Appleは、新型「iPhone 16e」に初めて自社開発の5Gモデムチップ「C1」を搭載した。さらに、将来的にはこのモデムをSoC (System-on-a-Chip) に統合する計画を進めていることが明らかになった。「C3」と呼ばれる次世代モデムは、2027年にも登場する可能性がある。
C1モデム:Appleの5G自社開発戦略
iPhone 16eに搭載されたC1モデムは、Appleにとって重要なマイルストーンとなる初の自社開発5Gモデムである。これまでiPhoneはQualcommのSnapdragonモデムチップに依存してきたが、C1の登場により、同社は通信技術の自社開発への第一歩を踏み出した。
C1モデムチップは特徴的な二重アーキテクチャを採用している。信号の送受信を担当するトランシーバー部分は7nmプロセス(7ナノメートルの製造技術)を採用し、信号処理を行うベースバンド部分は最新の4nmプロセスで製造されている。Appleによれば、この設計はA18プロセッサと最適に連携し、ゲームやブラウジングなどの操作をスムーズにするという。
また、C1モデムは電力効率に優れており、iPhone 16eのバッテリー持続時間の向上に貢献している。Appleの発表した仕様によれば「一回の充電で最大26時間のビデオ再生を維持できる」とされる。また、温度耐性と信頼性についても徹底的なテストが行われ、世界55カ国の少なくとも180のキャリアからの信号受信能力も検証されている。
ただし、現行のC1には制限もある。最も顕著な欠点として、ミリ波5Gサポートがないことが挙げられる。ミリ波技術は超高周波数の電波を使用して最も高速な5G接続を提供するため、これは無視できない制限だといえる。
次世代モデム:C2とC3の開発タイムライン
Appleの独自開発モデムはこれで終わりではなく、展開は始まったばかりだ。次世代モデムについては、Mark Gurman氏のPower Onニュースレターによれば、Appleは来年「より上位のiPhone」向けにC2モデムを発表し、その後のC3モデムで最終的にQualcommモデムを上回るパフォーマンスを目指しているという。
リーカーのデジタルチャットステーション氏も「C3」が2027年のAppleラインナップに登場すると報じており、新しい自社製モデムが約2年ごとにアップグレードされる可能性を示唆している。
いずれにせよ、次世代モデムではミリ波サポートなど現行C1の制限を克服し、Mac、iPadなど他のデバイスへの展開も視野に入れていると考えられる。
Aシリーズとの統合:2028年以降の展望
Appleの長期的な計画は、モデムチップをメインのAシリーズプロセッサに統合することだ。現在、C1モデムはA18チップとは別個のスタンドアロンチップとして機能しているが、将来的にはこれらが一体化する見込みである。
Bloombergによれば、Appleはモデムをデバイスのメインチップセット内に統合することを目指しており、これによりコストと効率の面で利点が得られるという。しかし、この統合には少なくとも3年かかり、早くても2028年の実現となる見込みだ。
興味深いことに、以前AppleはWi-Fi、Bluetooth、モデムを1つのチップに統合するオールインワンチップの計画があると報じられたが、後に否定されたという情報もある。今回のモデム統合については、この以前の報告と今回の情報には何らかの関連性がある可能性がある。
モデム統合の影響:業界と製品設計への課題
Appleの自社製モデム開発は、長年同社にモデムを供給してきたQualcommとの関係に大きな影響を与える。C1モデムはiPhone 16eにのみ搭載されているため、現時点でQualcommはまだ多くのApple製品にモデムを供給している。しかし、Appleが自社製モデムの性能を向上させ、より多くの製品に展開するにつれて、Qualcommはその主要な顧客を失うリスクがある。
また、将来的なAシリーズとモデムの統合は、Appleのシリコン戦略における重要なステップとなる。Appleは近年、Intel製CPUからApple Siliconへの移行など、ハードウェアコンポーネントの自社開発に積極的に取り組んでいる。モデムの開発と統合は、この戦略の延長線上にある。
統合によるメリットは明らかだ。デバイス内のスペース節約、コスト削減、電力効率の向上が期待できる。特に電力効率の向上は、バッテリー寿命に敏感なモバイルデバイスにとって重要な利点となる。
だが、モデムが統合された場合、Appleはモデムなしの別バージョンのチップセットを作るのだろうかという疑問も残る。現在、iPadやApple Watchではセルラーモデルは追加料金(1万円程度)が必要なオプションとなっている。モデムがメインチップに統合された場合、非セルラーモデルをどう設計するのか、あるいはすべての機器にセルラー機能を標準搭載するのかという選択を迫られることになるだろう。
最終的に、Appleの自社製モデム開発と統合計画は、同社の垂直統合戦略をさらに強化するものだ。しかし、市場での性能やユーザー体験がQualcommのような専業メーカーのモデムと比較してどうなるかは、今後の重要な観察ポイントとなるだろう。
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