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Google、低コスト・高効率「Gemini 2.5 Flash」をリリース

Y Kobayashi

2025年4月10日

GoogleがAI開発プラットフォーム「Vertex AI」において、新しい推論モデル「Gemini 2.5 Flash」の提供を開始した。先月リリースされた高性能モデル「Gemini 2.5 Pro」と同じコードベースながら、処理速度とコスト効率を最適化したこのモデルは、企業のリアルタイムアプリケーションや大量処理に特化している。AI活用のコスト削減を目指す企業にとって、画期的な選択肢となりそうだ。

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Gemini 2.5 Flash:Google謹製「ワークホース」モデルの実力

Gemini 2.5 Flashは、Googleが「主力モデル」と位置付ける新たなAIモデルだ。先月発表されたGemini 2.5 Proがパフォーマンスと精度を追求したのに対し、Flash版は速度と費用対効果に重点を置いている。

「この主力モデルは、低レイテンシーと低コストに特化して最適化されています。応答性の高い仮想アシスタントやリアルタイム要約ツールなど、スケールでの効率性が重要な場合に理想的なエンジンです」とGoogleは公式ブログで説明している。

Gemini 2.5 FlashはOpenAIの「o3-mini」やDeepSeekの「R1」と同様の「推論」モデルに分類される。これらのモデルは、回答の質を向上させるために事実確認のプロセスを含むため、従来のモデルより若干処理時間が長くなる特性を持つ。

GoogleのAI戦略においては、Gemini 2.5シリーズが明確な役割分担を持っている点が興味深い。Gemini 2.5 Proは最高品質を追求し、複雑なタスクや深い推論が必要な場面向けだ。一方、Gemini 2.5 Flashは日常的な高ボリュームタスクを高速かつ低コストで処理することに最適化されている。

「動的で制御可能な推論」:Gemini 2.5 Flashの革新的機能

Gemini 2.5 Flashの最大の特徴は「動的で制御可能な推論」機能だ。この機能により、モデルはクエリの複雑さに基づいて「思考予算」(処理時間)を自動的に調整する。簡単な質問には迅速に回答し、複雑な課題には十分な計算リソースを割り当てる仕組みだ。

先月リリースされた実験的なGemini 2.5 Proでも「動的思考」という技術が実装されていたが、単純なクエリでも「考えすぎる」傾向があった。Google担当者のTulsee Doshi氏はArs Technicaに対し、最終リリースではこの機能をさらに改善し、開発者により多くの制御を提供する計画だったと説明していた

その計画が実現したのがGemini 2.5 Flashだ。開発者はこの「思考予算」を細かく制御できるようになった。「速度、精度、コストのバランスを特定のニーズに合わせて明示的に調整できる」とGoogleは説明する。これにより、企業は自社のアプリケーションに最適な設定を見つけ出し、パフォーマンスとコストの最適なバランスを実現できる。

例えば、顧客サービスチャットボットのような即時性が求められるアプリケーションでは、思考予算を少なく設定して応答速度を優先できる。一方、法的文書の分析や医療データの処理など、正確性が重要な場面では、十分な思考予算を割り当てて精度を高めることが可能だ。

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企業活用の最前線:顧客からの評価と実用例

Googleが想定するGemini 2.5 Flashの主要なユースケースは多岐にわたる。特に顧客サービス、文書解析、情報のリアルタイム処理など、大量かつ即時の処理が必要なシナリオで威力を発揮するという。

サイバーセキュリティ大手のPalo Alto Networks社は、すでにこのモデルの評価を進めている。同社エンジニアリング担当VPのRajesh Bhagwat氏は次のようにコメントしている。

「Gemini 2.5 Flashの強化された推論能力、特にその洞察に富んだ応答は、将来のAI駆動型脅威の検出や、当社のAIポートフォリオ全体でのより効果的な顧客サポートなど、Palo Alto Networksにとって大きな可能性を秘めています」。

同社は現在、このモデルがAIアシスタントのパフォーマンス、特に要約や応答に与える影響を評価中で、「このモデルに移行して高度な機能を活用する意向がある」としている。

クラウドコンテンツ管理プラットフォームのBox社も、Geminiモデルを活用した事例を紹介している。同社AI製品管理担当VPのYashodha Bhavnani氏によれば、Geminiを搭載したBox AIエージェントにより、ユーザーは非構造化データを即座に活用可能にし、調達やレポーティングなど様々なユースケースをサポートしているという。

「Gemini 2.5は高度な推論において飛躍的な進歩を遂げており、抽出された洞察が自動的に下流のアクションをトリガーし、複数のステップにわたって調整するような、より強力なエージェントシステムの構築を構想することができます」とBhavnani氏は述べている。

Vertex AIのエコシステム強化:使いやすさと拡張性

Gemini 2.5 Flashは、まずエンタープライズ向けのVertex AIで提供が開始される。将来的にはGoogle AI Studioでも利用可能になる見込みである。

また、GoogleはGemini 2.5 Flashの発表と同時に、Vertex AIにおける新機能も発表している。

モデル選択をより簡単にするための「Vertex AI Model Optimizer」は、実験的に導入される予定だ。この機能は、ユーザーが希望する品質とコストのバランスに基づいて、各プロンプトに最適な応答を自動的に生成する。

また、特定の場所での処理を必要としないワークロード向けに「Vertex AI Global Endpoint」も提供される。これにより、複数のリージョンにまたがるGeminiモデルへのアクセスが可能となり、トラフィックが集中する時間帯やリージョナルサービスの変動時でもアプリケーションの応答性を維持できるという。

さらに、今後数週間のうちに、Gemini 2.5モデル向けに2つの重要な機能が追加される予定だ。「監視付きチューニング」は特定のデータに特化したモデル調整を可能にし、「コンテキストキャッシング」は長いコンテキスト処理の効率化を実現する。これらの機能により、パフォーマンスの向上とコスト削減が期待できる。

オンプレミス対応とAIの民主化

GoogleはさらにGemini 2.5 Flashを含むGeminiモデルを2025年第3四半期からオンプレミス環境でも提供する計画を発表した。これは、厳格なデータガバナンス要件を持つ企業に向けた重要な一歩だ。

これらのモデルは、Google Distributed Cloud(GDC)を通じて提供される。TechCrunchによれば、GoogleはNVIDIAと協力して、GDC準拠のNvidia BlackwellシステムにおいてもGeminiモデルを利用可能にする取り組みを進めているという。これにより、企業はGoogleや自社の好みのチャネルを通じて、オンプレミス環境でもGeminiモデルの能力を活用できるようになる。

これは特に、規制要件やデータプライバシーの懸念から、クラウドベースのAIサービスの利用に制限がある金融、医療、政府機関などのセクターにとって重要な進展だ。オンプレミス環境でのGemini展開により、これらの組織もAIの恩恵を享受しやすくなる。

AIモデルの効率化競争と業界への影響

今回のGemini 2.5 Flashの発表は、AI業界全体で進むモデルの効率化競争の一環と見ることができる。フラグシップAIモデルのコストが上昇傾向にある中、Gemini 2.5 Flashのような低価格で高性能なモデルは、多くの企業にとって魅力的な選択肢となるだろう。

また、動的推論と新TPUにより、Googleはこれまで生成AI を収益化できなかった高いコストを下げ始める可能性がある。これはGoogle一社だけでなく、業界全体にとって重要な進展だ。

AIの民主化と広範な採用には、パフォーマンスだけでなく経済的実現可能性も不可欠だ。Gemini 2.5 Flashのようなモデルが登場することで、中小企業や予算制約のある組織でも高度なAI機能を活用できるようになる。

同時に、このようなモデルの普及は、AI開発における重要な傾向を示している。つまり、単に最大かつ最も強力なモデルを作ることだけでなく、特定のユースケースに合わせて最適化された効率的なモデルを開発することの重要性が高まっているのだ。

「思考」するAIの時代:Gemini 2.5シリーズの本質

Gemini 2.5シリーズの特筆すべき点は、これらが「思考モデル」として設計されていることだ。Googleの説明によれば、これらのモデルは「応答する前に推論を行う能力」を持ち、「透明なステップバイステップの推論」を提供する。これは「企業の信頼とコンプライアンスに不可欠」だとしている。

このアプローチは、単なる確率的予測から、より人間に近い思考プロセスへの進化を示している。応答の前に事実確認を行い、段階的な推論を示すことで、AIの判断プロセスが説明可能になり、特に企業での信頼性が高まる。

Gemini 2.5 Flashの「動的で制御可能な推論」機能は、この考え方をさらに一歩進めたものだ。AIが自動的に「どれだけ考えるべきか」を判断し、さらに人間がその度合いを調整できるようにすることで、AI利用の効率と透明性を両立させようとしている。

これはAIの未来について重要なヒントを提供している。より高度なAIモデルは、単に大きなパラメータ数や広大なトレーニングデータだけでなく、人間のような段階的思考プロセスをシミュレートする能力によって差別化されるようになるだろう。Gemini 2.5シリーズはその方向への重要なステップと言える。


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