつての実験炉EBR-IIの格納容器を再利用した施設)に、ヘリウム冷却・TRISO燃料を採用した高温ガス炉「Kaleidos」を搬入し、フル出力試験の承認を既に獲得している。Radiantの設計は、1メガワットの出力を単一の輸送コンテナに収め、数年間にわたり無給油で運用できる特徴を持つ。同社もまた空軍からの支持を受けており、軍事用マイクロ炉市場でAntaresと直接競合する立場にある。
Antaresによる今回のマイルストーン達成は、国家機関と民間スタートアップの協業が、ハードウェア中心の複雑な原子力開発において実質的な成果を生み出し得ることを示した。続く各社の試験運用と、そこから得られるデータは、商用化を見据えた次世代炉の実用性やライセンス要件の確立を大きく前進させる試金石となる。