米連邦取引委員会(FTC)は、Microsoftのソフトウェアライセンス、クラウドコンピューティング、サイバーセキュリティ、AI事業を対象とする包括的な反トラスト法(日本の独占禁止法)疑いで調査を開始した。この調査は、Lina Khan委員長の承認を受けて開始されたが、Donald Trump次期大統領の就任に伴う政権交代により、調査の行方は不透明な状況となっている。
調査の焦点と経緯
FTCによる今回の調査は、Microsoftの事業活動の幅広い側面を対象としている。調査の発端となったのは、同社がクラウドサービスAzureの市場支配力を不当に利用しているという競合他社からの申し立てである。特に注目されているのは、顧客が競合プラットフォームにデータを移行しようとする際に課される懲罰的なライセンス条件についてだ。
調査の具体的な内容は数百ページに及ぶ情報提供要求として具体化された。これは1年以上に渡るMicrosoftの競合企業やパートナー企業との非公式な協議を経て作成されたものである。焦点となっているのは、同社による生産性向上ソフトウェアとセキュリティソフトウェアのAzureクラウドとのバンドル販売、そしてAI製品の統合戦略だ。
特に深刻な問題として指摘されているのは、Googleが欧州委員会に提出した申し立ての内容だ。Googleによれば、Microsoftは競合クラウドサービス上でWindows Serverを実行する顧客に対して400%もの価格上乗せを要求し、さらにセキュリティアップデートの提供を制限しているとされる。この問題は、米国政府機関向けのソフトウェアおよびクラウドサービスの主要サプライヤーであるMicrosoftの立場を考慮すると、特に重要性が高いとされている。
また調査では、近年相次いで発生したMicrosoft製品に関連するサイバーセキュリティインシデントも考慮されている。政府のサイバーセーフティレビューボードは「Microsoftのセキュリティ文化は不十分であり、特にテクノロジーエコシステムにおける同社の中心的な立場を考慮すると、抜本的な見直しが必要である」との結論を下している。これを受けて、CEO のSatya Nadellaは従業員に対して「セキュリティと他の優先事項との間でトレードオフに直面した場合、答えは明確である:セキュリティを選択せよ」との方針を示すメモを発信している。
業界への影響と反応
クラウドコンピューティング業界では、Microsoftの事業慣行に対する懸念が急速に高まっている。特に注目を集めているのは、AmazonとGoogleを含むオンライン企業を代表するロビー団体NetChoiceの批判的な姿勢である。同団体は、MicrosoftがOfficeスイートやOutlookなどの基幹製品へのAIツール統合を通じて、生産性ソフトウェアとオペレーティングシステム市場における支配的地位をさらに強化しようとしていると指摘している。
この問題の深刻さを際立たせているのは、Microsoftが世界最大のソフトウェア企業としての影響力を持つことである。同社のライセンス条件の変更は、企業のIT支出から技術選択に至るまで、広範な影響を及ぼす可能性がある。特に、クラウドコンピューティング市場では、顧客が一度特定のプラットフォームに依存すると、別のプラットフォームへの移行が技術的にも経済的にも困難になるという「ベンダーロックイン」の問題が指摘されている。
市場アナリストの間では、この調査がクラウドコンピューティング市場の競争環境に与える影響について、さまざまな見方が示されている。特に、Microsoft Azure、Amazon AWS、Google Cloud Platformという3大クラウドプロバイダーの競争構造が、規制当局の介入によってどのように変化するかが注目されている。さらに、この調査が企業のクラウド戦略やAI開発計画に与える影響についても、慎重な評価が行われている。
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