Intelの次世代製造プロセスである18A(18オングストローム、1.8nmに相当)の歩留まりが10%未満に留まっており、量産体制の確立が困難な状況にあることが明らかになったことを韓国の朝鮮日報が報じている。この低歩留まりの問題は、同社のファウンドリ事業戦略に深刻な影響を与える可能性がある。
深刻な歩留まり問題の実態
18Aプロセスの歩留まり問題は、当初、Broadcomによる検証結果の報道という形で業界の注目を集めることとなった。Broadcomは高帯域幅ネットワークプロセッサの製造パートナーとしてIntelの18Aプロセスの採用を真剣に検討していたが、実際のウェハー検証の結果、期待する性能と信頼性を確保できないと判断するに至った。
その背景には、驚くべき低歩留まりの実態が存在していた。朝鮮日報紙の報道によると、18Aプロセスの現状の歩留まりは10%にも満たないという。これは製造された10個のチップのうち、9個以上が何らかの不具合により使用できない状態であることを意味する。半導体製造において、この水準の歩留まりでは量産体制の確立は事実上不可能とされる。
この数値の深刻さは、同じく先端プロセスの開発で苦戦を強いられているSamsung Foundryとの比較で一層際立つ。Samsungの第2世代3nmプロセスも業界標準と比べれば低い水準ではあるものの、約20%の歩留まりを確保している。Intelの18Aプロセスはこれをさらに下回る結果となっており、技術的な課題の大きさを物語っている。
特に注目すべきは、18AプロセスがRibbon FET(GAA)やBackside Power Delivery Network(BSPDN)など、TSMCのN3世代には採用されていない革新的な技術を組み込んでいる点である。これらの先進技術の導入が、皮肉にも安定した製造プロセスの確立を一層困難にしている可能性がある。半導体製造では、個々の革新的技術の開発成功と、それらを組み合わせた量産プロセスの確立との間には大きな技術的ギャップが存在することを、この事例は改めて示している。
広範な影響と今後の展開
18Aプロセスの歩留まり問題は、単にIntelのファウンドリ事業だけでなく、同社の製品開発戦略全体に深刻な波紋を投げかけている。特に2025年の投入を予定している次世代サーバープロセッサ「Clearwater Forest」は、18Aプロセスでの製造を前提に設計が進められてきた。この状況下で、Intelは製品設計の大幅な見直しを迫られる可能性が高く、最新のTSMCプロセスへの設計変更など、代替策の検討が急務となっている。
さらに、18Aプロセスは「Panther Lake」ノートブックCPU、AWSカスタムAIチップ、米国防総省向けの軍事用半導体、さらにはArm参照設計など、多岐にわたる製品の製造基盤として期待されていた。これらのプロジェクトも、製造プロセスの再検討を余儀なくされる可能性が高い。特に外部顧客向けの製品については、信頼回復に向けた具体的な工程表の提示が不可欠となるだろう。
この問題は、Pat Gelsinger氏が掲げていた野心的な経営戦略にも大きな影を落としている。同氏は2030年までにファウンドリ業界で第2位のシェアを獲得する目標を掲げ、1ナノメートルプロセスの早期実現も約束していた。しかし、基盤となるべき18Aプロセスでつまずいたことで、この成長戦略の信憑性は大きく揺らいでいる。
財務面での影響も深刻だ。Gelsinger氏の在任中、Intelの年間売上高は2020年の779億ドルから2024年には510億ドル水準まで減少する見通しとなっている。さらに、209億ドルあった純利益は赤字に転落し、2024年の赤字額は200億ドルを超えると予測されている。この業績悪化の中で、オハイオ州や欧州での新規製造ライン建設計画の延期や中止を迫られており、米政府からの半導体補助金も当初の予定より6億4000万ドル減額されて78億6000万ドルとなった。
こうした状況を受けて、業界では次期CEOの下でのIntelの方向性に注目が集まっている。現在は暫定的にDavid Zinsner CFOとMichelle Johnston Holthaus上級副社長が共同CEOを務めているが、AIチップ開発への経営資源の集中を予測する声も出始めている。ただし、同社の AI製品「Gaudi」シリーズは発売から3年を経過しても有意な市場シェアを確保できておらず、当初目標とした年間売上高5億ドルの達成も困難な状況にある。新経営陣には、プロセス技術の立て直しとAI時代における新たな成長戦略の構築という、二重の課題への対応が求められることになるだろう。
Xenospectrum’s Take
18Aプロセスの歩留まり問題は、Intelの経営戦略全体を揺るがす深刻な事態だ。Pat Gelsinger氏の退任劇の背景には、このような技術的な行き詰まりがあったのかもしれない。夢のような技術ロードマップを描きながら、現実の製造現場では基本的な歩留まり改善すら達成できていないという現実。これは、かつての「Copy Exactly!」で知られた製造王者Intelの凋落を象徴する出来事と言えるだろう。
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