デザインプラットフォームCanvaが、同社史上最大の製品アップデートとなる「Visual Suite 2.0」を発表した。この大型アップデートでは、スプレッドシート機能「Canva Sheets」、AIコーディングアシスタント「Canva Code」、強化された写真編集機能などが追加され、Microsoft、Google、Adobeの各種ツールに匹敵する総合的なワークスペースへと進化を遂げている。
Visual Suite 2.0:生産性と創造性の融合
Canva Visual Suite 2.0は、これまで別々のツールで行われていたデザイン作業と生産性タスクを1つのインターフェースに統合したものだ。この画期的な新フォーマットにより、ユーザーはプレゼンテーション、ビデオ、ホワイトボード、Webサイトなど、あらゆるタイプのコンテンツを一つの場所で作成・編集できるようになった。
「異なるツール、断片化されたワークフロー、切り離されたファイルの必要性を排除」するというのがCanvaの狙いだ。これにより「計画から設計、配信まで、キャンペーン全体を一つのシームレスで協調的な空間で実行できる」としている。
Canvaはこれまでも2022年にCanvaドキュメントやCanvaホワイトボードなどのオフィススイートツールを展開してきたが、今回のアップデートでさらに機能を拡充。現在230万人以上のユーザーコミュニティに、より多くのオフィスチームやビジネスを取り込むことを目指している。
Canva Sheets:データとデザインの融合

Canva Visual Suite 2.0で最も注目すべき新機能の一つが「Canva Sheets」だ。これは従来のスプレッドシートに創造的なアプローチを加えたもので、テキストとビジュアル要素を自由に組み合わせることができる。
通常の行と列のセル構造を備えつつも、AIパワーを全面に活用している点が特徴的だ。主な機能としては以下が挙げられる:
- データインポート: HubSpot、Statista、Google Analyticsなど複数のプラットフォームからデータを直接インポート可能
- Magic Insights: AI駆動の機能で、データを自動的にスキャンして注目すべきパターンや重要なポイントを特定
- Magic Formulas: 複雑な数式をシンプルなテキスト入力で実行できる機能
- Magic Charts: 生データを様々なインタラクティブなグラフに変換し、インフォグラフィック、レポート、アニメーション化された視覚化を容易に作成
- 視覚的レイアウト: ドラッグ&ドロップのインターフェースでスプレッドシートをデザイン的に魅力的に
Canvaによれば、Canva Sheetsは「AI時代のために構築された」とのこと。従来のスプレッドシートの複雑さを排除しながら、データビジュアライゼーションの強力なツールを提供することを目指している。
Canva AI:会話型デザインアシスタント

Visual Suite 2.0のもう一つの核となる機能が「Canva AI」だ。同社が「会話型クリエイティブパートナー」と呼ぶこのAIアシスタントは、Canvaのすべての生成AIツールを1つのウィンドウに統合している。
空白のページで行き詰まったり、締め切りに追われたりしている時に力を発揮する。ユーザーは音声またはテキスト、さらには画像などのメディアを使ったプロンプトで、以下のようなタスクを実行できる:
- 画像の生成と編集
- デザインのリサイズ
- テキスト、スライド、画像の生成
- デザインアイデアの提案
- コピーライティング
- ドキュメント作成
この機能により、デザインプロセスが「会話のスピードで」進行する世界を実現。アイデアからデザインへの移行が、かつてないほどスムーズになる。
Canva Code:コードなしでインタラクティブなコンテンツを作成

「Canva Code」は、Gemini Code AssistやGitHub Copilotのような生成AIコーディングアシスタントだ。しかし、プログラミングの専門知識がなくても使えるように設計されている点が大きな特徴となっている。
ユーザーはテキストプロンプトを入力するだけで、ウィジェット、Webサイト、その他のインタラクティブなコンテンツを生成できる。Canvaによれば、「コーディングや外部ツールは不要」とのことだ。
Canva CodeはAnthropicと提携して開発されており、以下のようなインタラクティブな体験を誰でも簡単に作成できる:
- 教師による対話型学習ゲーム
- 栄養士によるパーソナライズされた食事プラン
- 小規模ビジネスによる対話型価格計算機
- カスタムウィジェットやツール
作成したインタラクティブコンテンツは、リンクとして共有したり、Webサイトやプレゼンテーションなどのデザインに埋め込んだりすることができる。
Canvaの共同創設者兼最高製品責任者であるCameron Adams氏は、TechCrunchに対して次のように述べている:「長年にわたり、私たちはチーム内で対話型プロトタイプの作成を奨励してきました。静的なモックアップでは、ユーザーのためにCanvaで作成しようとしている体験を真に表現できないからです。チーム内でプロトタイピングにAIを多用しているのを見て、これを外部化し、誰もが簡単にコーディングして対話型体験を作成できるようにしようと考えました」。
Photo Editor:AIパワーの写真編集
Visual Suite 2.0では、Photo Editorも大幅にアップグレードされている。Adobeが専門的なPhotoshopソフトウェアに導入したものと同様の機能が追加された形だ。
新しいPhoto Editorの主な機能は以下の通り:
- 背景ジェネレーター(Background Generator): 被写体をアップロードし、プロンプトを追加するだけで、4つの異なる背景オプションが生成される。照明、雰囲気、細部が考慮されたシームレスな背景だ。
- クリックによる背景オブジェクトの修正・削除: 背景にあるオブジェクトをクリックするだけで、自動的に修正または削除できる
- ポイント&クリック編集: 画像内の任意の要素をポイントするだけで、再配置、置換、削除、色の変更、サイズ変更が可能
これらの機能により、ユーザーはデザイン作業の流れを中断することなく画像を編集できるようになり、異なるツールやタブを行き来する必要がなくなった。すべてがワークフロー内で完結する。
Magic Studioの拡張機能:一括作業の効率化

Visual Suite 2.0では、既存のMagic Studio機能も大幅に拡張されている。特にCanva Sheetsとの連携により、以下のような新機能が追加された:
- Fill Empty Cells(空のセルを埋める): Magic Writeを活用して、カスタムテキストを大規模に生成。スプレッドシートの空白セルを一度にインテリジェントに埋められる。
- Translate(翻訳): ワンクリックで複数の言語に瞬時に翻訳。1つの列のエントリを取得し、別の列に異なる言語で配置できる。
- Bulk Create(一括作成): デザインの複数バージョンを一度に作成し、それぞれに独自のリンクを生成。各バージョンは新しい列に保存される。
- Magic Resize(マジックリサイズ): 大量のデザインを適切なサイズやフォーマットに変換。レイアウトの再設計や品質の損失なしに実行できる。
Canvaによれば、ユーザーはMagic Studioをこれまでに160億回以上使用しており、これらの新機能はスケールでのコンテンツ作成をさらに効率化するものだという。マーケティングキャンペーンから地域化されたコンテンツまで、大量のバリエーションを必要とするあらゆる場面で力を発揮する。
データの視覚化:Magic Charts
Visual Suite 2.0の重要な要素として、データ視覚化機能「Magic Charts」も注目に値する。この機能により、ユーザーは複数のプラットフォームからライブデータを連携し、インパクトのあるビジュアルに変換できる。
データを選択するだけで、Magic Chartsが自動的に最適なチャートタイプを推奨。データストーリーテリングを簡単かつ美しく実現できる。しかも、データが更新されれば、チャートも自動的に更新されるという利点がある。
Canvaの競合戦略
Canva Visual Suite 2.0の発表は、Microsoft、Google、Adobeというテクノロジー大手3社の機能を1つのプラットフォームに統合する同社の野心的な戦略を明確に示している。それはまるで、Microsoft、Google、Adobeができることをすべて単一のプラットフォームに詰め込もうとする試みとも言えるだろう。もともとマーケティングとデザインのプラットフォームとして知名度を築いたCanvaは、Visual Suite 2.0によって従来のオフィスアプリケーションにビジュアル志向のアプローチを提供することで、より多くのオフィスチームやビジネスを取り込もうとしている。
特に注目すべきは、AIの積極的な活用だ。Canva Sheets、Canva Code、Photo Editorなど、ほぼすべての新機能にAI機能が組み込まれている。これは、デザインツールをAIと統合する業界全体のトレンドを反映している。
一方で、アーティストからはAIデザインツールの普及や生成モデルのトレーニングに使用されるコンテンツについて懸念の声も上がっている。クリエイティブな仕事向けのソフトウェアを作る企業は、顧客の声に関わらず、AIをツールキットに組み込んでいるという。これはAIがいかに急速に重要性を増しているかを示すシグナルだと言えるだろう。
Canvaの共同創設者兼最高製品責任者であるCameron Adams氏は、AIとクリエイティビティの間の衝突ではなく、成長と機会の瞬間だと考えている。「AIの到来により、デザイン、製品管理、エンジニアリング、マーケティング、営業など、あらゆる専門分野で私たちの仕事が変わっていくと思います。各職種はAIツールから得られるサポートに適応して変化していくでしょう。私たちはそこに大きな機会を見ています」と彼は述べている。
Canvaが目指す未来
Visual Suite 2.0は、同社にとって「これまでで最大の製品発表」と位置付けられている。その主な特徴は以下の通りだ:
- 生産性とクリエイティビティの融合
- あらゆるデザインタイプを1つの場所で作成・編集できる統合環境
- AIを活用したスプレッドシート機能「Canva Sheets」
- プロンプトからインタラクティブなコンテンツを生成する「Canva Code」
- 強化された「Photo Editor」機能
- スケールでのコンテンツ作成を効率化する拡張Magic Studio機能
Canvaは2013年の創業以来、デザインを「シンプルで、楽しく、協力的で、真にアクセス可能なもの」にするという信念に導かれてきた。Visual Suite 2.0は、その信念を一歩進め、生産性とクリエイティビティを真に融合させる試みだと言える。
現在、Canvaは190か国以上で2億2000万人以上の月間アクティブユーザーを抱え、100以上の言語をサポートしている。Visual Suite 2.0を通じて、同社はデザインツールの枠を超え、Microsoft、Google、Adobeと競合する総合的なワークスペースプラットフォームへと進化を遂げつつある。新機能の試用を希望するユーザーは、Canvaのホームページから始めることができる。
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