iPhoneとGalaxyスマートフォンユーザーを対象とした大規模調査により、両社のAI機能に対する評価が明らかとなった。ユーザーの期待は高いものの、現状の機能に対する満足度は低く、特にSamsungユーザーの87%が「ほとんど価値を感じない」と回答している。
AI機能に対する両陣営の温度差
SellCellが米国在住の18歳以上のスマートフォンユーザー2,000人以上を対象にした大規模調査の結果によると、スマートフォンにおけるAI機能の重要性に対する認識は、AppleとSamsungのユーザー間で顕著な違いを見せている。特筆すべきは、iPhone所有者の約半数(47.6%)が端末購入時の重要な判断要素としてAI機能を挙げているのに対し、Samsung所有者ではその割合が23.7%と、半分以下にとどまっている点だ。
この差は、両社のユーザー層が持つテクノロジーに対する期待値の違いを如実に表している。AppleユーザーはAIテクノロジーを、スマートフォンの基本機能を超えた付加価値として積極的に評価する傾向があるようだ。
しかし、実際の利用満足度に目を向けると、状況は大きく異なる。Apple Intelligence利用者の73%が「あまり価値がない」もしくは「ほとんど価値を感じない」と回答。さらに深刻なのはSamsung陣営で、Galaxy AI利用者の実に87%が同様の評価を下している。特にGalaxy AIユーザーの場合、51.9%が「ほとんど価値を感じない」と明確に否定的な評価を示している。
興味深いのは、両社のAI機能を比較した際のユーザーの認識だ。iPhone利用者の15.4%が「Apple Intelligenceの方が優れている」と評価する一方で、「Galaxy AIの方が優れている」と答えたのは5.9%に留まった。しかし、最も注目すべきは、32%のユーザーが「どちらも優れているとは言えない」と回答し、46.7%が「AI機能を比較するほどの知識がない」と答えている点である。これは、現状のAI機能が、ユーザーにとって十分な差別化要因となっていないことを示唆している。
ブランドロイヤリティへの影響
今回の調査で最も注目すべき発見の一つが、AI機能が両社のブランドロイヤリティに及ぼしている影響の大きさだ。特にApple陣営における変化は劇的で、同社の伝統的な強みであったブランドロイヤリティに大きな変化が生じている。
Appleのブランドロイヤリティはわずか3年で大幅な低下を記録した。2021年には92%を誇っていた同社のブランドロイヤリティは、現在78.9%まで低下。これは2019年以降で最も低い水準となっている。さらに衝撃的なのは、iPhone所有者の約6人に1人、具体的には16.8%のユーザーが「より優れたAI機能が提供されればSamsungへの乗り換えを検討する」と回答している点だ。この数字は、AppleのAI戦略が今後のユーザー維持に重要な影響を与える可能性を示唆している。
一方、Samsung陣営の状況はやや異なる様相を呈している。Galaxy AI搭載機種のユーザーのうち、より優れたAI機能を理由にAppleへの移行を検討すると答えたのは9.7%にとどまった。しかし、Samsungも無傷ではなく、ブランドロイヤリティは2021年の74%から67.2%へと6.8ポイント減少している。興味深いのは、Samsungユーザーの23.1%が「AIは端末選択において重要な要素ではない」と回答している点で、これはAppleユーザーとの技術に対する姿勢の違いを浮き彫りにしている。
この変化の背景には、AI機能に対する期待と現実のギャップが大きく影響していると考えられる。調査によれば、Appleユーザーの21.1%が「AIは購入時の非常に重要な判断要因」と回答し、さらに26.5%が「やや重要だが最優先ではない」と答えている。つまり、約半数のユーザーがAI機能を重視しているにもかかわらず、現状の機能には満足していないという矛盾した状況が浮かび上がる。
さらに注目すべきは、将来のAIサービスに対する支払い意欲の違いだ。Appleユーザーの11.6%が「AI機能に対して課金してもよい」と回答している一方、Samsungユーザーでは4%にとどまっている。これは、Appleユーザーの方がAI機能に対してより高い価値を見出していることを示唆している。しかし、両陣営とも大多数のユーザー(Apple:86.5%、Samsung:94.5%)はAIサービスへの課金に否定的な立場を示している。
このような状況は、両社に対して重要な示唆を投げかけている。特にAppleにとって、AI機能の強化は単なる技術革新の問題ではなく、長年築き上げてきたブランドロイヤリティを維持するための重要な戦略的課題となっている。一方のSamsungは、AIへの投資と並行して、より基本的な製品価値の向上にも注力する必要があるだろう。両社とも、AI機能の実装において、技術的な革新性と実用的な価値のバランスを慎重に検討する必要がある時期に来ているといえる。
人気のAI機能と利用の障壁
AppleとSamsungのAI機能に対するユーザーの利用実態は、両社の異なるアプローチと、それぞれのユーザー層の特性を鮮明に映し出している。
AppleのAI機能において最も高い支持を得ているのが文章作成支援ツール「作文ツール」で、実に72%のユーザーが活用している。この機能は、文章の校正や書き換え、要約などをアプリ横断で支援するもので、ビジネスユースを含む日常的なコミュニケーションの効率化に貢献している。続いて支持を集めているのが通知のサマリー機能で、54%のユーザーが利用。複数の通知をまとめて要点を把握できる利便性が評価されている。また、優先メッセージ機能は44.5%の利用率を記録し、緊急性の高いメールの識別や要約機能が、特にビジネスユーザーから支持を得ている。
一方、Samsungの「Galaxy AI」では、画面上の任意の場所を円で囲んでGoogle検索できる「かこって検索」が圧倒的な支持を獲得し、82.1%という高い利用率を示している。この機能は、情報検索の新しいパラダイムを提示したとして、ユーザーから高い評価を得ている。また、写真編集支援機能「Photo Assist」は55.5%のユーザーが利用しており、AIを活用した画像生成や編集機能が、写真愛好家を中心に支持されている。コミュニケーション支援機能「Chat Assist」は28.8%の利用率で、文体の改善や文法チェック、翻訳機能などが評価されている。
しかし、これらの機能の普及を妨げる要因も明らかになっている。特徴的なのは、両社のユーザーで異なる理由が挙げられている点だ。iPhoneユーザーの最大の障壁は「最新ソフトウェアへの未更新」で、57.6%のユーザーがこれを理由として挙げている。これは、2024年10月末にリリースされたiOS 18.1のアップデートが、まだ多くのユーザーに行き渡っていない現状を反映している。
対照的に、Samsungユーザーの主たる理由は「有用性を感じない」(44.2%)という本質的な価値への疑問であり、続いて「AIの精度への不信感」(35.5%)、「プライバシーとセキュリティへの懸念」(30.1%)と続く。これらの数字は、Samsungのユーザーがより実用的な価値を求めており、同時にAI技術の信頼性や安全性に対して慎重な姿勢を持っていることを示唆している。
このような結果は、スマートフォンメーカーが直面している根本的な課題を浮き彫りにしている。ユーザー、特にAppleユーザーの間でAI機能への期待は確実に高まっているものの、現状の実装ではその期待値と実際の使用価値との間に大きなギャップが存在している。両社は、このギャップを埋めるべく、より実用的で価値のあるAI機能の開発に注力する必要があるだろう。
このような利用実態と障壁の違いは、両社のAI戦略に重要な示唆を与えている。Appleはソフトウェアアップデートの普及を加速させる必要がある一方で、Samsungは機能の有用性を高め、同時にプライバシーとセキュリティへの懸念に対応する必要があるだろう。両社とも、これらの課題を克服することが、AI機能の本格的な普及への鍵となるはずだ。
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