IBM技術者Robert Tomasuloが1967年に確立したプロセッサ設計の基本概念を根本から覆す新たな挑戦が始まろうとしている。ドイツのRISC-VスタートアップUbitiumは、複数の専用プロセッサを単一のチップに統合する「ユニバーサルプロセッサ」を開発し、370万ドルの資金調達とともにその構想を発表した。
チップ設計を根本的に変えてしまう革新的アーキテクチャ
Ubitiumが提案するユニバーサルプロセッサは、従来のCPU、GPU、DSP、FPGAの機能を単一のチップに統合する画期的なアーキテクチャを採用している。同社CTOのMartin Vorbach氏は15年の歳月をかけてこの技術を開発し、その成果は米国の主要半導体企業にライセンス供与された200以上の特許として結実している。
このプロセッサの最大の特徴は、同一のトランジスタを異なる処理タスクに再利用できる点にある。現在のエッジデバイスや組込みシステムでは、一般的な演算処理を行うCPU、グラフィックスや並列処理向けのGPU、信号処理用のDSP、そしてカスタマイズ可能なハードウェア機能を提供するFPGAなど、複数の専用プロセッサを1つのチップに統合したシステムオンチップ(SoC)が採用されている。スマートフォンを例にとると、AI処理の効率化と低消費電力を両立するため、NPU(Neural Processing Unit)を他のプロセッサと組み合わせて使用している。
しかし、この従来型のアプローチには深刻な課題がある。CEO Hyun Shin Cho氏によれば、ハードウェアとソフトウェアの複雑性が増大し、製造コストの上昇を招いているという。さらに、リソースの非効率な使用も問題となっている。例えば、AIワークロードを実行していない時間帯では、AI処理用のNPUはアイドル状態となり、シリコン面積とエネルギーを無駄に消費することになる。
現代のチップ技術はトランジスタの微細化により支えられてきたと言っても過言ではない。1970年代にマイクロプロセッサに搭載されたトランジスタ数はわずか数千個だったが、現代のCPUではなんと数十億個にまで増大している。こうしたスケーリングによってコンピューターの進歩は続けられ、現代の生成AIを実現するまでに至っているが、設計はこの数十年根本的に変わっていないのだ。このことはシステムの構築コストを肥大化させ、機械学習や人工知能を活用した新技術の大量導入を阻害している。
Ubitiumの革新的な設計は、これらの課題を根本から解決することを目指している。同社のワークロードに依存しない(ワークロード・アグノスティック)マイクロアーキテクチャは、単純な制御ロジックから大規模な並列データフロー処理、AIの推論処理まで、あらゆる計算タスクを単一のプロセッサで動的に処理できるのだ。トランジスタの再利用により、システム全体のトランジスタ数を大幅に削減し、エネルギー効率とシリコン面積の最適化を実現する。
エッジAIからデータセンターまでの展開を視野に
CEO Hyun Shin Cho氏は、現状のテクノロジー展開における重要な課題を指摘する。「スマートシティや自動運転車の世界が約束されていたにもかかわらず、その多くは実現していない」と述べ、その主な障壁が1960年代から続くプロセッサ設計の限界にあると分析している。従来の設計では、規模と速度の要求に対応できず、実装コストが大きな壁となっているというのだ。
同社の成長戦略は段階的な展開を想定している。最初のステップとして、2025年に動作するプロトタイプの完成を目指し、2026年には最初の商用チップの出荷を計画している。アレイサイズは異なるものの、同一のマイクロアーキテクチャとソフトウェアスタックを共有する製品ポートフォリオを展開する予定だ。
投資家たちもこのビジョンに強い期待を寄せている。Runa CapitalのGeneral PartnerであるDmitry Galperin氏は、単純な制御ロジックから大規模な並列データフロー処理まで対応できる独自のアプローチを高く評価する。KBC Focus FundのInvestment DirectorであるRudi Severijns氏は、これまで複数チームの協働を必要としていたハードウェアとソフトウェアの設計が、純粋なソフトウェアプロジェクトとなることで、市場投入までの時間を大幅に短縮できると指摘している。
Xenospectrum’s Take
Ubitiumの構想は野心的だが、いくつかの重要な課題が存在する。370万ドルという初期投資額は、半導体開発に必要とされる数億ドル規模の資金からすれば極めて少額だ。また、業界大手が数年かけて開発する新アーキテクチャを2年で商用化するというタイムラインにも疑問が残る。
しかし、Intel、Texas Instruments、Dialog Semiconductorでの経験を持つPeter Weber氏を会長に迎え、200以上の特許を持つMartin Vorbach氏をリーダーとする技術陣の層の厚さは、この革新的な構想に一定の説得力を与えている。特にエッジコンピューティングの分野で、この技術が既存のパラダイムを転換する可能性は十分にあるだろう。
Sources
- Ubitium: Ubitium Debuts First Universal RISC-V Processor to Enable AI at No Additional Cost, as It Raises $3.7M
- Forbes: Why Ubitium Thinks Its Chip Design Will Unlock The Future
Image Credit: Ubitium
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