世界最大の半導体製造企業TSMCは、既存の650億ドル投資に追加して1,000億ドルを米国に投資し、総額1,650億ドルとなる米国史上最大の海外直接投資を実施すると発表した。この大型投資は3つの新工場、2つの先進パッケージング施設、主要なR&Dセンターの建設に充てられる。Trump大統領はホワイトハウスでの記者会見で「世界で最も強力なAIチップがアメリカで作られる」と宣言した。
アリゾナ州での生産能力を大幅に増強
台湾積体電路製造(TSMC)のC.C. Wei会長兼CEOは、Trump大統領との共同会見で「2020年、Trump大統領のビジョンとサポートのおかげで、米国での先進チップ製造の旅が始まりました。このビジョンは今や現実となっています」と述べた。現在、TSMCのアリゾナ工場は1,100エーカー(約445ヘクタール)の敷地に3,000人以上を雇用しており、2024年後半から量産を開始している。
これは、米国史上最大の海外直接投資となる。TSMCのアリゾナ州フェニックスにおける既存の先進半導体製造拠点の拡張として、新たに3つの製造工場、2つの高度なパッケージング施設、そして大規模な研究開発(R&D)チームセンターが建設される予定だ。
TSMCの発表によると、この投資拡大は、AI(人工知能)やその他の最先端技術分野に向けた半導体の価値を数百億ドル規模で創出することを目指している。建設段階では今後4年間で4万人の雇用を創出し、高度なチップ製造と研究開発において数万人の高賃金・ハイテク雇用を生み出すと見込まれている。さらに、今後10年間でアリゾナ州および米国全体で2000億ドルを超える間接的な経済効果をもたらすと予測されている。
Wei氏は、「AIは私たちの日常生活を再構築しており、半導体技術は新たな能力と応用の基盤です。アリゾナの最初の工場の成功、必要な政府の支援、そして強力な顧客とのパートナーシップにより、米国の半導体製造への投資をさらに1000億ドル拡大し、計画総投資額を1650億ドルに引き上げることを決定しました」と語った。
顧客にはApple、AMD、NVIDIA、Qualcommなどの大手テクノロジー企業が含まれており、これらの企業の高性能チップが米国内で製造されることになる。
投資拡大の背景:半導体国産化とTrump氏の政策
この投資拡大の背景には複数の要因が絡み合っている。TSMCの米国展開はもともと2020年から始まり、当初の投資額は12億ドルだった。Biden政権下でCHIPS法が成立し、TSMCはこの法律の下で66億ドルの直接資金提供を受けていた。これは「アリゾナ州フェニックスの3つの最先端工場への650億ドル以上の計画投資をサポートする」ためのものだった。
一方、Trump大統領は就任直後から半導体の国産化を強く推進しており、輸入半導体に対して「25%以上の関税」を課す方針を示している。商務長官Howard Lutnick氏は、Trump氏の関税政策がTSMCを米国へ移動させた主な要因だと主張している。
「我々はこの国でチップを作らなければならない」とTrump氏は先月語っている。「現在、すべてが実質的に台湾で作られており、その一部が韓国で作られている。我々はそれらの企業が我が国に来ることを望んでいる」。
技術的意義:AIチップ製造の中心地へ
TSMCは現在、最も先進的なチップを台湾でのみ製造しているが、この投資により米国も最先端半導体の製造拠点となる。TSMCのアリゾナ工場は今年1月に4ナノメートル(nm)チップの生産を開始したが、将来の工場では2030年までに「2nmまたはさらに先進的なプロセス技術」を使用したチップを製造する計画だ。
台湾政府はすでにTSMCが海外で2nmチップを生産することを許可しており、これらの先進技術はアリゾナで製造される可能性が高い。主要顧客としてApple、AMD、Nvidia、Qualcommなどが挙げられており、特にNVIDIAのAIチップは現在の人工知能革命の中核を担っている。
業界への影響と国家安全保障
この発表はすべての業界関係者に歓迎されるわけではない。2024年後半に深刻な財政難に陥っているIntelにとって、主要な競合企業が米国でチップを製造するという約束を伴って参入することは、競争をさらに激化させる可能性がある。
また、この発表はAppleが今後4年間で米国に5,000億ドル以上を投資する計画を明らかにした直後に行われた。このタイミングは偶然ではなく、Trump大統領が4月にも半導体などに関税を導入する予定であることと関連している可能性が高い。
Trump大統領は米国内で先進チップを製造することの経済的・国家安全保障上の重要性を強調した。先進チップはAIイノベーションだけでなく、国家安全保障にも不可欠と見なされており、安定した供給がなければ米国は大きな技術的・経済的損失、さらには軍事力の低下の恐れもある。
TSMCにとってもこの動きは台湾からの生産の多様化を可能にする。台湾は地震や台風などの自然災害に頻繁に見舞われるだけでなく、中国との地政学的緊張も抱えている。米国内に工場を持つことで、これらのリスクを分散させつつ、顧客により近い場所で生産能力を確保できるメリットがある。
Sources
- The White House: President Trump Makes an Investment Announcement
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TSMCが米国に追加1,000億ドルの投資を発表。総額1,650億ドルとなる米国史上最大の海外直接投資により、アリゾナに3つの工場、パッケージング施設、R&Dセンターを建設。トランプ大統領は「最強のAIチップを米国で製造」と宣言。
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