AMDの次世代メインストリーム向けAPU「Krackan Point」の詳細仕様が、ベンチマークデータベースと出荷マニフェストを通じて明らかとなった。Openbenchmarkingに登録されたエンジニアリングサンプルのデータによると、同APUは革新的なハイブリッドコアアーキテクチャを採用し、高性能なLPDDR5Xメモリを搭載することで、2025年のノートPC市場における競争力強化を図る構えのようだ。
革新的なハイブリッドコアアーキテクチャの採用
Krackan Pointの中核となるのは、4基のZen 5コアと4基のZen 5cコアを組み合わせた8コア16スレッド構成だ。型番「100-000000713-21_N」のエンジニアリングサンプルでは、現時点で3.95GHzの動作クロックを記録している。このハイブリッドアプローチは、従来のPhoenixシリーズから大きく進化した点であり、高性能コアと高効率コアの組み合わせによって、使用シナリオに応じた最適な電力効率と演算性能の両立を目指している。
共有L3キャッシュは16MBを確保しており、キャッシュ構成は従来モデルと同等のレベルを維持している。これにより、マルチスレッド性能を重視するクリエイティブワークロードにおいても安定したパフォーマンスの発揮が期待できる。
次世代メモリ技術がもたらす帯域幅の飛躍的向上
メモリサブシステムにおいて、Krackan PointはLPDDR5X-8000メモリを採用するようだ。これは現行のStrix PointやPhoenixシリーズが対応するLPDDR5-7500から約6.7%の帯域幅向上を意味する。具体的な構成としては、4枚の8GBモジュールを搭載し、合計32GBのシステムメモリを実現している。
注目すべきは、IntelのLunar Lakeが採用する、はんだ付けされたオンチップメモリとは異なり、システムボード上に実装される方式を採用している点である。この設計上の違いは、メモリ容量の柔軟な構成を可能にする一方で、レイテンシの面では若干の不利が生じる可能性がある。しかし、LPDDR5X-8000の高い転送速度により、実効的な性能への影響は最小限に抑えられると予想される。
一方で、競合するLunar LakeのLPDDR5X-8533との比較では、理論帯域幅で約6.2%の差が存在する。ただし、AMDは従来から優れたメモリコントローラの実装とメモリ管理の最適化で知られており、実効性能での差は縮小される可能性が高い。特にKrackan Pointでは、新設計のメモリコントローラにより、レイテンシとスループットの両面で改善が図られているとされる。
次世代RDNA 3.5アーキテクチャによるグラフィックス性能の進化
グラフィックスサブシステムでは、最新のRDNA 3.5アーキテクチャに基づく8基のCompute Unit(CU)を採用している。これは、フラッグシップモデルのStrix Pointが搭載する16 CUの半分のスケールながら、アーキテクチャの進化により単位CUあたりの性能は向上している。具体的には、グラフィックスコアは最大2500MHzで動作し、理論演算性能は従来比で約15%の向上を実現している。
RDNA 3.5アーキテクチャの主な改良点として、以下の要素が挙げられる:
- レイトレーシングユニットの強化による実時間レイトレーシング性能の向上
- AI駆動の超解像技術との統合による実効解像度の改善
- メディアエンジンの強化によるAV1エンコード/デコードの高速化
- 電力効率の最適化による持続的な高性能の実現
IntelのLunar Lakeとの比較では、CU数では不利ではあるものの、アーキテクチャレベルでの最適化により、実際のゲーミング性能では競争力を保持できる可能性が高そうだ。特にAMDの強みである電力あたりの性能効率は、モバイル環境において重要な差別化要因となるだろう。
さらに、XDNA 2エンジンとの密接な統合により、AIワークロードにおいても優れた性能を発揮する。最大50 AI TOPSの演算性能は、画像処理や動画編集、さらにはリアルタイムのAI処理において十分な処理能力を提供する。特に、グラフィックスエンジンとAIエンジンの協調動作により、ゲーミングにおけるフレーム生成やアップスケーリングなど、次世代のグラフィックス処理技術への対応も視野に入れている。
また、FP8プラットフォームを採用するKrackan Pointは、15Wから45Wの幅広いTDP設定に対応する。特に出荷マニフェストで確認された28WのTDP設定は、モバイルワークステーションからウルトラブックまで、幅広い製品セグメントへの展開を可能にするものである。
AMDはKrackan PointをRyzen AI 7およびRyzen AI 5シリーズとして展開し、1,000ドル以下のメインストリームノートPC市場を狙う計画のようだ。主な競合となるIntelのLunar Lake(Core Ultra 200Vシリーズ)と比較すると、グラフィックスCU数では16基対8基と数値上の不利はあるものの、製造・パッケージングコストの優位性を活かした価格競争力で差別化を図る戦略である。
Xenospectrum’s Take
Krackan Pointは、AMDのAPU戦略における重要な転換点として評価できる。特にハイブリッドコア構成の採用は、モバイル環境における電力効率と演算性能のバランスを根本から見直すものである。LPDDR5X-8000の採用による大幅な帯域幅向上は、統合GPUの性能限界を押し上げ、より高度なグラフィックスワークロードへの対応を可能にするだろう。
一方で、IntelのLunar Lakeとの競争においては、グラフィックス性能面での数値的には劣る面もあり、価格競争力でいかに補完できるかが鍵となる。AMDの製造プロセスにおけるコスト優位性は、特にボリュームゾーンとなるメインストリーム市場において重要な差別化要因となるはずである。
2025年第1四半期の市場投入に向けて、現在OEMメーカーへのサンプル出荷が開始されている段階である。CES 2025での正式発表が予定されており、最終的な性能調整とOEMパートナーとの協力体制の構築が、市場での成功を左右する重要な要素となるだろう。
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