半導体大手Intelは12日、新CEOとしてLip-Bu Tan氏を任命したと発表した。同氏はCadence Design Systemsの元CEOで半導体業界のベテランとして知られる人物だ。この発表を受け、Intelの株価は時間外取引で12%上昇。業績不振と市場シェア低下に苦しむ同社の再建に期待が集まっている。
Lip-Bu Tan氏の経歴と実績
Tan氏は半導体業界で20年以上の経験を持つ重鎮である。2009年から2021年までCadence Design SystemsのCEOを務め、顧客中心のイノベーションを軸とした企業変革を主導した。同社在任中には収益を2倍以上に増加させ、営業利益率を拡大。株価は驚異的な3,200%以上の上昇を達成した実績がある。
同氏は、シンガポールのナンヤン工科大学で物理学の学士号、マサチューセッツ工科大学(MIT)で原子力工学の修士号、サンフランシスコ大学でMBAを取得。2022年には半導体工業会の最高栄誉であるRobert N. Noyce賞を受賞している。
また、Tan氏はWalden Catalyst VenturesのファウンディングマネージングパートナーおよびWalden Internationalの会長も務めており、投資分野での経験も豊富だ。彼の投資会社Walden Internationalは、米国とアジアの両方で半導体、代替エネルギー、デジタルメディア分野の企業やスタートアップを支援してきた。
興味深いことに、Tan氏は2022年から2024年8月までIntelの取締役会のメンバーを務めていたが、会社の戦略的方向性についての意見の相違により離脱したと報じられている。一部のメディアは、彼がGelsinger前CEOと肥大化した従業員数とリスク回避的な文化について意見の衝突があったと伝えている。
困難な状況下での就任
Tan氏の就任は、Intelが厳しい状況に直面している時期に行われる。同社は2024年に株価の約60%を失い、配当の停止を余儀なくされた。また、急成長するAI市場での出遅れが顕著となっており、特にNVIDIAに大きく水をあけられている状況だ。
前CEOのPat Gelsinger氏は2024年12月に解任された。Gelsinger氏は自社製品の製造に加えて他社のチップも製造するファウンドリビジネスへの変革を試みたが、全体の収益は継続的に減少。投資家はオハイオ州に200億ドルを投じる新工場建設など、チップ製造事業への巨額投資に懸念を示していた。
Intelは2024年11月にダウ・ジョーンズ工業平均株価指数から除外され、代わりにNVIDIAが追加された。水曜日の取引終了時点でのIntelの時価総額は895億ドルで、NVIDIAの評価額の約30分の1にすぎない。
新CEOのビジョンと市場の反応
Tan氏は就任声明で「Intelは強力で差別化されたコンピューティングプラットフォーム、広大な顧客基盤、そして日々強くなっている堅牢な製造基盤を持っています」と述べている。また、従業員向けの最初のメッセージでは「勢いのある分野では優位性を拡大し、競争に遅れている分野では破壊的イノベーションのために計算されたリスクを取り、進捗が期待より遅い分野ではペースを上げる方法を見つける必要がある」と強調した。
さらに重要なのは、Tan氏が「世界クラスの製品会社としてのIntelの地位を回復し、世界クラスのファウンドリーとして自分たちを確立する」と述べており、Intelがファウンドリービジネスを継続する意向を示唆している点だ。
市場はこの人事に好意的に反応し、発表後のIntelの株価は時間外取引で12%上昇した。J. Gold Associatesのアナリスト、Jack Gold氏はFierce Electronicsに対し「Tanの任命はIntelにとって歓迎すべき後押しだ」と述べ、「彼は製品設計と製造の両側面で半導体業界の本質的な理解を持っている」と評価している。
しかし同時に「Intelの再建はまだ1〜2年かかるだろう。忍耐が必要だ」とも指摘。theCUBE Researchのアナリスト、Dave Vellante氏はIntelのファウンドリービジネスのスピンオフを長く主張しており、一部では今回の人事がそうした方向への第一歩である可能性も取り沙汰されている。
Frank Yeary取締役会議長は「Lip-Buは株主価値を創造してきた実績がある」と述べ、「私たちの立て直しを加速し、今後の重要な成長機会を活かすために働いていく」と期待を示した。
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