Reutersのスペシャルレポートにより、Pat Gelsinger CEOの下でのIntelの復活計画が、一連の戦略的失策により深刻な危機に直面していることが明らかになった。約50名の現旧Intel従業員および幹部へのインタビューに基づく調査では、特にTSMCとの重要な関係を損なう判断が、同社の製造能力と収益性に大きな影響を与えていることが明るみに出た形だ。
TSMCとの関係悪化が収益性を直撃 – 外交的失態がもたらした深刻な影響
調査によると、Gelsinger氏はCEO就任直後の2021年、TSMCから極めて有利な条件を引き出していた。1枚23,000ドル相当の3nmウェハーに対して40%という破格の割引を受けており、この取引はIntelの製造能力を補完する重要な役割を果たしていた。当時のIntelにとって、この優遇措置は製造コストの抑制と製品の競争力維持において極めて重要な意味を持っていた。
だが、Gelsinger氏は米国での半導体製造促進を訴える過程で、致命的な外交的失態を犯すこととなる。同年5月、「台湾のファブに全ての卵を入れるべきではない」と公の場で発言。さらに12月のテクノロジーカンファレンスでは「台湾は安定した場所ではない」と述べ、米国での投資を促す文脈で台湾の地政学的リスクを強調した。これらの発言は、台湾の半導体産業全体に対する不信感を表明したものとして受け止められた。
TSMCは公式には創業者が「少し無礼だ」とコメントするにとどめたものの、内部では大きな反発が起きていたという。情報筋によれば、TSMCの経営陣はGelsinger氏の発言を、長年築き上げてきた信頼関係を損なう重大な問題として捉えていたという。その結果、TSMCはIntel向けの優遇価格を完全に撤回。標準価格での取引を余儀なくされたIntelは、この取引における利益率を大幅に低下させることとなった。
野心的な計画と現実のギャップ – 深刻化する経営危機
Gelsinger氏の下でIntelは、複数の深刻な経営課題に直面している。最も顕著なのは財務状況の急速な悪化である。売上高は就任時から約3分の1という劇的な減少を見せ、2023年には540億ドルまで落ち込んだ。さらに衝撃的なのは、アナリストらが2024年について、同社が1986年以来初となる年間純損失を記録すると予測している点である。株価も就任直後のピークから66%という大幅な下落を記録しており、これが買収の噂を呼ぶ要因ともなっている。
この危機的状況に対応するため、Intelは15,000人規模という大規模な人員削減を含む事業再構築を余儀なくされている。中堅社員の基本給カット、昇進やボーナスの制限など、従業員の待遇にも大きな影響が出始めており、社内の士気低下も深刻な懸念材料となっている。
製造技術の面では、次世代製造プロセス「18A」の開発が重大な困難に直面している。特に深刻なのは、主要顧客であるBroadcomによる初期テストにおいて、合格率がわずか20%程度という低水準にとどまっていることだ。この数値はTSMCの初期段階の歩留まりと比較しても著しく低く、技術的な課題の深刻さを示している。その結果、AppleやQualcommといった大手顧客が技術的な理由から採用を見送るという事態に発展。最新の計画文書では、2026年まで高音量生産は困難との見方も示されている。
競争力の低下も著しい。かつて圧倒的な強みを誇っていたデータセンター向けチップ市場では、AMDに大幅なシェアを奪われている状況だ。さらに深刻なのは、AmazonやGoogleといった主要顧客が独自チップの開発にシフトしていることである。特にAI市場では、NVIDIAの圧倒的な優位性を覆すことができておらず、モバイル向けチップやAI分野での重要な市場機会を次々と逃している。
この状況について、Goldman Sachsのアナリスト、Toshiya Hari氏は「今日、明日、来年、そしてここ数年の性能を重視するのであれば、Intelに賭けることはできない」と厳しい評価を下している。一方で米商務長官のGina Raimondo氏は、米国での製造はサプライチェーンの「保険」として機能すると指摘し、「主要チップデザイナーは米国製の最先端チップを望むはずだ」と述べているが、現状ではその期待に応えられていない状況が続いている。
Waymo案件の失態も明らかに – 戦略的パートナーシップの崩壊
また、新たに明らかになった情報として、IntelはAlphabetの自動運転部門Waymoとの重要な契約を破棄していたことも判明した。この案件は、Gelsinger氏本人がAlphabetのSundar Pichai CEOと直接協議を行った米国全土展開を見据えた戦略的なプロジェクトであった。両社のトップレベルでの合意があったにもかかわらず、事業計画の頓挫という結果となった。
関係者によれば、2022年の業績悪化を受け、Intel側が一方的に計画を中止。これを受けてAlphabetが法的措置を示唆する事態となり、最終的にIntelは違約金を支払うことで決着している。この判断について、当時データセンター部門を率いていたSandra Rivera氏は、部門再編に伴う「ポートフォリオ全体に関する決定」の一環だったと説明しているが、この説明に対して業界からは疑問の声も上がっている。
AIチップ市場での誇大な見通し – 内部との齟齬と現実との乖離
調査では、Gelsinger氏がAIチップ事業「Gaudi」の見通しについて、社内予測を大きく上回る数字を公表していたことも明らかになった。社内チームが最大5億ドルと見積もっていた売上目標に対し、2023年第2四半期の幹部会議でGelsinger氏は、NVIDIAの圧倒的な売上を意識し、少なくとも10億ドルという数字を掲げることを要求。この目標設定のプロセスでは、現実的な製造能力や市場の受容性についての詳細な検討が不足していたとされる。
さらに2024年1月には20億ドル以上の商談可能性があると投資家に説明していたが、2024年4月には今年の目標を5億ドル以上へと大幅に下方修正。内部関係者によれば、10億ドルの目標を達成するために必要なTSMCからの供給量も確保できていなかったという。また、この目標達成のために、主力AI製品とは無関係の製品も計上に含める等の会計上の工夫が行われていたことも指摘されている。
特に深刻なのは、Microsoft、Amazon Web Servicesなど主要顧客に対して、NVIDIAのGPUに代わる選択肢を提供できると約束したものの、具体的な製品を示すことができず、複数の商談機会を逃している点である。これらの失態は、Intel内部でのAIチップ戦略の混乱を示すものとして、業界関係者から厳しい評価を受けている。
同社のAIチップ開発における問題は2019年時点で既に表面化しており、独自GPU、買収した2社から得た異なるAI計算用チップの計3つのプロジェクトを同時進行させていたにもかかわらず、いずれもNVIDIAやAMDに対して有意な進展を見せることができていない。この状況について、元データセンター部門責任者のRivera氏は「外から見るよりも複雑な道のりである」と述べているが、具体的な打開策は示されていない。
このような困難にもかかわらず、Gelsinger氏はIntelの将来について楽観的な見方を続けている。IntelはReutersのGelsinger氏への取材を拒否し、代わりに 「Patは、アメリカのビジネス史上最大かつ最も大胆で、最も重大な企業再建のひとつを率いている。 3年半が経過し、私たちは大きな進歩を遂げました。 そして、私たちはこの仕事をやり遂げるつもりです」と声明で述べるに留めている。
Gelsinger氏は8月にReutersに対し、「私たちはやり遂げる自信があります」と述べ、3年後に達成するという再建計画に自信を示した。 しかし、業界アナリストは依然として懐疑的だ。Goldman SachsのHari氏は、チップ製造において顧客がTSMCからIntelへの移行に消極的であることについて、「今日、明日、来年、数年先の性能を気にするのであれば、そのような賭けはしないでしょう」と述べた。
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