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NVIDIA GPU H20、中国向け輸出規制回避か? トランプ政権との「取引」報道

Y Kobayashi

2025年4月10日

NVIDIA CEO Jensen Huangがトランプ大統領とマール・ア・ラーゴで会談した直後、トランプ政権は中国向けH20 GPUに対する新たな輸出規制の計画を突如見送る決定をした。今週にも実施される予定だった規制は保留となり、NVIDIAの株価は5.9%上昇した。複数の情報筋によれば、この政策転換はNVIDIAが米国内のAIデータセンターへの巨額投資を約束したことが決め手になったという。

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規制強化の機運:なぜH20が標的とされたか

NVIDIAのH20 GPUは、既存の米国の輸出規制の範囲内で中国市場向けに性能を調整された、現時点で同社が中国に輸出できる最も高性能なAIチップである。このH20に対し、米国内では追加規制を求める声が高まっていた。

発端の一つは、今年1月に中国のAIスタートアップDeepSeek社が発表したAIモデルである。このモデルはH20などのチップを用い、西側の大規模モデルに匹敵する性能を少ないリソースで達成したとされ、米国の技術的優位性に対する懸念を増幅させた。これを受け、Elizabeth Warren、Josh Hawley両上院議員をはじめとする超党派の議員が、H20への輸出規制強化を政権に強く働きかけていた。

中国企業にとって、自国製AIチップの性能や生産量が依然として限定的である中、H20は高度なAI開発を進める上で極めて重要なコンポーネントである。規制強化の噂が広がる中、中国の大手テック企業は今年第1四半期だけで推定160億ドル相当のH20チップを輸入し、備蓄を進めていたとも報じられている。

マール・ア・ラーゴでの接触と「投資約束」

業界内でH20への追加規制が間近と見られていた矢先、状況は一転したとされる。NVIDIAのJensen Huang CEOが先週、フロリダ州マール・ア・ラーゴで開催されたTrump大統領関連の高額な夕食会に出席。その直後、ホワイトハウスがH20に対する追加規制の計画を保留したと、複数の関係者が報じている。この規制案はすでに具体化しており、早ければ今週にも発表される段階にあったという。

この方針転換の背景には、NVIDIA側からTrump政権(またはその意向を汲む関係者)に対し、米国内での新たなAIデータセンターへの投資を約束したことがあると指摘されている。

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背景:国内投資を重視するトランプ政権の姿勢

Trump氏は大統領在任中から「アメリカ・ファースト」を掲げ、国内産業の育成と雇用創出を目的とした投資誘致に強い意欲を示してきた。半導体分野では、NVIDIAの主要サプライヤーである台湾のTSMCが、米国での大規模工場建設計画を発表している。

MicrosoftやOpenAI(SoftBank、Oracleと提携)なども巨額の米国内AIデータセンター投資計画を打ち出しており、大手テック企業が政権の方針に呼応する形で国内投資をアピールするトレンドが見られる。NVIDIAによる投資約束も、こうした流れの中で政権側の関心を引き、規制回避につながった可能性がある。

多方面への影響:NVIDIA、中国、米国政策

今回の規制見送りが事実であれば、各方面に以下のような影響が考えられる。

  • NVIDIA: 巨大な中国市場へのアクセスを当面維持できるため、短期的な業績への懸念は後退する。実際に報道後、同社株価は上昇した。しかし、米国の対中政策は流動的であり、将来的な規制リスクが完全に払拭されたわけではない。
  • 中国企業: 最先端ではないものの比較的高性能なH20チップの調達が継続可能となり、AI開発計画を維持できる。ただし、これは米国製チップへの依存が続くことも意味する。
  • 米国政策: 国内投資の確保という成果の一方で、先端技術の対中流出リスクへの対応という点では、政策の一貫性に疑問符が付く。一部議員からは「輸出規制の骨抜きだ」との批判も出ている。また、Biden政権下で強化された他の広範な輸出規制との整合性も問われる可能性がある。

さらに、輸出規制の策定・執行を担う商務省産業安全保障局(BIS)が、近年の予算削減や人員流出により体制が弱体化しているとの指摘もあり、規制の実効性自体への懸念も存在する。

今後の展望:不確実性の中の米中技術競争

今回問題となっているのは、輸入時に課される税金である「関税(Tariff)」ではなく、国家安全保障などを理由に、特定の製品や技術の他国への輸出・販売を制限する「輸出規制(Export Control)」であることには注意が必要だ。

NVIDIA H20 GPUへの追加規制は当面見送られた可能性が高いものの、これは恒久的な決定ではない。米中間の技術覇権争いが激化する中、政治情勢や安全保障環境の変化次第で、再び規制が強化される可能性は常に存在する。

NVIDIAによる米国内への投資約束の具体的内容とその履行状況、そしてそれが今後の米国の対中技術政策にどう影響していくのか。不確実性が高い状況下で、ハイテク分野における米中間の駆け引きは今後も続くと見られる。動向を注視する必要がある。


Sources

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