Microsoftの旧版Outlook(Classic Outlook)で電子メールを作成する際、タイピングするだけでCPU使用率が最大50%に達するという深刻な不具合が報告されている。同社はこの問題を公式に認め、現在調査中であると発表。影響を受けるユーザー向けに一時的な回避策を提供している。
タイプするだけでPCが重くなる? 旧版Outlookの奇妙なバグ
複数のユーザー報告によると、旧版のOutlook for Windowsでメール本文などをタイピングしている最中に、CPU使用率が異常に高くなる現象が発生している。具体的には、タスクマネージャーで確認すると、CPU負荷が30%から50%にまで跳ね上がることがあるという。
この現象は、PC全体のパフォーマンス低下や応答性の悪化、さらには消費電力の増加を引き起こす可能性がある。特に、バックグラウンドで他のアプリケーションを実行している場合や、スペックが高くないPCを使用している場合には、顕著な影響が出るだろう。タイピングという、PC操作の中でも極めて基本的な、そして負荷が低いはずの行為でこれほどCPUリソースを消費するのは明らかに異常だ。
影響を受けるのは、以下のチャネルでOutlookのバージョン 2406 ビルド 17726.20126 以降にアップデートしたユーザーとされている:
- 最新チャネル (Current Channel)
- 月次エンタープライズチャネル (Monthly Enterprise Channel)
- Insiderチャネル
この問題は少なくとも2023年11月初旬からユーザーフォーラムなどで報告されており、一部のユーザーはスペルチェック機能やアドインの無効化、グラフィックアクセラレーションの停止などを試したが、解決には至らなかったという。
問題の背景と経緯
実はこの問題の報告は2024年11月頃から始まっていた。半年近く前のことだ。
ユーザーはソーシャルメディアやMicrosoftのコミュニティサイトなど、さまざまなオンラインプラットフォームで問題を報告していた。多くのユーザーがスペルチェック機能やアドインを無効にするなどのトラブルシューティングを試みたが、CPU使用率の問題は解決しなかった。
Microsoftは最近になってようやくこの問題を公式に認め、サポートドキュメントを公開した。これは6ヶ月近く問題が報告されてからの対応となる。Outlookのようなビジネス環境で広く使用されているアプリケーションとしては、異例の対応の遅さだろう。
この問題は最近のMicrosoft製品で発生している一連の問題の一部でもある。最近ではMicrosoft Teamsでファイル共有ができなくなる問題や、Office 2016で2025年4月のセキュリティアップデート後にWord、Excel、Outlookがクラッシュする問題が発生し、Microsoftは緊急アップデートをリリースする必要があった。
Microsoft公式の回避策
現在、Microsoftはこの問題に対する恒久的な解決策を開発中だ。それまでの間の回避策として、Semi-Annual Channel(半年ごとのアップデートチャネル)への切り替えを推奨している。Semi-Annual Channelではこの問題が観察されていないとのことだ。
一般ユーザー向けの回避策
【注意】 レジストリの編集は、誤るとシステムに深刻な問題を引き起こす可能性がある。以下の手順はMicrosoftが提示したものだが、実行する際は自己責任で行うこと。自信がない場合は、IT管理者に相談するか、修正アップデートを待つことを推奨する。
個人ユーザーがSemi-Annual Channelに切り替える手順(レジストリ編集):
- コマンドプロンプトを管理者として実行する。
- スタートメニューで「cmd」と検索し、「コマンドプロンプト」を右クリックして「管理者として実行」を選択する。
- 以下のコマンドをコピーし、コマンドプロンプトに貼り付けてEnterキーを押す。
reg add
HKLM\Software\Policies\Microsoft\office\16.0\common\officeupdate /v
updatebranch /t REG_SZ /d SemiAnnual
このコマンドは、OfficeのアップデートチャネルをSemi-Annualに設定するためのレジストリキーを追加するものである。
- Outlookを開き、アップデートを実行する。
- Outlookの「ファイル」メニューから「Officeアカウント」を選択する。
- 「更新オプション」をクリックし、「今すぐ更新」を選択する。
- これにより、Semi-Annual Channelへの切り替えと関連するアップデートが開始される。
組織のIT管理者向け:
組織内の複数のデバイスを管理するIT管理者は、以下の方法でチャネルを切り替えることができる:
- グループポリシーを使用
- Office Deployment Toolを使用
- Microsoft Configuration Managerを使用
- Intuneを使用
- Microsoft 365 Apps管理センターを使用
- Microsoft 365管理センターを使用
これらの方法の詳細な手順はMicrosoftの公式ドキュメントで提供されている。
ユーザー体験と実際の影響
このバグの影響は、特に高負荷の作業を行うユーザーや古いハードウェアを使用するユーザーにとって深刻だ。
ユーザー報告によれば、単にOutlookで「新規メッセージ」ウィンドウを開くだけでも、システムが顕著に遅くなる場合がある。最新のハイエンドCPUでも問題は解決しない。驚くべき報告として、i9-14900HXという最新の高性能CPUを搭載したシステムでさえ、メール作成ウィンドウを開いただけでCPU温度が95度(摂氏)を超えたという例もある。
多くのユーザーは様々なトラブルシューティングを試みたが、効果はなかった:
- グラフィックアクセラレーションの無効化
- スペルチェック機能の完全無効化
- すべてのアドインの無効化
これらの試みが失敗したことから、この問題はOutlookのコア機能に深く関連していることが示唆される。
特に重要なのは、この問題が単にパフォーマンスの低下だけでなく、バッテリー駆動のノートPCでは著しい電力消費の増加にもつながり、バッテリー寿命を短縮させる点だ。これはリモートワークが普及した現代において、特に重大な問題と言える。
技術的な分析と今後の見通し
この問題の正確な技術的原因はMicrosoftによって明らかにされていない。専門家の分析によると、テキストフィールドの処理方法に関連していると考えられている。
通常、現代のテキストエディタでは、入力中の文字の処理やスペルチェック、自動保存などの機能は最適化されており、CPU使用率が大幅に上昇することはない。最新のプロセッサーなら、テキスト入力程度の軽い処理で5%以上のCPU使用率になることはほとんどないはずだ。
しかし、この問題は特定のバージョンのアップデート(Version 2406 Build 17726.20126以降)で突然発生している。これは、テキスト処理のアルゴリズムに何らかの変更が加えられ、効率が大幅に低下した可能性を示唆している。
特に気になるのは、このような明らかな問題がどのようにしてMicrosoftの品質管理プロセスをすり抜けてリリースされたのかという点だ。基本的なタイピング操作でこれほどの負荷がかかるのであれば、通常のテスト過程で検出されるはずである。
Microsoftは現在調査中としているが、この種の問題の最終的な修正には通常数週間から数ヶ月かかることがある。Semi-Annual Channelに切り替えることは一時的な回避策として有効だが、それにより最新の機能や他のバグ修正がユーザーに届かなくなる可能性もある。完全な修正がいつ提供されるかについての具体的な情報はまだない。影響を受けるユーザーは、現時点では推奨される回避策を実施し、Microsoftの公式アナウンスを注視することをお勧めする。
Sources
- Microsoft: CPU spikes when typing in classic Outlook for Windows
- via BleepingComputer: Microsoft warns of CPU spikes when typing in classic Outlook